EX2 巧妙に話をすり替えられる
「夏になる前に、彼氏が欲しいの!」
クラスメイトの女生徒が揚々と言ったので、リリーは目をぱちぱちと瞬いてから見つめた。
「見て。これ。エステ」
魔法で出来た立体映像で広告を映し出す女生徒。
エステー!?と興味津々に皆覗き込む。
「あら。お値段意外と……」
フィアナは口を抑えて呟いた。
安い。
魔法都市ロマネストの住人はほぼほぼ研究気質で商売っ気がない。
エステ店も例に漏れずお安く、学生のおこずかいでも充分賄える金額だ。
「お姉ちゃんのお店だから信頼ばっちり。ねえお願いリリーさん、一緒に来て……!!」
えぇ、とリリー。
「だって、こんな所に子供が来て、って店に来てる客に思われたくない……!一緒に来て大人のオンナってやつを見せつけてやってよ!」
「お、大人のオンナ」
「お願い、どうしても制服が夏服になる前にオンナを磨いて、彼氏が欲しいのよ!」
「か、彼氏」
食い気味の女生徒に対し、リリーは少し引き気味に聞き入る。
「というか、リリーさんはどうやってヴィントさんとお付き合いはじめたの?」
「キスってどのタイミングでするの?」
「ねえ週に何回くらい────」
他の女生徒たちもこれを期に、と次々と質問を重ねる。
ぱん!とフィアナは両手を打って話を遮った。
「ちょっと貴方たち!下品でしてよ。与える情報が少ないのにも関わらず、一方的に引き出そうとするものではありませんわ!」
「ごめんなさいママ」
「誰がママですの!」
「許して番長」
「誰が何の長なんですの!」
ぎゃあぎゃあと言い合う少女たちにああどうしようとリリーはおろおろする。
「じゃあ──馴れ初めだけ教えて?」
騒ぎをかき分けた女生徒の一人が発言する。
リリーはえっ!と落ち着かなさげに……もじもじした。
おっ。これは。
有意義な情報が聞けるかも!?と皆居住まいを正してリリーの話に注目する。
「…………そ、その…………付き合い始めの時は……」
「時は?」
「あの時は…………」
「あの時は?」
「まだ家が壊れたてで、」
家が壊れたてで。
「家が壊れたてで!?」
「……どういう事なんですの!?」
「あっ、でもみんな仲良く暮らしてたよ?」
「仲良く暮らしてた、って何なんですの!?童話ですらおうちは全壊で教訓話か、ぴかぴかでめでたしめでたしで締めましてよ!?壊れたてって、何なんですの!?」
まあまあ、と他の女生徒が仲介に入る。
「壊れたてか壊れたてじゃないかはそう大事じゃなくて、あたしたち聞きたいのは馴れ初めを────……ごめん、何で家壊れたかそこから話してもらっていい?」
好奇心に勝てなかったらしい。
馴れ初めの話から家が壊れたての話にすり替わっている。
「ちょっと……みんな、話の途中でごめんね、」
ほんとごめん、また今度、とリリーは謝りながら皆の輪を抜けて駆け出した。
「あーいう……女子力かなあ」
休み時間、通りかかった恋人の姿を見逃さず。
すかさず駆け寄って行く。
何か会話を交わして笑う姿は、友人同士で会話する様子と少し違う。
「いいなあ、彼氏欲しい……」
ぼそっと呟いた女生徒の一人を皮切りに、まずはエステだ、おー!と意気投合して皆夏に向けて気合いを入れた。