こんなに何でもありでいいんですか?
1 魔界フリーホール
今日は月曜。
なので、猫と入れ替わり。
猫のプースケが職場に行って仕事をしてくれる。
なぜか、みんな(もちろん職場のみんなという意味な)、何も言わない。
プースケが俺である?ことに違和感感じないらしい。
プースケは帰ってきたら、俺に申し送りをする。しかも的確。わかりやすい。簡潔。なので、火曜の仕事(火曜以降は俺が仕事行く)への影響は全くない。
プースケが魔界から現れて早くも1年が経つ。
魔界から来たといっても見た目は普通の駄猫だ。日本猫だ。三毛猫だ。話すことはできない。にゃーと鳴く。よくこれで月曜の仕事が成り立つものだ。一回くらい仕事場のプースケを見てみたいものだ。しかし俺は月曜に会社に行けない。行けない体質なのだ。足が向かない。動悸が激しくなる。だから、働くプースケを見たことはない。
さてさて、プースケを職場に見送った俺。その俺は今日、何をしようか。
決まっている。何もしない。
いや、正確には、サブスクの動画サイトで何かは見る。でもそれは何もしないと同じだ。この意味、分かってくれる人は結構いるはず。
ということで、いつも通り、見たくもないサブスクを、何もやることがないので、仕方なしにダラダラと見入る。仕事にいかない罪悪感は消えない。消えたことはない。だから、人気のサブスクのアニメもドラマも面白いと心が感じてくれない。
人気の韓国ドラマを見流しているときだった。
ベットの下に魔界との入り口が開いた。そしてベッドごと魔界に落ちた。
なぜ魔界の入り口かというと、今は説明する時間はない。
なぜなら上空うん百メートルから地上に向かって落ちているから。無重力を感じる。
上から下に落ちる俺。昔から高いところは大の苦手だ。そんな俺に打つ手はない。
「カインが世話になったな」
隣に猫がいた。一緒に落ちている。
「カインが世話になっているので、何か礼をしないといけんとずっと思っておったんじゃ」
猫が喋っている。プースケと同じような駄猫が。
「あっと。カインというのはプースケな」
駄猫が言った。
雲を突き抜けた。
地面が見える。ぶつかる。
「もうダメだー」と俺はいう。
「全然おけ」駄猫はいう。
ふわり。
地面に激突するその瞬間に、急ブレーキがはたらく。でも慣性の法則に反して、実に柔らかく止まる。
そして、地面に二本の足で立つ。
「魔界へいらっしゃい」駄猫が言う。
「はぁーーーーー!?」俺は言う。
「そいじゃ魔界巡りといこうかい!!」
駄猫に空中浮遊であちこち連れ回されるうちに気づく。魔界といってもそこは真っ暗ではなく、雷が鳴り響いているわけでなく、不毛の大地というわけでもない。どちらかといえばカレンダーでしか見たことのないスイスのような感じ、と言ったら分かりやすいか。上手い食事、絶世の美女(もちろん人間ではない。でも俺の本能は上玉と認識)。駄猫のお礼は完璧だった。月曜だけど心から楽しめた。こんなことは今までない。仕事に行かない罪悪感が消えたことなど。
「さてと礼はこのくらいかの。あのダメ勇者のカインが魔王倒すの無理っつって地球に逃げてからどれくらい経つかの。1年くらいかの。それに見合った礼はしたつもりじゃ。」
十分すぎる礼であった。余は満足じゃ。
「しかしあいつはもうダメじゃ。ん? もちろんカインのことじゃ。もう勇者としての復帰は無理じゃ。あんなに地球の生活になじんでしまって。戦い方なんぞ全部忘れてしまったじゃろう。」
ふむふむ。聞き流す俺。脳内反芻真っ盛り。あのエルフのエリーちゃんは最高だった。日本の大人な店に言ったらいくら万札を取られるだろうか。
「そこでじゃ!!」
二桁万は取られるだろうなー。やべ。思い出したら◯ってきた。
「そなたに魔王を倒してもらいたい!!」
ここから悲劇が始まる。