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ほら、ホラー

作者: 恋する力士
掲載日:2022/09/10

 部屋の東側についている古いさびた小さな窓から、朝日が今日を告げにノックした。枕元のスマホを見てみると二度寝はできそうにもなく、渋々と体を起こす。洗面所にいって顔洗い、歯を磨く。今年の夏は暑くなるそうだが、まだ朝なのでエアコンをつけていなくても過ごしやすい。洗面台の上に小さくついた物置からいつものワックスを手に少しとり、髪をいじる。鏡で最終チェックをし、一番爽やかになりたいけれど、結局はいつもと変わらない自分の顔をみて、半分諦め、半分受け入れの気持ちをかき混ぜたら、もう遅刻寸前だ。テーブルの上のレーズンパンをすばやく手に取り、急いで玄関を出る。家から駅までそう遠くはなく、歩いて利用するのに全く問題のない立地だ。春に何件も不動産屋と物件をまわって苦労したかいがあるというというものだ。よかった、いつもの電車もまだきていないし、授業にも間に合いそうだ。電車が来て列の先頭の高校生が乗り込み、僕を含んだ後続がぞろぞろとついていく。そのようすは個々の集合体というよりかはむしろそれ自身が個である大蛇のようだ、と表現するのはいささか大袈裟だろうか。電車が発車する。今朝母からメールが届いていたのに気づき、メッセージアプリを開く。昨日、親戚の大叔母さんが亡くなり、今日通夜、週末の明後日、葬式があるから来て欲しいとのことだ。明後日はサークルの仲間と新作の映画を観にいく約束だったのだが、しかたない。憂鬱な気持ちで、入学式以来のスーツを頭の中でクローゼットから探す。



 2日後、葬式に出席するため大叔母さんの家に行った。大叔母さんはお金のやりくりが上手くちょっとした投資家だったと父から聞いたことがある。大叔母の家は想像以上に立派で驚いた。突然、おお!、という声と一緒に僕に気づいた親戚のおじさんがやってきて、話しかけてきた。おじさんは父さんの従兄弟にあたり、亡くなった大叔母さんの一人息子である。会うのが久しぶりすぎて中途半端な敬語で他愛もない話をしていると、そこに父さんが割って入りおじさんと久しぶりだのなんだのから昔話を始めたので僕はそっと下がり、家の中を探検することにした。



 隣向かいの部屋では親戚の子供たちがはじめましての挨拶をしていて、お互い照れ臭そうだ。さらに廊下を進み、右に曲がると大叔母のコレクションだろうか、山のような骨董品で埋め尽くされたそこそこ広い部屋があった。部屋には1つの窓もなく正直、不気味な場所だった。その中に一際目をひく、大きくて立派な鏡があった。ヨーロッパ風のデザインでうねるような金色の波模様が鏡を取り囲んでいた。すごく綺麗だと素直に思った。見た目はよくある鏡なのにどこか異様で呪術的な雰囲気を放っていた。縁のところをなぞるように軽く片手で触れてみると、長い間掃除がなされていなかったのだろうカビ臭い埃が手につき、もう片方の手ではらう。鏡に映る自分の頭をみて、垂れてきた髪の毛を巧みに操り、整える。すると、自分の右目の当たりからたれるように黒いすすのような汚れが付いているのに気づいた。古い家だからなにか触った時に手についてその手で顔に触れてしまったのだろう。ワイシャツの裾で顔をぬぐい、部屋を出ようとすると顔の汚れが全く取れていないのに気づいた。2、3回ふいてみるがとれない。しかたないから洗面所に行って水で軽く洗ってみようと思い部屋の外に出て、長い廊下に戻る。左に曲がるとトイレと洗面所、風呂場があった。洗面所のうっすら赤茶色にさびた蛇口をひねると勢いよく水がでて、慌てて少ししめる。手を軽く濡らし顔を洗おうとして、洗面台の鏡をみる。ところが、鏡に映る自分の顔をのぞくと、すでに汚れは跡形もなくとれていた。不思議に思ったが、少し考えて、あの部屋の光の加減のせいでほとんど汚れてもいなかったのだろうと思い、蛇口をしめて外に出る。そして母さんの呼ぶ声についていくと葬式がまもなくはじまった。



 後日おじさんと別の用事で電話をしたとき、鏡のことについて聞いてみた。ところがそんな鏡は知らないし、おそらく鏡自体が1枚もコレクションにはないはずだといった。詳しく鏡の特徴を伝えるとおじさんは不思議がっていった。

「ああ、もしかして額縁のことじゃないか。あの額縁は確か大叔母さんが外国で手に入れた絵を入れていたんだがな、その絵を買ってから何人も使用人が勝手にやめていってしまったことがあったらしくてな。その絵がよっぽど高かったのが使用人の気に障ったのではないかと彼女は言っていたが。しかしそういうのは給料をもらってからやめるもんなのに給料日の前に辞めていったりしたやつもいたそうでな。と思いきや給料日のあとにやめるやつもいたそうだが。まあ、その絵はどうも縁起が悪いんで売り払ってしまって、残った額縁だけはあの部屋にしまってあったということらしいが…」

 僕は次の法事で大叔母さんの家に行った時、おじさんとあの部屋に行ってみた。相変わらず鏡は鏡で僕はおじさんにほれみろと言わんばかりの視線を投げかけた。おじさんは聞いていた話以上のことはわからないし、大叔母さんもボケかけてたんじゃないかと適当に答えて、部屋を出て行ってしまった。





 1人部屋に残って鏡を眺めていると突然、ブレーカーが落ちたのか部屋が真っ暗になった。

 真っ暗になった部屋で電気が付くのをまっていると、ふいに突然誰かに手を引っ張られ、僕は床にしりもちをついた。おじさんが戻ってきておどかしたのかと思ったが、おじさんが入ってくる気配もしなかったし、いる気配もしなかった。おじさんを呼ぶが返事がない。


 すると、電気がついて部屋が明るくなった。おじさんが僕の名を呼びながら部屋に入ってきて、僕もそれに答えたがおじさんはどうも僕に気づいていない。


 悪ふざけかと思ったその矢先、僕は部屋の配置が全て線対称に入れ替わっていることに気づいた。


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