8 勇者君、魔王城を探索する
執務室を飛び出したルークは、魔王城の内部を探索する。
実は以前から魔王城の中を調べて脱出の手立てを探っていたのだが、最近はすっかりさぼり気味になっていた。
もうあいつには付き合っていられないと、久しぶりに脱走計画を進めることにしたのだ。
まずはこの文様。
これを何とかしないといけない。
トイレで鏡の前に立ち、スカートをたくし上げて自分のへその下に刻まれた文様を確認する。
禍々しいハートマークをかたどった邪悪なそのマークは、ルークの肌を黒く染めるように刻み込まれていた。
これがある限り、魔王城からは出られない。
あれこれ試したが、この文様が刻まれてから勇者の力は使えないし、呪文も唱えられない。
普通の男の子になってしまったのだ。
「はぁ……」
ルークはひとり、ため息をつく。
勇者の力を手に入れた時、まるで夢を見ているかのようだった。
自分が特別な存在になれたと感じた。
勇者の力は、ある日突然として目覚める。
それまで普通の男の子として生きて来た彼は、気まぐれで殴った大岩を木っ端みじんに砕いたことで、驚異的な力を手にしたことに気づく。
人々から勇者と認められた彼は、救世主として祭り上げられる。
特別なことは何もしていない。
ただ普通に農村で生活していただけ。
両親も、兄弟も、姉妹も、村の皆も、ルークの覚醒を喜んでくれた。
13歳で隣村へ嫁に出されたあの子も、わざわざお祝いに来てくれた。
他人の家に嫁いだあの子が自分のことのように喜んでくれて嬉しかったけれど、何処か物悲しい気分になっていることに気づく。
将来彼女と結婚するものと思っていたので……。
やめだ、やめ!
ルークはたくし上げたスカートを戻す。
この服装にもすっかり慣れてしまった。
最初はスカートに違和感を感じていたし、女性ものの下着を身に着けるのも嫌だった。
でも今はこの服を着るのに抵抗がなくなってしまっている。
早く……早く、魔王城からでないと……。
このままでは本当にメイドになってしまう。
ルークはトイレから出て、探索を再開する。
魔王城は五つのブロックに分かれている。
中央の本丸を取り囲むように建つ四つの砦。
砦と本丸には連絡通路が通されており、直接移動できるようになっているが、砦と砦の間に連絡通路は存在しない。
そのため、砦から砦へ移動するには、いちど本丸に戻る必要がある。
全部探索するにはかなり時間がかかるのだ。
ルークは今まで行ったことのない砦へ向かった。
そこには大勢の召使たちが出入りしているらしいが……。
「ふ~ん、特に変わったところはないなぁ」
独り言をつぶやきながら廊下を歩くルーク。
その砦の廊下には絨毯などは敷かれておらず、調度品も見当たらない。
最低限度の証明と、最低限度の設備。
いったいここは何だろうか?
不思議に思っていると何処からか楽しそうな歌声が聞こえてくる。
どうやら大きなホールに大勢の人が集まって、何かイベントを行っているらしい。
その部屋を覗いてみると……。
「え? 何だよこれ……」
ルークはわが目を疑った。