3 メイドのお仕事は大変です
ルークは魔王の身の回りのお世話を一通りこなしている。
着替えの準備、シーツ交換、毎食の配膳。
そして一番大切な役割は……。
「勇者ぁ! 膝枕ぁ!」
「……はいはい」
うんざりした様子でベッドの端に腰かけるルーク。
魔王はいきおいよくベッドに寝そべって、彼の膝の上に頭を乗せる。
魔王の髪の毛はふさふさだ。
新緑を思わせる深い緑色のロン毛。
立派な角が二本生えている。
角がルークに刺さらないように配慮しつつ、彼の生足の上に後頭部をそっと置く。
「ふむ……良い眺めだ」
見上げるとルークのシャープなあご。
髭なんて一本も生えていない。
無垢なままの少年の顔を真下から眺めることができる。
「なぁ……髪の毛がくすぐったいんだが」
「少しだけ我慢しろ。
それともうつぶせになって、
すべすべの肌に顔をすりすりしてもいいか?」
「勘弁してくれ……はぁ」
勇者はため息をついた。
彼がここへ来て一か月ほど。
最初は色々と抵抗を試みたルークだが、もうすっかり諦めている。
それもこれも、全ては魔王が施した呪いが原因。
ルークのへその少し下に、ハート形をかたどった文様が刻み込まれている。
この文様は対象者の行動を制限し、無理やりそれに逆らおうとすると死をもたらす恐ろしい呪いだ。
万が一ルークが反逆行為を取れば、即座に死に至らしめる恐ろしい力を持つ。
何度か逃亡を試みたルークではあるが、その文様の力によって途中で力尽き、魔王城を警備しているパートのオークのおばちゃんたちによって捕らえられてしまった。
彼女たちにかかれば、文様の力で弱り切った勇者を捕まえるなど朝飯前。
子育てをしながら仕事もこなす彼女達には頭が下がる思いだ。
数度にわたる逃亡の失敗により、勇者の気力は完全に萎えてしまった。
今はこうして、魔王の専属メイドとして働いている。
たまーに憎まれ口をたたく時もあるが、そこもまた可愛さのうちの一つ。
魔王はたまらなくルークを愛している。
「なぁ……」
「んだよ、魔王」
「なでなでしてくれない?」
「ええっ?」
頭なでなでを要求すると、ルークは眉を寄せて怪訝な表情に。
しかし……嫌がってはいない……と思う。
「いいから早く」
「くっそっ……分かったよ」
優しく魔王の額をなでるルーク。
彼の手はまるで陽だまりのように暖かい。
「ふふふぅ……ルーク」
「は?」
「呼んでみただけ」
「……殺すぞ」
殺すという言葉を吐きながらも、額をなでる手を止めようとしない。
魔王はますます彼のことが好きになった。