2 ルークくんは専属メイド(♂)
「おい、ルーク。お茶」
魔王が言うと、ルークは心底嫌そうな表情を浮かべる。
「お茶くらい自分で入れろよ!」
そう文句を言いながらも、素直に魔道ポットから急須にお湯を入れるルーク。
魔王はそんな彼の後姿をまじまじと眺める。
ルークはメイド服を着ている。
もちろん女性用だ。
一般的なデザインだが、スカートの裾は膝丈より少し短いミニスカート仕様。
少し下から除けば下着が見えてしまう。
彼の生足は実に綺麗で、毛が一本も生えていない。
何故なら毎日手入れをさせているからだ。
すね毛も、腕毛も、下の毛も、つるつるになるまで自分で処理させている。
拒否すれば拘束魔法で無理やり動けなくして魔王がやるので、目下のところ大人しく言いつけを守っているようだ。
さすがに……最初のはやりすぎたな。
消化器官系の最終部に生えた産毛を残らず引っこ抜いたのが効いたのだろう。
以来、彼は逆らうことなく毛を剃っている。
服の上からでは分からないので、毎朝のチェックも欠かせない。
魔王の目の前に立たせ、服を着ていない状態にしてチェックしている。
もちろん手など触れてはいけない。
そんなことをしたら規約違反で世界が終わる。
全身のムダ毛を残さず剃った勇者の肌は、まるでゆでたての卵のようにツルツルだ。
ほっぺを押し付けてすりすりしたい。
……が、さすがにそれはしない。
魔王にも良識というものがあるのだ。
「ほら……お茶」
お盆の上に大きな湯飲み茶わんを乗せ、ルークが目の前まで歩いてくる。
玉座に座った魔王は、顎でしゃくってサイドテーブルを示す。
最近買った介護用品。
側近がそろそろ介護認定を受けたらどうかと言ってきてうるさい。
このサイドテーブルもお試しで勝手に持ってきた品なのだが……。
高さが自在に変えられるので重宝している。
ルークは無言でお茶を置いた。
「おい、勇者」
「……んだよ」
「今日のパンツは何色だ?」
「……青」
この問答は毎日のルーティーン。
ルークには当然のように、女ものの下着を履かせている。
魔王的にこれは絶対に譲れないのだ。
「なぁ……こんなことして何の意味があるんだよ。
どうして男の俺なんかに……」
その質問、何度目?
心の中で突っ込む魔王。
勇者は自分がメイド服を着せられ、女ものの下着を履かされ、魔王城で雑用をさせられている現状に疑問を抱いているようだ。
まぁ……無理もない。
本来なら殺して魔物の餌にするところなのだが……。
「ただの趣味だ。前にも言ったろう」
「本当にタダそれだけかよ?
別の目的があるような気がしてならないんだが」
そう言って、じっとりとした目で魔王を見つめるルーク。
その視線……たまらねぇな。
もっと意地悪したくなるぞ、おい。
「それと、なんで服や下着は女ものなのに。
髪の毛は元のまんまにさせるんだよ。
カツラとかかぶせた方がそれっぽいんじゃないのか?」
「ほぉ、本気で女装に目覚めたか?」
「いや……そう言うわけじゃ……」
困惑気味に顔を背けるルーク。
彼の髪型は、ここへ来た時のまま。
ぱっと見た風貌は男の子に見える。
服は女もののメイド服ではあるが、男の子らしさを完全に消したわけではない。
これは、魔王のこだわりである。
メイド服を着せ、髪を伸ばし、女の子の容姿に近づけることはできる。
しかし、それでは興がそそられないのだ。
男の子は、男の子の姿のまま、メイド服を着せる。
これが魔王にとって絶対に譲れないこだわり。
何人たりとも否定させぬ。
「ただの趣味だ、そう解釈してくれ」
「この首輪も、あの入れ墨もか?」
そう言って自分がつけている首輪を指で引っ張るルーク。
彼の髪の色と同じ、赤い色の革製ベルト。
ペットがつけるようなデザインのやつ。
「その首輪は余に絶対の服従を誓う証。
入れ墨はその証明と枷。
貴様が裏切れば死ぬ呪いを込めてある」
「……ちっ」
舌打ちしながら顔を背けるルーク。
一瞬だけ泣きそうな顔をしていた。
……めっちゃ可愛い!