『友達』
「すごかったね、花火」
花火大会の後、ぞろぞろと歩く人混みに紛れながら、瑞貴が感動未ださめやらぬ様子で目をきらきらと輝かせながら言う。
「あ、ああ」
匠は気のない返事を返す。
「特に最後の仕掛け花火がねー…って、ちょっと、聞いてんの?」
瑞貴が、ぼんやりしている匠に気づき、訝しげな声を上げる。
「あ? あ、ああ…で、何だっけ?」
「…ったく、何ぼーっとしてんの?」
「い、いや、何でも…」
そう言いながら、匠はいつ、何処で言おうか、などと言うことを考えていた。
「ちょっと、匠!?」
立ち止まった瑞貴にも気づかないまま、ふらふらと歩いていこうとする匠の腕を瑞貴がつかんで止める。
「どうしたのよ、匠。さっきの事、怒ってんの? 言いたいことあるなら、はっきり言いなよ!」
瑞貴はしっかりと匠の目を見据え、きっぱりとそう言い放つ。その澄んだ瞳が、匠にはつらかった。
「べ、別に…」
匠は、耐えられなくなって目をそらしてしまう。
「匠、あたしたち、友達じゃない。気に障ったんなら、謝るから」
「…ち、違うよ…」
「友達」という言葉が、胸に痛い。
(…どうしてそんな風に『友達』なんて言えるんだよ…おまえ、俺のこと何とも思ってないのか? やっぱ、そうなのか…?)
「じゃあ何? ねえ、匠、こっちを見てよ!」
瑞貴の寂しそうな目が、匠の心を締め付け、それに耐えきれなくなった匠は目をそらしたまま、ゆっくりと口を開く。
「…お、俺達…もう三年目だし…周りは、色々あっても普通だって言うし…」
だが口をついて出てくる言葉は、匠自身にも意味がよく分からないものだった。
「?」
キョトンとした顔で、瑞貴が匠の方を見る。ふと顔を上げた匠と、その目が合った。
匠は、不意に『自分の気持ちを伝えたい』という欲求が抑えきれないほどにこみ上げてくるのを感じ、気が付いた時にはもう言葉があふれ出していた。
「…お前の事、…好きなんだ!」
言ってしまってから後悔した。しばらくの沈黙が流れる。匠は怖くて瑞貴の顔がまともに見られなかった。
「…な、何だ、そんなこと? 今更、何言ってんのよ。あたしだって、好きだよ」
ややあって、瑞貴がそう答える。
驚いた匠は顔を上げた。瑞貴が、微笑みながらこっちを見ている。だが、その笑顔がどことなくぎこちないもののように思えたのは、匠の気のせいだったのだろうか…。
「だ、だって、好きでもない奴と友達になんかならないでしょ? 普通」
どうも、瑞貴の言っている「好き」という言葉の意味が、匠のそれとは少し違っているようだ。
「えっと、あの…」
一体、なんと言うべきか。匠がまごついていると、少し離れたところで浴衣姿の千夏が泣きべそ顔で歩いているのが目に入った。
「千夏!?」
「お、お兄ちゃん!?」
匠に気づいた千夏は、泣きべそ顔のままだーっと走り寄ると、匠にすがってしくしくと泣き出した。
第6話(全8話)
HP
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