改札
改札の前で待っていると、いつものジャージ姿とは似ても似つかない茶色と灰色のチェック柄ワンピースに身を包んだ中島さんが来た。
軽く手を振り、合図する。
「ごめん、遅れた」
「いや、全然待ってないから大丈夫です」
「カフェに居たとかなんとか・・・」
「10時から数えたらたった2分ですよ」
朝、鏡の前で練習してきた100点満点の笑みを浮かべる。自分ではこれが100点なのだ。妹にユウキ変な顔してるねと言われたことは忘れた。
「結局行先ってどうなってるんです?」
「実は、お花畑が見たかったんだ」
それは三途の川的な意味?行きたいの? みたいなボケが喉元まで来たが、全力で飲み込んだ。
なるほど、この人はヒロトと同じタイプだ。どこか尖っていて、しかも一部の人にしか心を開かない。そんな人付き合いスキルを母親のおなかの中に置いてきたタイプなのだ。
「そ、それが女同士だと頼みづらいことですか」
「少女趣味って訳じゃないの。私、花畑にきれいなものときれいじゃないものがあると思ってたの。だけど、現実はどの花畑もきれいらしいし、それを言うと周りから変な目で見られた。もしかしたら、この目が原因なんじゃないかなって」
話が見えてこない。ヒロトみたいに性癖まで知った仲であれば言わんとすることが分かるかもしれないが、会話の輪郭が見えないのだ。
「とりあえず移動しませんか。花畑ってことは山之上庭園ですよね。多分」
「そう」