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心の声が聞こえる俺は隣から聞こえる好きに困っている  作者: ときたま@黒聖女様


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デートのお誘い ②

 私が沢山メッセージ送ってあげるよ、と言われたのは俺の幻聴だったのか。いやいや、そんなことはない。ちゃんとこの耳で聞いたしこの目ではにかんだ姿を捉えていたことが記憶に新しい。

 にも関わらず、明日を土曜日に控えた今晩まで伊波さんからのメッセージは一度もこなかった。学校では普通に話しているのにだ。


 別に、伊波さんからのメッセージが欲しいとはこれっぽっちも思っていない(本当に)が、家で何かあったのかと心配になる。伊波さんの家庭環境はいたって良好であるだろうし、仮に何かあっても踏み込んでいい訳でもないのだけど。

 それでも、一応友達だし何かあったら助けるつもりでいた。


 しかし、彼女の心の声を聞いているとそんな心配が無駄であるかのような理由でメッセージが送られていなかった。


 ――いざ、鈴木くんにメッセージを送るとなると何を送ればいいのか分からないよ~!


 とのことだ。ここ数日の間、授業もそっちのけでずっとそんなことを隣から聞かされ続けた。やれやれだ。


 ――文字を打つのは打てるんだよ。でも、送信の文字だけがタップ出来ないの!


 誰に言い訳しているのやら。


 ――そ、それに、鈴木くんからメッセージ送って欲しいし……待ってるだけじゃダメ、ってことは分かってるけど……やりすぎは失敗するから。


 そんなことを聞かされ続けたら、俺も待ってるだけって訳にはいかないだろ。


 そういう訳でコンビニ弁当を食べ終えた後に伊波さんに何かメッセージでも送ろうかと考え、スマホと向き合ったのだが。


「う~ん、マジで何を送ればいいのか分からないな……」


 スマホと向き合って既に三十分が経過している。


 そもそも、俺がメッセージのやり取りや電話を苦手としているのにはちゃんとした理由がある。


 誰も共感してくれはしないだろうが、相手の心が読めないからだ。


 そんな、極当たり前のことのせいで俺は気軽にメッセージや電話でのやり取りを苦手としている。


 心が読める、ということは本当に便利で不便なのだ。うるさくて迷惑なことであっても内容を知っている、ということは面倒事を避けられるのだ。単純に言うならば、渋滞に常にあわずに行動出来る、と想像してくれたら分かりやすいだろう。


 しかし、心の声が分からないメッセージや電話はどこで失敗を犯すか分からない。

 だから、あまり得意ではないのだ。


 流石に、初メッセージで晩ご飯何食べた、はダサすぎるよな……かといって、綺麗事は何も思い浮かばないし。


「もう、これでいいや……」


 結局、今何をしてるか、というどこにでもありふれていて便利なメッセージにした。


 腕を伸ばし、謎の一服をしているとすぐに既読のマークがつく。

 それから少しして、何故だか電話がかかってきた。

 相手は当然、伊波さんだ。


『び、びっくりしちゃったよ~』

「驚かせてごめん」


 今、驚かされているのは俺の方だけどな。


『う、ううん。鈴木くんが悪い訳じゃないから』


 手を勢いよく振って否定しているであろう姿が脳裏にちらついて思わず笑ってしまった。


『どうしたの?』

「いや、何でもない」

『変な鈴木くん。あ、そうだ。忘れてた』


 ごほん、と小さな咳払いが一つ聞こえた。


『こんばんは』


 律儀だな、と思わず苦笑する。


「うん、こんばんは」


 なんか、これ。


『……えへへ、夜に挨拶するのってなんか不思議な気分だね』


 そう、妙に胸の中がくすぐったいんだ。体も気のせいか、少しむず痒くなってきた気がするし。なんだ、これ。


「確かに……いつもはおはようだからかな」

『そ、そうかも!』


 それっきり、何を話せばいいのか分からなくなった。


 そもそも、伊波さんが何かしていることから話題を考えようと思っていたし、ノープランなんだ。心の声は聞こえないし……どうしよう。そもそも、どうして電話をかけてきたんだ?


「あのさ、どうして電話なんて――」


 そう聞こうとした時、スマホを通して明るい声が聞こえてきた。


『何々~? 誰と電話してるの~?』

『ま、ママ!』

『あ、もしかして、最近よく話してる男の子? その反応は当たりね!』


 どういう反応を伊波さんがしているのかは見えないがなんとなく、真っ赤になっているであろうことが想像できる。

 てか、伊波さんのお母さん明るいな。


『だ、黙っててよ!』

『ママも挨拶しようか?』

『し、しなくていいから!』

『ふふ、むきになっちゃって~』

『も、もう、余計なこと言わないで。私、部屋に戻るから!』


 ドタバタと忙しなく動いていることが分かる。リビングから自室へと戻っているのだろう。


『頑張って、デートに誘うのよ~!』


 急いでそれを遮断するように扉が大きな音を立てて閉められた。それから、わざとらしく行われる咳払いを数回、耳にした後、


『なんか、ごめん……』

「いや、大丈夫だから」

『鈴木くんからメッセージ貰えたのが嬉しくて……思わず電話かけちゃったんだけどママがいるってこと忘れてた……』


 おーい、伊波さん!? それは、心の中だけに隠しておきたいやつなのでは!?


「そ、そうなんだ」


 そんなこと素直に言われてもどうしたらいいのかこんな返事しか出来ないぞ?


『あ、鈴木くん何か言いかけてなかった?』

「なんで、電話してきたのかなって……」

『……その、鈴木くんの声が聞きたくて……迷惑、だった?』

「いや、そんなことない、けど……驚いたっていうか」

『わ、私だって、鈴木くんからメッセージきてびっくりしたんだからね! 用件もよく分からなかったし……どうしたの?』

「いや、特に用件はなかったというか……折角、交換したし何かやり取りした方がいいのかなと思って」


 どうして、俺の方がこんな女々しい言い訳をつらつらと並べないといけないんだ。そもそも、伊波さんがメッセージ送るって言ったのに送ってこないからこうなってるのに!


 枕に頭を埋めたくなっているとクスクスと笑い声が聞こえてきた。


「どうかした?」

『ううん、私とおんなじだな~って』


 そりゃ、コミュ障同士ならこうなることくらい分かってただろ。


『あ、あのね。さっき、ママに言われたからじゃないんだけどね……明日って暇だったりする、かな? その、で、デートなんかじゃないんだけど……鈴木くんと遊びたいっていうか出かけたいっていうか……こ、この前、結局お詫びって出来なかったから……』


 最後の方は蚊が泣くような消え入りそうになりながら伊波さんは伝えてくれた。


「うん、暇だよ……休日はいつも暇してる」

『ほ、ほんと!? じゃ、じゃあ――』

「うん、出かけようか」

『う、うん! じゃあ、待ち合わせとかはメッセージで送るね。バイバイ!』


 そうやって、一方的に電話を切られた。

 恐らく、失敗などはしていない……はずだけど、やっぱり、彼女が何を思ったのかは気になるところだ。


 しかし、そんなことよりも今一番気にしないといけないのは明日のことだろう。


「伊波さんの一生懸命さにやられたけど……俺、女の子と休日に出かけることって初めてだぞ……」


 結局、この後、明日のことを考えるのに多大なる時間を費やすことになった。

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