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心の声が聞こえる俺は隣から聞こえる好きに困っている  作者: ときたま@黒聖女様


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13/36

ほんの少しだけ前に進んでみた ①

 中学一年生の秋、俺は一人の女の子を好きになった。

 その子は所謂いじめられっ子だった。


 きっかけは本当にたまたまだった。

 以前から、いじめられていることは知っていたし誰が実行しているのもかも全て知っていた。周りが見て見ぬふりをしていることも全部分かってた。


 俺もその内の一人だった。

 正直に言えば、能力を使えば未然に防げることもあったし、タイミングさえ合わせればいじめっ子の犯行を先生に目撃させるようにすることも出来た。

 けども、しなかった。


 自分には関係のないこと。

 いじめられるということはいじめられる側にも原因があるだろうから。

 そんな、関わらなくて済むような建前を自分に言い聞かせ、正当化して無視していた。


 そんな、ある日のことだった。


 この能力のせいで身体能力さえも良くなったと過信していた俺はサッカーでキーパーをしていた。

 相手はサッカー部。

 けども、どこに蹴ってくるかは筒抜けだ。

 だから、絶対に止められる。そんな自信があった。


 しかし、ボールの速さと勢いは考えていた以上で、結果として、顔に直撃することになった。


 一瞬、世界が回っているかのような錯覚を覚え、気付いたらボタボタと鼻血を垂れ流していた。


 当然、すぐに保健室に行きなさい、と言われ保健委員に付き添われ連れていかれた。

 その子が件の彼女だった。


 彼女は居なかった先生に代わり、一生懸命ケガの治療をしてくれた。


 素直にお礼を口にすると彼女はさぞかし当然だからと笑った。


 その時はそれだけだった。


 それ以降、彼女は大丈夫かと数日おきに聞いてくるようになった。

 自分はいじめられているにも関わらず。

 ケガなんてとっくに治ってるにも関わらず。

 彼女はただ、心配の一心だけで聞いてくれた。


 そんな彼女が俺は凄いと思った。

 優しいと思った。

 いじめられていいわけないと思った。


 そもそも、彼女がいじめられるようになった原因は元々いじめられていた子を庇ったことからだった。


 そんな優しい彼女を俺は助けたいと思った。


 だから、片っ端からいじめを潰していった。


 靴の中に画鋲を入れられていたら捨てて、変わりにいじめっ子の靴の中に同じことを仕掛けた。

 どこかに連れていこうとするならば、必ずその場所に先回りして何も出来ないようにした。


 そうやって、いじめなんて下らないことをしないようにまるまで……ストレスの行き先が俺に向けられるまで……何度も何度も繰り返した。


 そして、数日もすれば無事に矛先は俺に向いていた。

 色々仕掛けられた。

 けども、全部それを回避し続けた。

 むしろ、同じような目に遭わせた。


 やがて、いじめは人知れず静かに終息した。


 見返りを求めていたわけじゃない。

 でも、どこかで勘づいたのであろう彼女は何度も何度もありがとうと泣きながら言ってきた。


 そんな彼女を見て、俺は自分がヒーローや英雄にでもなったつもりになった。

 そして、彼女のために何かしたい。彼女を守りたい。勝手にもそう思って、気付いたら恋愛感情を抱いていた。


 彼女が困っていたら然り気無く手を差し出して助けた。

 ありがとうと笑顔で言われる度に嬉しくなって俺はまた頑張った。


 彼女に少しでも近づきたくて。

 彼女に少しでも好きになってもらいたくて。


 そして、その結果。抱かれたのは全くの別物だった。


 ――どうして、いつも私が考えていることが分かるの?

 ――どうして、いつも私が行く先で待っているの?

 ――怖い。嫌だ。近づいてほしくない。気持ち悪い。


 俺は気付いていなかった。

 この能力は良いようにも悪いようになるんだということを。


 俺は自分に酔っていた。

 この能力があれば俺は何でも出来るんだと。何でも手にすることが出来るんだと。


 でも、現実はそんなに甘くない。

 知って良かったことも、知らなくて良かったことも、何でも知ってしまうこの能力は決して万能なんかじゃないことを学んだ。


 それ以降、彼女には近づかず、誰とでもより一層一線を敷くようになった。

 関わらないとこんな気持ちにならずに済むから。

 関わらないとあんな気持ちにさせずに済むから。



 俺は伊波さんに対してどうするべきなのか改めて考えた。

 彼女に嫌われることは未だに叶っていない。

 それどころか、どんどん好きになられている。


 ――今日は昨日のハンカチをありがとう、って返して。また、一緒にお弁当食べようって誘うんだ。今日も作ってきたし……鈴木くんに食べてもらいたい。


 何も知らない伊波さんは教室に入ってくると真っ直ぐこちらに向かい、席に座ってから笑顔を浮かべた。


「おはよう、鈴木くん」


 そんな彼女に対して俺は、


「ああ、うん」


 とだけ、手短に返事して机に突っ伏した。


 ――い、今、避けられた……?


 避けた。避けたよ。だから、そのまま嫌いになってくれ。


 ――な、なーんてね。優しい鈴木くんがそんなわけないよね。今のは眠たくて機嫌が悪かっただけ。昼休みまで機会はいっぱいあるんだし今は寝かせてあげよう。話しかけてウザがられても嫌だもんね。それにしても、鈴木くんって家では何をして過ごしてるんだろう。気になるな~。


 ……っ、どうしてそうポジティブにしか捉えないんだ。とっとと嫌いになってくれ。伊波さんには俺なんかより、よっぽど似合う人がたくさんいるんだから。


 検索して出てきた嫌われる方法は頭に入っている。

 俺はそれを、実行することにした。

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