中垣内がデートを楽しんでくれたようで何よりだ
さて、月と季節も変わり、6月つまり夏になった。
そして6月1日土曜日はバイトが終わったら、中垣内とのデートをする日だな。
おれは中垣内にSNSメッセージを送る。
『今日のデートの待ち合わせだけど、津田沼駅で13時15分でいいかな?』
『うん、それでいいよー』
『りょうかい、じゃあ今日はよろしくな』
『こっちこそ』
今日はホテルでのビュッフェディナーなどもあるし、フォーマルとまではいかなくてもカジュアルエレガンス程度には品のある服装の方がいいかもなぁ。
などと考えながら俺は弥生ちゃんに選んでもらった私服コーデでそろえて家を出て、パティスリーへ向かう。
「おはようございます」
王生さんは今日も早くからケーキや焼き菓子などの仕込みをしていた。
「おはようございます。
あら?
今日はずいぶんとおめかしをしてきていますね」
「あはは、バイトが終わったらクラスメイトとデートなんで」
「なるほど、それだとおしゃれにも気合が入りますよね」
「そうなんですよ」
おそらく中垣内も気合入れてくると思うんだけどな。
そして、オープンの少し前に白檮山さんが出勤してくる。
「おはようございまーす」
「おはようございます。
白檮山さん」
「いや、本当に先週の日曜日は助かったよ」
「いえいえ。
ああ、よさげなものがあったら俺にも読ませてもらえますか?」
「おお?
もちろんいいよ。
ただ好みのカプが合わない気がするけどね」
「まあ、そこまで考えなくても大丈夫ですから」
「りょーかい」
それから13時まで働いたら今日は上がり。
俺と入れ替わるように出勤してきた新發田さんはやっぱりめっちゃ眠そう。
「おはよう、新發田さん。
あいかわらず銃剣にはまってるみたいだね」
俺がそういうと新發田さんが目を輝かせて言う。
「はい、やっとSIG-510も手にはいったんですよ」
「ああ、銃器系も手に入るようになったんだ」
「なかなか長い道のりでした……」
「まあ、さらにコンプしようとすると先は長いんだけどね」
「ええ、そうなんですよね」
「まあ、ほどほどにね」
「あはは、そうですね」
まあそんな感じでバイトは終わり。
なので俺は津田沼駅に向かう。
そして中垣内はやっぱり先に来ていたしめっちゃおしゃれをしていた。
「お待たせ、やっぱり先に来てたか」
「べ、別に待ってないし」
「ああ、それならいいんだけど。
じゃ、まずは有楽町のプラネタリウムに行こうか」
「うん」
総武横須賀線の快速電車で東京まで移動し、山手線に乗り換えて有楽町へ電車移動で45分くらい。
駅で降りて銀座口より徒歩3分の有楽町マリオンの中にあるコニカミノルタプラネタリア TOKYOへ向かう。
「こんな東京のど真ん中にプラネタリウムがあるのね」
「ああ、意外といえば意外だよな。
あ、今日見るのはこっちのドーム2のほうだ」
「あ、うん、じゃあ行きましょ」
で、ドーム2の14時50分開始のショーを見るためにドームの中に入る。
ここは特別なプラネタリウム体験をより特別に演出するプレミアムシートである『銀河シート』があり、二人だけ星空を楽しめるペアシートへむかう。
「ここで見るの?」
「ああ、なんか特別感があっていいかなって思って」
「う、うん、そうだよね」
「なんかいい匂いがするね」
「ここはアロマを焚いてるんだよ。
そういうのにもいろいろ気を使ってるみたいだね」
都会のど真ん中とは思えない、静かでリラックスできるムードだ。
「ちょっと……距離近くない?」
「まあ、ペアシートってこんなもんなんじゃない?」
上映内容は「銀河鉄道の夜」の映像と星空の映像が切り替わって時折解説が入っていくもの。
「なかなか悪くないよな……中垣内、って寝てる」
中垣内は隣ですやすやと寝息を立てていた。
「まあ、寝かしておいてやるか……」
1時間ちょっとほどの上映時間が終わっても中垣内は寝落ちしたままだった。
「おーい、上映時間終わったぞー」
「ん……えっ?」
「おはよう、よく眠ってたな」
「うー、女の子の寝顔見るなんて悪趣味だよ」
「ん?
かわいい寝顔だったぞ?」
「そ、そういうことじゃなくってぇ」
「まあ、終わってるし外へ出ようぜ」
「あ、うん、そうだね」
俺たちはプラネタリウムドームの外へ出た。
「今食べると夕食ビュッフェに影響も出そうだし、このまま有楽町をちょっと見て回ってから、ホテル山茶花荘にむかうか」
「う、うんそれでいいよ」
有楽町と言えば有名なのは帝国劇場、東京宝塚劇場などの劇場と歌舞伎座だが演劇や歌舞伎を見ているほど時間に余裕はないので「歌舞伎座ギャラリー」の屋上庭園で日本の歴史ある庭園を見て歩き、日本茶喫茶で、お茶を飲んでのどを潤しながら少し時間をつぶしてからホテル山茶花荘へ向かう。
地下鉄メトロ有楽町線の有楽町駅から江戸川橋駅へ移動は電車で10分ほど。
あとは徒歩でホテル山茶花荘へ。
「すみません本日予約した秦と申しますが」
「あ、はい、ではここに記名をお願いします」
「はい」「はい」
記名をしたらホテルへ入る。
都会のオアシスと賛えられる山茶花荘は、まるで森のような見事な庭園でよく知られていて、敷地内には史跡が点在し、中には有形文化財として登録されているものもある。
庭園にはきれいな湧水が流れ、野生の生きものも住んでいるが、蛍は人工飼育されたものだ。
「思ってたよりすっと綺麗な場所……だね」
「鳥のさえずりや虫の声を普通に聞けるって、乙なものだよな」
「うん」
日が暮れれば初夏に舞い飛ぶ蛍たちの饗宴が見られる。
「この橋は弁慶橋っていうんだけど、今飛んでるのがゲンジボタル。
ヘイケボタルは6月中旬以降だけど光の強さがゲンジボタルの方がきれいだって言われてる」
俺がそう説明すると中垣内はうれしそうに笑いながら言った。
「本当ホタルの光がきれいだね」
「だろ。
今じゃなかなか蛍なんて見れないからな」
「うん、勉強を頑張ったかいがあったよ。
ありがとね」
「ん、中垣内が楽しめたなら何よりだよ」
とデートは成功だったんじゃないかな。
あ、ちなみにビュッフェもうまかったぜ。




