中垣内はちょっと無防備なところがあるんだよな
さて、習志野市立中央図書館は近隣の市川市や船橋市の中央図書館に比べると、一般開架は多くはないが、大学生などの専門的なレベル、それこそ研究レベルでの利用でなければ、特に問題になるほどでもないのだが施設としてはかなり古いため近々建て替えとなるらしい。
現状だと利用者はそこまでは多くはない感じだな。
そして中間試験の基本五教科の模擬テストも無事終わったが、中垣内はだいぶぐったりしているようだ。
「んあー疲れたー」
「どうした?
そんなに疲れたか?」
俺がそう聞くと中垣内は苦笑していった。
「うん、かなり集中してやったこともあって結構疲れたよ」
「そうか……なら少し頭とかののマッサージでもしてみるか?」
俺がそういうとぎょっとした顔で中垣内は言った。
「んえ?
マッサージって……前みたいに痛いのは嫌だよ」
「んー、そんなに痛くはならないと思うけどな。
ふくらはぎの時はそんなに痛かったか?」
「あれは正直かなり痛かったよ」
「そうか、それはすまん。
今度は気を付けよう」
「じゃあ、やさしくやってもらおうかな」
「んじゃ、背筋を伸ばして椅子に座ってくれ」
俺がそういうと中垣内は椅子に座りなおした。
「ん、わかったよ。
よいしょ」
「じゃあまずは鎖骨のリンパをマッサージずるぞ」
「んえ?
鎖骨?」
「ああ、人間の頭や顔の部分の老廃物は最終的に鎖骨に集まっているリンパから血管に入るんだよ。
この部分が張っていたい場合は、リンパの滞りが起こっている証拠なんだ」
俺はそういうと中垣内の鎖骨のくぼみのところに指をそろえて置き、あまり力を入れず左右同時に外から内への円運動を行い、リンパを流す。
「ん……ふう、ちょっと痛いね」
「やっぱちょっと張ってるな」
「そ、そうみたいだね」
「これで疲れがだいぶ取れやすくなったはずだ」
「そういわれてみるとそうかも?」
「んじゃ、次は首の横際のリンパをマッサージしていくぞ」
「うん」
俺は首の骨の上部のくぼんでいる辺り指を置き、首の後ろから前に向かって軽く押して行く。
「ん……」
「どうだろう?」
「ちょっと痛いけどそれが気持ちいかも」
「ん、なら大丈夫だな」
そんな感じで耳の前後や髪の生え際などのリンパ流しも行い、こめかみの筋肉を軽くさすってやる。
「ひゃん、そこは結構痛いんだけど?」
「あー、そうなると結構目が疲れてるのかもな。
こめかみとか目の下の鼻の脇のあたりは目の疲れに効くツボがあるんだけどそこを押されて痛いなら」
「まあ、ずっと問題用紙とにらめっこしてれば、目もつかれるよねぇ」
「まあ、そうだな」
そんなことを俺は中垣内と話していたが、なんか周りが”このバカップルめが””図書館でいちゃつくんじゃねえ”という目で見ているような気がすることにいまさら気が付いた。
まあよく考えたら異性の鎖骨周辺や、首筋を触るというのはかなり親しくなきゃやらないか。
風俗店員をしていた時は店長や比較的仲のいい風俗嬢は気軽にやってもらいたがっていたからあれだがその方が普通じゃないんだろうな。
本来的には頭・肩・手などは触れられてもいやだと不快には感じにくい場所なのだが。
「うう、なんか恥ずかしくなってきた」
と中垣内が言うので俺は苦笑しつつ答える。
「じゃあ、今日の勉強会はこれで終わり。
入浴時に自分でもリンパマッサージをやると一層効果的だぞ」
「う、うん、じゃあ家に帰ったらやってみるよ」
まあそんな感じで図書館を出た。
「そういえば中垣内ってどこに住んでるんだ?」
「ん、私は隣駅の実籾の北口だよ」
「ああ、あの辺りは静かで過ごしやすそうだよな」
「買い物にはちょっと不便だけどねー」
「まあ、それは俺もおんなじ感じだからわかるわ」
という訳で京成大久保駅で俺たちは別れる。
「じゃ、またな」
「うん、ありがとね。
テストが終わった後のデート楽しみにしてるから」
「お、おう。
楽しんでもらえるようにするよ」
笑顔でそういう中垣内は小さく手を振って反対側ホームへ移動していった。
前からちょっと思っていたが、なんか中垣内はちょっと無防備なところがあるんだよな。
いや、それがかわいいともいえるんだけど。




