これ以上はがつがついかずにしばらく様子を見ようか
さて、新發田さんもピクシズの投稿作品に感想が無事についたことで、だいぶ喜んでいるようだ。
だが、ここでもうちょっと仲良くなりたいと、さらにがつがついくのはおそらく逆効果だろうな。
それにそんなに焦らなくても新發田さんが好みの作品が何なのかを知るのは、ピクシズのフォローユーザーの作品傾向などでおおよそ推し量れるだろう。
オタク系の人間は、あんまりなれなれしくされるのは好まないし、あちらから何らかの相談をされるまでしばらくは待っておこうかな。
南木さんについても、これ以上、俺が強引に行くのは好ましくない気がする。
基本的には同性である女性とのコミュニケーションに慣れてもらう方が優先だしな。
後は中垣内をいつ、俺たちのグループの人の輪に入れるかなんだが……これももう少し様子を見るべきだろう。
となるとしばらくは、あちらこちらの様子をみて、どうするべきかひたすら考えたりする必要はないかな。
しかしまあ、ボッチというのは周りがどう考えるかは別としてすっげー楽だったとつくづく思う。
見た目だけでもリア充でいようとすると、めちゃくちゃ行動力や観察力に気配りといったことをし続けないといけないから、体力と神経を消耗し続けるんだよな。
そんなことを考えていたら中垣内が俺の席にやってきた。
「ねえ、ちょっといいかな?」
「ん、いいけど、どした?」
「もらった”翔んでけ千葉”のチケットが二枚あるんだけど、今週の日曜日一緒に見にいかない?
そろそろ公開終わっちゃうからもったいないし」
「え、あのなかなかに千葉ディスがひどいって噂の ”翔んでけ千葉”?」
「そうだよ」
「あ、ならぜひ見たい……ちとまてよ」
俺はスケジュール手帳を見直してみたが、今週の日曜日は弥生ちゃんと靴を買いに行く予定をすでに入れていた。
「うーん、ちょっと日曜日は予定入れてるんだ。
けど、それは午前中で終わるかもしれないから、ちょっと待っててくれるか?
確認する」
「あ、うん」
という訳で俺は弥生ちゃんへSNSでメッセージを送る。
『今、大丈夫?』
『大丈夫だよー』
『日曜日に靴を買うのって午前中で終わるよね?』
『うん、大丈夫だと思うよ』
『あ、それならよかった』
『それはどうして?』
『友達に映画にさそわれたんでさ』
『そうなんだ』
『なんで午後はそっちの用事入れても大丈夫かな?』
『大丈夫だよー』
『ごめんね、いずれ、バイトの金が入ったらちゃんとお礼と埋め合わせはするから』
『じゃあ、あんまり期待しないで待ってるよー』
『そこは期待してくれよな、じゃあ』
『じゃね』
という訳で午後は大丈夫だな。
「ん、俺の用事は午前中で終わるから、午後なら大丈夫だぜ」
俺がそういうと中垣内は笑顔になった。
「うん、じゃあ午後にらららぽーとで」
「ああ、どうせ午前中はそこで靴を買ってるからちょうどいいな」
「え? 靴?」
「ああ、昨日私服で出かけたら東雲さんに靴が服と合ってなくてだっさーいって言われたんでさ」
「ふ、ふーん、誰かに連絡入れてたのは一緒に行く人?
お母さんとか」
「ん、私服を買ったときに選んでもらったんだけど弥生ちゃんと一緒に買い物する予定」
「え?!
その弥生ちゃんて……あんたの彼女?」
なんかこのパターンは前にもあったような気がするな。
「違う違う、弥生ちゃんは大学一年生の従姉だよ。
小学生の頃はよくお互いの家を行き来して遊んでたけど中学になって疎遠になってたんだ」
「ふーん」
「まあ、いろいろあってお母さんセレクトの私服じゃ外に出れんという訳で、俺に合うおしゃれな服を選んでもらったんだよ。
悲しいことに俺にはファッションセンスはないからな」
「そういうことなんだ。
何ならあたしがあんたに合いそうな洋服、見てあげようか?」
「いや、今は正直金がない」
「ああ、靴だけで精一杯ってことね」
「そういうことだよ。
じゃあ14時に北口のバス停前で待ち合わせでいいか?」
「うん」
そういうと中垣内は笑って自分の席に戻っていった。
その様子をみて東雲さんがニタニタ笑いながら言った。
「秦ぴっぴは今度の日曜日の午前中はいとこのお姉さんとショッピングデート。
午後はクラスメイトと映画館デートですか。
やっぱタラシっしょ」
「別に誑し込んでないってば」
俺はそう言うが西海枝さんや南木さんは、なんか不機嫌そうだ。
「ほんとに秦君は節操がないですよね」
「わ、私もそう思います」
どうしてこうなった?




