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パティスリーの仕事なんて風俗に比べれば精神的には全然楽なものだ

前回のあらすじ:未経験の新人バイトは掃除を頑張るしかない

 さて、初日はお客さんが来たら”いらっしゃいませ”と”ありがとうございました”の挨拶をし、合間の掃除や業務用小麦粉の袋など重量物の運搬で終わった。


「お疲れさまでした。

 バイト初日はどうでしたか?」


 王生(いくるみ)さんがそう聞いてきたので俺は答える。


「思ってたよりも、力仕事が多くてちょっとびっくりしましたけど、面白いと思います」


 俺がそういうと王生(いくるみ)さんがほっとした表情で言った。


「そうですか。

 それはよかったです」


 そして白檮山(かしやま)さんが店長の王生(いくるみ)さんをジト目で見ている。


「やっぱり、ちゃんと話しておかないとだめですよ。

 パティスリーの仕事は意外と体力勝負だってことを」


「あはは、確かにそうね」


 王生(いくるみ)さんがごまかすように笑ったが、まあ確かに軽い気持ちでバイトを初めて、あの小麦粉の袋とかを運ばされたらちとつらいと思うかもな。


 特に女の子は。


 そして王生(いくるみ)さんは俺に聞いてきた。


「明日は朝9時に出勤して、お掃除をしてほしいのですが大丈夫ですか?」


王生(いくるみ)さんは何時から店に入るんですか?」


「私は7時からですね。

 10時のお店のオープン時間には商品のスイーツを全部、陳列できるように作るため、それくらいの時間には仕込みをしないといけませんし」


「なら俺も7時に来て大掃除をしますよ」


「え、いいんですか?」


「俺、掃除してピカピカになった様子を見るの大好きなんで」


「じゃあ、ぜひお願いしますね。

 あ、これ型崩れしてお客さんへはだせない物なので食べてください」


 と王生(いくるみ)さんはメロンのショートケーキを出してくれた。


「ありがとうございます。

 じゃあさっそく……美味い。

 ラムなんかの酒や砂糖が少なめで、卵なんかの風味が生きてる感じがするのがいいですね」


「うふふ、お酒をあまり使わずに素材本来の味が楽しめるようにしているんです。

 作るときも機械をあまり使わないようにすることで、手作り独特のぬくもりや温かみのある味わいが出るようにしてるんですよ」


「すごいこだわりですよね」


「お客様の笑顔のためですね。

 そうすればお客様が戻ってきてくれますし」


「ああ、それは大事ですよね」


 こういった業種はリピーターの獲得が何より大事なのだ。


 新しいお客さんを捕まえるのは大変だからな。


 しかし、17時を過ぎたら翌日の仕込みを開始して、閉店時間になったらお店を閉め、店内の清掃や片付けをし、従業員の翌日のシフトを作成し、予算の見直しと収支の確認をしたりしないといけないんだからオーナーパティシエは大変だ。


 俺が風俗の仕事をしていたときは、17時から翌朝5時の12時間が基本的な拘束時間だが、それに加えて朝の送迎があり、そこで渋滞に巻き込まれると、最悪の場合店に戻れるのが7時とか8時の時もあったからなぁ。


 さらに誰かが休みの日は朝9時から翌朝5時までの通しシフトだったりもする。


 さすがに早番遅番が重なる17時から19時とかに睡眠はとれるが、通しシフトはめちゃくちゃしんどかった。


 そりゃあ眠気で事故死もするわ。


 そして翌日。


「おはようございます」


 俺は約束通り7時の15分ほど前にお店に顔を出した。


「あ、おはようございます」


「7時から仕込みなんて大変ですね」


「いえいえ、7時は比較的暇なときに遅くともこの時間からという時間で、連休やクリスマス、ハロウィン、バレンタインデー、ホワイトデーなどのイベントのある繁忙期は、こんな時間じゃ間に合いませんよ」


「個人経営だとそういう時だけ臨時にパティシエを雇うとかもできませんしね」


「そうなんですよね」


 王生(いくるみ)さんはそんな感じで、当然のように先に来ていたが、オーナーパティシエって大変なんだな。


 まあここにかぎらずパティシエは、1日で15時間ほど働いているのも珍しくはないらしいけど。


 昨日と同様に手洗いや粘着シートで衣服の糸くずや髪の毛、埃などを取って、ショーケースの外側ではなく、ショーケースの中の掃除から取り掛かった。


 やることは外側を磨いた時と同じ。


 そして掃除を終えればピカピカになったが、このショーケースに色とりどりなケーキが並べられると思うと嬉しい。


「うし、こんな感じだな」


 次は店の外側のガラスを洗車ブラシでホコリを取り、その後水拭きし、スクイーザーで水を切ってから、マイクロファイバークロスで仕上げの乾拭きをする。


 これで店の外から中を見たときに、一層綺麗に見えるはずだ。


 そして店内のトイレ掃除もしてこちらもピカピカにする。


 そんな感じでショーケースや窓ガラス、トイレなどを掃除していたら、焼きあがったケーキをもって王生(いくるみ)さんが厨房から出てきた。


「あら、すごくきれいになっていますね。

 これはありがたいです」


「やっぱりピカピカにするって気持ちいですよね」


「これでお客さんもきっと気持ちよく過ごせますね」


 そして白檮山(かしやま)さんも出勤してきた。


「おおー、窓がピカピカだしショーケースも。

 これはすごいですね」


「おはようございます。」

白檮山(かしやま)さん、今日もよろしくお願いしますね」


「はい、こちらこそ」


 そこで王生(いくるみ)さんが白檮山(かしやま)さんへいう。


「今日から彼にケーキや洋菓子の種類と、イートインのメニューを覚えてもらいましょう」


「そうですね」


「え、それはまだ早くないですか?」


 俺がそういうと王生(いくるみ)さんがにこりと笑って言った。


「いえいえ、仕事ができる人にはどんどん仕事を覚えていただきますよ」


 そして白檮山(かしやま)さんも言う。


「どのケーキがどんな味で、材料に何が使われているか覚えないといけませんからね。

 アレルギーを持っている方も多いです、これは大事ですよ」


「確かにスイーツはアレルギーの原因になる食材を使ってる場合が結構多いですからね」


 パティスリーのバイトは覚えることが多くて大変だがたのしいな。


 風俗の時と違って売れたケーキを売れないケーキが恨めしそうに見たりすることもないし、愚痴をひたすら聞いてうんうんうなずき続けないといけないこともない。


 風俗の場合は商品が女の子だから、なかなか仕事が付かないと空気がどんどん悪くなっていくのを肌で感じたからな。


 パティスリーの場合でも、空気が悪い職場もあるらしいけども、ここは空気もいいしパティスリーの仕事なんて風俗に比べれば精神的には全然楽なものだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 無駄(?)に風俗業界の知識が身について素晴らしい小説ですね( ◜ω◝ ) 更新楽しみにしています!
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