新發田さんの書いてきた小説は定番だが女性には受けそうだ
さて、みんなでやった物理の勉強では、東雲さんに問題集の中で落下するものをスマホから俺に変えられてしまったが、まあそのおかげでみんなが勉強しやすくなったようなので良しとしよう。
そして翌日の金曜日だが放課後はパティスリーでのバイトだ。
学校が終わったので、俺はパティスリー”アンドウトロワ”へ向かう。
「王生さん、おはようございます」
俺がそう挨拶すると王生さんはフフッと笑った後に言った。
「はい、今日もよろしくお願いしますね」
「しかし、もう夕方なのにおはようございますっていうのもなにか変な気もしますね」
俺がそういうと王生さんはフフッと笑って言う。
「”おはようございます”というのは”お早くからお疲れ様です”という意味合いなので、自分より早く仕事についている人に対してのねぎらいの言葉だったようですから問題ないのですよ。
なので、その日初めて顔を合わせるときは”おはようございます”でそれ以降は”お疲れ様です”でいいと思います」
微笑みながらそういう王生さんだが、そんな使い分けが必要だったのか・
「なるほど、日本語って難しいですね」
そして白檮山さんも来ていた。
「白檮山さんもお疲れ様です」
白檮山さんさんはニッと笑うと俺に言った。
「はいはい、秦君もお疲れ様だよ。
実際に学校で勉強してからだと疲れるよね」
白檮山さんの言葉に俺はあいまいに笑って答える。
「確かに学校帰りのバイトはちょっと大変ですが、王生さんは朝から晩までずっと働いてるわけですからね。
それに比べれば大したことないですよ」
俺がそう言ういうと王生さんも言う。
「まあ、私はオーナーですし自分のお店をつぶさないためには最大限やれることをやらないといけませんからね。
それに働くのは楽しいですし、暇なときには休憩もしていますから」
そんな話をしていると新發田さんがお店にやってきた。
「こんにちはー」
俺は新發田さんにも挨拶をする。
「はい、いらっしゃいませ。
今日もお客さん?」
俺がそう聞くと新發田さんは、コクっとうなずいて、イートインコーナーの椅子に腰を下ろした
「はい、今日もお客さんですよ。
今日のおすすめはなんですか?」
「今日は旬のグロゼイユとピスタチオのショートケーキとグロゼイユのタルトだね」
俺がそういうと新發田さんは首をかしげて言った。
「グロゼイユってなんですか?」
俺はその質問に答える。
「グロゼイユは日本では赤スグリって呼ばれているフルーツだね。
ヨーロッパでは盛んに栽培されていて、スイーツ以外でも果実酒やジャムとかでも使われるポピュラーなフルーツらしいよ。
果実酒だとカシスが黒スグリだから仲間だけどスグリはいろいろ種類があるみたいだね。
もっとも生だとすっぱくて食べるのにはきついらしいけど、スイーツに使うとグロゼイユの甘みと酸味のあるさわやかさは初夏にピッタリらしいよ」
「なるほど。
じゃあ、それでお願いします。
飲み物は甘いアイスミルクティーで」
そういう新發田さんに俺は冗談めかして言う。
「承知いたしましたお嬢様」
俺はショーケースからグロゼイユとピスタチオのショートケーキとグロゼイユのタルトをとり、アイスミルクティーをティーカップに注いでトレイに置き戻る。
「お待たせいたしました。
本日のおすすめです」
そういってケーキと紅茶をテーブルへ置く。
「わ、彩も華やかですごくおいしそうですね。
いただきます」
そういうと新發田さんはケーキを食べはじめた。
その横で笑いながら白檮山さんが言う。
「そういえば先週話していた小説はどうなったのかな?」
新發田さんは苦笑していう。
「あ、一応一万文字くらいで書きあがってるんですけど……」
と新發田さんはタブレットを取り出し、テキストエディターを開いて俺にスマホを渡してきた。
「とりあえずお話のおちはついているので、読んでみてもらえますか?」
俺はうなずいてタブレットを受け取り、ざざっと書かれているものを読んでいく。
物語りのあらすじとしては主人公は審神者候補として育てられた女性だが、優秀な双子の姉にコンプレックスを持っていた。
そして両親も姉が審神者として選ばれるものだと決めつけ、妹である主人公への扱いはぞんざいだった。
しかし、精神と技をこめて造られた銃や剣が人の形をとった付喪神である蜂須賀虎徹に選ばれたのは妹の方だった。
時間遡行軍を率いて歴史に介入し、改変しようと目論む歴史修正主義者との戦いに赴く妹と銃剣男士に姉が聞く。
なぜ優秀な私ではなく妹の方を選んだのか?と。
そして蜂須賀虎徹は答える。
それがわからぬからお前は選ばれなかったのだ、と。
神である彼らにとって、より神格の低い審神者は、自分たちよりも下の存在でり多少の能力の差よりも、精神性が大事なのであった。
というもの。
ざっと物語りを読んでみてから俺は言う。
「うん、この手の話としては王道の”シンデレラ”だし、女性には受けがいいんじゃないかな?」
俺の感想を聞いて新發田さんは照れたように少し顔を赤くしていった。
「えへへ、よかったです」
そして俺の次に読んでいた白檮山さんも肯定的だった。
「うん、”スパダリ”ものとしては王道だよね」
スパダリとは、”スーパーダーリン”の略だがたしかにそうかもしれないな。
「二人がそういってくれてちょっと自信が持てました。
そうしたらこれを漫画にしてみますね」
新發田さんがそういうので俺はうなずく。
「うん、できたらまた見せてもらえるかな?」
俺の言葉に大きくうなずく新發田さん。
「はい、ぜひ」
イラストをかけて小説も書ける。
こういうのも一種の才能だよな。