新發田さんは確実にオタ沼に踏み込んでるな
さて、翌日の金曜日は、放課後にバイトのある日だ。
学校が終わったので、俺はパティスリー”アンドウトロワ”へ向かう。
「王生さん、おはようございます」
俺がそう挨拶すると王生さんはフフッと笑った後に言った。
「はい、今日もよろしくお願いしますね。
あら? 今日は珍しく一人ですか?」
まさか王生さんにまでそんな風に思われていたとは。
「えええ、俺って、王生さんからも、そんな目で見られているんですか?」
王生さんはもう一度フフッと笑った後に言った。
「ええ、しかも毎回違う女の子ではないですか。
私としてはお得意様が増えるのでありがたいですが」
その言葉を聞いて俺は首を傾げた。
「あれ、俺がいないときにも女の子たち来てたりするんですか?」
俺の言葉にに王生さんはうなずいた。
「ええ、それ以外にも動画を見たという方も来てくださってます。
なので、夏で売り上げが落ちる時期ですが、昨年に比べればあまり落ちていませんね。
常連さんが増えて、本当に助かっていますよ」
そして白檮山さんも来ていた。
「白檮山さんもおはようございます」
白檮山さんさんはニッと笑うと俺に言った。
「うん、おはよー。
まあ、彼はいろいろとマメですからね」
白檮山さんの言葉に王生さんはうなずいて言った。
「ええ、そうですね。
開店前の掃除や仕込みなどは嫌がる人も多いですが、彼は嫌がらずに丁寧にやってくれますし、お店の宣伝もしてくれていますしね」
そんな話をしていると新發田さんがお店にやってきた。
「こんにちはー」
俺は首を傾げた後新發田さんに聞いた。
「あれ、今日のシフトに新發田さんは入ってたっけ?」
俺がそう聞くと新發田さんは、苦笑しながら首を振って、イートインコーナーの椅子に腰を下ろした
「いえ、今日はお客さんですよ。
今日のおすすめはなんですか?」
ああ、そういうことか。
王生さんがさっき言ってた通りだな。
「今日は旬のアメリカンチェリーのタルトとレアチーズケーキかな?
飲み物は甘いアイスミルクティーあたりがいいかも」
「じゃあ、それでお願いします」
そういう新發田さんに俺は冗談めかして言う。
「承知いたしましたお嬢様」
俺はショーケースからアメリカンチェリーのタルトとレアチーズケーキをとり、アイスミルクティーをティーカップに注いでトレイに置き戻る。
「お待たせいたしました。
本日のおすすめです」
そういってケーキと紅茶をテーブルへ置く。
「わ、おいしそうですね。
いただきます」
そういうと新發田さんはケーキを食べはじめた。
その横で笑いながら白檮山さんが言う。
「そういえば最近は銃剣乱舞はあまりやってないのかな?
前は眠そうにしてたけど、最近はそういうことはあんまりないし」
新發田さんは苦笑していう。
「そうですね。
大体銃剣士はそろえてしまいましたし、それにやることが単調なのでちょっと飽きてしまいました」
その言葉に白檮山さんも苦笑しながら言う。
「まあ、ソシャゲってそういうものらしいしね」
新發田さんはその言葉にフフッと笑ってから言う。
「でも、銃剣乱舞はいつ中断して、いつ再開してもいいゲームですから、気が向いたらやってますけどね。
今はむしろイラストを描いたり、二次創作の漫画や小説を読んでる方が多いです」
白檮山さんはうなずいて言った・
「なるほど、そういう方に進んじゃったか」
そんなことを話している二人は楽しそうだ。
そういえばある漫画のセリフに”オタクはなろうと思ってなったもんじゃねぇから、やめることもできねぇよ”というセリフがあったが、確かに足を踏み入れるきっかけはあるんだけど、気が付いたらいつの間にかなっているものではあるよな。
そして新發田さんは続けて言った。
「そしてそういうものを読んでいると、自分でも書いてみたくなるんですよね」
それに対して白檮山さんは笑って言う。
「なら書いちゃえばいいんじゃない?」
しかし、新發田さんは少し考えた後で言う。
「でも、私は漫画も小説も書いたことがないので……」
それに対して俺は言う・
「どんなことでも最初はあるし、とりあえず書いてみればいいんじゃないかな?
漫画のほうが難しい気がするからまずは小説からでも」
俺の言葉を聞いた新發田さんは、やはり少し考えた後で言う。
「確かにそうですね。
でもいきなりサイトに投稿するのは怖いので、書きあがったら秦君が読んでみてくれますか?」
俺はうなずいて言う。
「もちろんいいよ。
最初から長いお話を書こうとするのは難しいから、短めでちゃんと結末が分かる話とかのほうがいいかもね」
新發田さんはうなずいて言う。
「なるほど、確かにそうかもしれませんね」
そして白檮山さんもいう。
「秦君が読み終わったあとでいいから私にも読ませてね」
新發田さんは嬉しそうに言った。
「はい、ぜひお願いします」
まあしかし、二次創作に手を出し始めるとは……新發田さんは確実にオタ沼に踏み込んでるな。