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最初を挫いたら話が変わった乙女ゲー世界

乙女ゲーの王子に転生した彼の推しは悪役令嬢だった。

@短編その55

もう俺は、ノベルとかゲームとかアニメとか漫画とか大好きだった。

乙女ゲーからノベル化した『エターナルマジェスティ・王子と聖女の純愛』が愛読書だった。

ここに出てくる悪役令嬢、コーラリエ・ホッブズ公爵令嬢が、大好物だった。

ユーザー人気も、ヒロインよりも彼女の方が大人気、キャラソンやグッズもたくさん出た。買った。

俺が稼いだ給料は、彼女に貢いだ。

彼女を溺愛するばかりに、3次元の女に魅力を感じなくなってしまった。大変な弊害だ。

つんとして誇り高いのに、本当は寂しがりやで甘えん坊。公爵家という高位貴族だから、頭を下げることが出来ないのだ。

意地っ張りなところも可愛い。


愛しい愛しいコーラ。君がボンクラ王子に冷たくされる所を、俺達コーラリエ・ファンはどれだけ歯痒い思いで見守ったか。






「ギルバート様!ギルバート様!」


おおう・・この声は・・・俺のコーラ・・・ん?

なんで声が聞こえるんだ?すごく鬼気迫る声だな・・・


「コー、ラ・・?」

「ギルバート様・・・よかった・・・目を覚まされたのですね」


え?

目を開けると、目の前30センチとは慣れてない、至近距離に、コーラの顔があった。

大粒の涙をポロポロこぼして俺を覗きこんでいる。


「泣いてるのか・・?」

「だって・・・ギルバート様が・・死んでしまうかもって・・・よかった・・・」


死んでしまう?

あ。俺、身体中がびしゃびしゃだ・・・視線を辺りに巡らせると、川かな?水音もする。

溺れたのかな・・・なんとか岸にたどり着いて、気を失ったってとこか・・・


「大丈夫だよ、コーラ。ちょっと休ませて・・すぐ元気になるからね」

「はい・・誰かを呼んできます。お待ちくださいね」

「ああ、頼むよ」


コーラリエ嬢は立ち上がると、一度俺を見て、駆け出した。


・・・・・・・・・・。

これは・・・俺は腕を上げてみる。王子様の服だな。それにコーラが『ギルバート』って言ったな。

じゃ、ここはあの乙女ゲー世界なのか?

俺、ギルバート王子の魂をぶん取ったってことか?

・・ギルバートの魂と、俺の魂が入れ替わったんだな。

じゃあ、元の世界の俺は・・えーーと・・なんで死んだんだ?思い出せないなぁ・・

でもいいか!

ギルバート王子はコーラを気に入っていないから、冷たくあしらっていた。婚約者を大事にしない浮気者。

どうして平民の女なんかに熱をあげたんだ?わからねー・・とか思っていると、誰かが俺に声を掛けてきた。


「あの、大丈夫ですか」


この声は・・ヒロインか?来やがったか。

・・あ。思い出した。

そうだ、これは・・・ヒロインが、王子を助けるイベントだったのか。

ゲームでは、ここから始まるんだ。

なんだ。そういう事か。


ヒロインは倒れている()を助けるんだ。ちょうど通り掛かった人に声を掛け、助けるのを手伝ってもらうんだ。その時いた誰かが、俺の身分に気付いて城に俺を連れて行く。

本来なら俺は、城に戻るまで意識を失っていて、コーラが先に見つけてくれた事を知らないんだ。

王子は助けてくれたヒロインに感謝をする。そこから二人の交流が始まるんだ。


そうだったのか。

本当は俺を助けたのはコーラで、彼女が助けを連れてくる前にヒロインが城に運ぶ。

王子はヒロインが助けてくれたと勘違いをするわけか。

だが、本当の王子は意識が無かったから、助けたのがコーラと知らないままだったんだ。

助けを連れて戻ったコーラは、王子がいなくなっていればそりゃ驚いただろうさ。

必死で探したんだろうな・・彼女の焦燥が分かる。


仕方無く城に戻ったら、王子は戻っていて。

ここまでならコーラも怒るまい。

助けたのはコーラなのに、王子が知らない娘に感謝していたら・・・

そりゃあヒロインに不快感を持つだろうさ。

まあ、ヒロインもいい事をしたつもりなのに、コーラに睨まれたら困っただろう。


だがヒロインは・・そこで王子に泣きついたんだ。


本当は自分が助けたと伝えようとしても、王子は元々公爵令嬢である彼女にいい感情を持っていなかった。

そしてどんどん空回りをして行くんだ。


大丈夫だよ、コーラ。

俺はちゃんと知っているから。


「ああ。今、助けを呼んでいる。間も無く来てくれるから」

「でも・・ずぶ濡れです」

「知っている。着替えを持ってきてくれるのを待っているんだ」


とっとと去れ。

婚約者がいる事も知っていて、図々しく王子に寄り掛かったビッチが。

俺のコーラの目に触れさせてなるか。


「ギルバート様!!」


額に汗を滲ませ、顔は真っ赤で、はあはあと息継ぎコーラが駆けてくる。

ここまでかなりの距離があるのに、助けを呼んできてくれたのか。

彼女の後ろを走っていた騎士達が、俺を見るやコーラを抜いて俺に駆け寄ると、体をゆっくり起こしてくれた。


「殿下、大丈夫ですか」

「ああ。服が濡れて気持ちが悪い・・少し冷える」


騎士は俺の傍にいるヒロインを見ると、じろりと睨んだ。


「・・?そこの娘、殿下が着替えるから、さっさと行け」

「殿下?あ、はい・・でも」


コーラがタオルを俺の頭から被せ、優しく手揉みしながら拭いてくれる。

まだ立ち去らないヒロインを見て、


「お行きなさい。私と騎士達がいますから」

「・・わかりました。王子様だったんですね。お大事に」

「・・・・・・」


俺はわざと聞こえないフリをした。関わり合うのはごめんだからな。

そして俺の体を拭くコーラに微笑んだ。ようやくヒロインは諦めたのか、立ち去った。


「ああ、ありがとう。コーラ。君のおかげだよ」

「心配しましたのよ?」

「でも俺はなんでこんな事になったんだ?」

「花が咲いていって・・足場が悪いところだったから、足を滑らせてしまったんです」

「君に花をあげたかったんだ」


そう。

このクソ王子は、あのヒロインと関わる前は、婚約者として尊重はしていたんだ。

ヒロインが自分を助けたと誤認してからは、コーラを毛嫌いしだした。

彼にとっては恩人のヒロインを、コーラが虐めていると思ったからだ。


勘違いと誤解で、コーラは疎んじられて、嫌われたのか・・・

これで分かった。


ヒロインとの出会いイベントは潰した。

そして、今は『俺』がギルバート王子だ。

俺さえしっかりとしていれば、コーラは俺を愛してくれる。




・・・と、思った時期が、俺にもありました。


外側はギルバート王子だが、所詮中身は前世が現代人の、異世界転生者。

本当のギルバートではないから、考え方や性格がそもそも違う。

コーラリエ嬢が好きな王子ではないのだろう・・・

なんか、うまくいかないのだ・・なんでだ?

避けられている?

優しく声を掛けても、逃げてしまうのだ。あれぇ?



もしや、最初の出会いイベントでヒロインが俺を助けなかったから、話がおかしくなったのか?

・・多分、そうだ。

このままコーラを娶って、幸せに暮らしましたENDを狙っていたんだがなぁ・・・

しょんぼりですよ・・コーラに嫌われてるのかな・・・




俺はあの王子とはやっぱり違う。


「最近の王子は、学問をきちんと学ぶ姿勢があって、好ましいですね」


家庭教師のジビリス先生に褒められた。


「お前が意欲的に政務に関わるようになるとはな。これで私も安心出来る」


父である王が、目を細めて微笑んで。


「若君、今度はこの本を読まれるとよろしいですよ」


宰相がニコニコ顔で薦めてくる。国を司るための心得みたいな内容だった。


ゲーム中でも国民に人気だった王子だが、最近は騎士団や文官にも良い感情を持たれている。


城内の廊下を歩いていると、騎士団員が数名おしゃべりをしていて、聞こえてきた内容というのが・・


「王子様は、最近真面目になられたなぁ」

「国王様も大層お喜びになられているよな」

「前の王子とはすっか変わられた。ようやく嫡男としての自覚が芽生えたのだろう」

「これでこの国も安泰だな」


・・・褒められてる。

王子なんだから、勉強頑張ろうと思ったんだよな。

コーラリエ嬢に相応しい王子になりたくてさ。


なんか俺、コーラには避けられてるけどね。解せぬ。



あれから3年。

初めの出会いイベントが無しになったせいか、あるはずのイベントが全く来ないまま、運命の18歳となった。

この乙女ゲーは学園と言うものがないので、勉強も家庭教師とかに習う。

平民は寺子屋的な所で、読み書きと算数を習うのだ。

ゲームでは冒険や城、城下町などで何かしらの事件や依頼を受けたりで進める感じだったが、これといったイベントは来なかった。なんでだろう?


本来、一緒にイベントをクリアしなければならないヒロインとも、あれ以来会う事無く来てしまった。

ギルドの依頼も、俺の周りにいる騎士達や、冒険者と行っていた。



それからも、何か起こる訳でなく、運命のダンスパーティー当日となった。


うーーん・・・コーラがやっと、ダンスパーティーのエスコートに応じてくれた。

パーティーとか、なかなか一緒に行ってくれなくてね・・嫌われるような事、したかなぁ・・

本来ならゲームでは、このパーティーでコーラに言うんだよ・・『婚約は破棄だ!』ってね。

勿論言わないよ?なんで言わなくちゃいけないんだよ。


さー、ダンスだ。

このパーティーはお見合い的な要素があるのだ。なので、婚約者や恋人がいない者達が、凌ぎを削っている・・よかった、俺コーラがいてくれて。


ファーストダンスをコーラと踊った後は、社交の流れで貴族の令嬢と踊る。

コーラもどこぞの貴族の子息達と踊っていた。


ラストダンスは再びコーラと〆るので、そろそろコーラを待つ為ブッフェテーブル側で立っていると、


「王子様、私と踊っていただけますか」


ヒロインがやってきた。

ゲームの通り、彼女は男爵の妾の子供と分かり、そこが後継がいないから娘として引き取られて、男爵令嬢になっていた。それがどうした。本来なら、『貴族だったのか』と、王子は喜ぶところだが、最初の出会い以降会っていないからな。

友情も育まなかったわ。


俺は聞こえないフリをして、友人に声を掛けて談笑した。


そして、ラストダンス。コーラの手を取り、踊る。

始終ぎこちない笑顔だったコーラは、やっと笑顔を見せてくれるようになっていた。

綺麗可愛い。でも、聞かなければ。俺はコーラを引き寄せて、彼女の耳元に囁いた。


「ねえ、コーラ。どうして俺を避けていたの?」

「はふ・・え?」

「だから。コーラは俺を避けていたでしょう?どうして?」

「んっ・・だめです、ギルバート様」

「だめ?」

「耳・・くすぐったいです」


ああ、耳がくすぐったいのか。

では、ちょっと小声で。


「コーラは俺を避けているだろう?どうしてだ?何か俺がしてしまったなら教えてくれないか」

「え・・・と・・・すみません・・・だって・・・」

「?」


俺と目が合うと、ふい、コーラが目を逸らした。

・・・俺って、もしや嫌われているのか?


ダンスの音楽が途切れ、終了。礼をして、ダンスホールを離れるが、俺は落胆していた。

ラストダンスは本命と踊るから、踊り終えたカップルは実に楽しそうに歩いている。

一応手を取ってエスコートはしているが、気持ちまでは繋がっていないのだ。


結婚、2年後だよ?出来る気がしない。

どうすりゃいいのさ・・・


「婚約は・・・()()、かな」


破棄はキツイ言い方だからな・・・




結局俺は、コーラと婚約を解消する事となった。


コーラが俺を避けている事は、彼女の侍女、両親も知っていて、『何をしているのだ、王子様に対して』と注意しても頑なだったそうだ。彼女側の親族も、取りなしてくれたのだが・・・


「・・そこまで嫌がられては、仕方がないですね」


俺は悲しいが、諦めた。

やっぱり、本当の王子ではないからだ。俺ではダメだったのだ。仕方がない。

結局、ゲームと同じく婚約がダメになった・・・死んだり断罪はなかったけれどな。

俺の努力は無駄に・・・いや。

俺はこの国を治めるんだ。そのための勉強ではないか。

全然、全く無駄ではない。


「殿下」

「ああ、今行く」


俺は従者と伴に、会議室へと向かう。


いよいよ、次期王の教育が始まったのだ。頑張ろう。




こうしてヒロインとは全く関わらなかったが、コーラとの婚姻は無しになって、ゲームと同じような結果となってしまった。


俺の不徳と致す所です・・・




その後、コーラが俺を避けていた理由が分かった。


俺があまりにも眩しく、自分にはもったいない、自分は相応しくない、そう思ったと。

一緒にいると、胸が苦しくなる位、ドキドキしたと。

俺の笑顔を見ると、立ちくらみをしてしまうのだと。

俺といると、病気になると・・・ええええ・・・

そうなの?俺、確かに今はイケメン王子の体だけど、そこまでなの?


「殿下は前よりも一層見目麗しくなられました。知性と品格も増して・・」


騎士団長にまで、頬染めた顔で言われてしまった。

自分の顔なんか、毎日見ているから気付かなかった。

そんな理由・・?

まあ・・病気になるんじゃあね・・うん。コーラ・・・残念だよ・・・



そんなわけで、俺の花嫁候補を今絶賛募集中。


なんとその中に・・ヒロインが参戦していた。

コーラは・・・いなかった。ぐすん。



選考したら、ヒロインは勝ち抜いて、最終審査まで勝ち残っていた・・・さすがヒロインだぜ。

ちょっと興味が湧いて話してみたら・・・

なんか普通のお嬢さんで、意外と話が合って、気安い雰囲気で・・・


だが、お前は妃には出来ん。側室枠だ。

だって、妃の風格無いんだから仕方がない。今更お妃教育についていける訳が無い。

というか、ゲームのENDに絶対にしたくなかったんだ。そう、意地でも!!



結局俺は、コーラリエ嬢に再度求婚してしてしてしてしまくって、彼女を落とし、結婚した。

国にとって、一番良い選択だから。ちゃんとお妃の役目を果たせる事を重要視した。


彼女が過呼吸になろうが、目眩で倒れようが、構うものか。

俺をずっと避けて、最後に婚約を諦めた罰を、一生かけて償わせる。


これが本音だったりする。



なんたって、俺は次期王なのだからね?

これくらいの我儘くらい、いいだろう?



タイトル右の名前をクリックして、わしの話を読んでみてちょ。

4時間くらい平気でつぶせる量になっていた。ほぼ毎日更新中。笑う。

ほぼ毎日短編を1つ書いてますが、そろそろ忙しくなるかな。随時加筆修正もします。

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