知らないイケメンにかごめかごめされたくない
お読み頂き有り難う御座います。
2話で終わる予定です。
貸してもらった漫画に『ハートを鳴らして!ラブポカ警鐘にご注意!』という手痛いダメージを食らいそうタイトルな少女漫画が有ったんだよね。
略したらハラポらしい。
お腹にダメージ喰らいそうな名前……だと思ったな。うん、クレイジーな所が面白かったよ!五股の上に最終日男の子との約束をすっぽかして、初登場の女の子とスリランカに駆け落ちするエンディングが目茶苦茶あり得なかったけど!
でもね役に立ったよ!
挙動はその少女漫画を参考にしたから!寝る前に読んでたからかな。凄く……覚えてる。
だって夢見る瞳の狂信者を煽ったら、命の危険があるでしょ?
私だけの話じゃないんだよ、悲しいことに。
「やめてえ!ウメコの為に争っちゃダメだよっ!(せめて状況を把握してからにしろお!!)」
「うん、凄いよね!尊敬するよ!!(せめてその自分に甘い所をゴミ箱に捨てろ!)」
「夢は諦めちゃ駄目だよね!(人を巻き込まなきゃな!)」
ハハッ!ヒロイン女子ってこんな感じの高音域で良かった!?毎晩喉ガラガッラ!呼び込みのお仕事向いてるかも!新たな技能発掘!!ハハハ才能に溢れてるかも!!
こんなくだらなーいペラペラ言葉に顔を赤らめる奴らさあ、蟀谷に蹴りを叩き込みたいね!!勢い余ってひっくり返る自信しか無いけど!!
磨り減っても私は女優気分で頑張るのよ。女優じゃないけど!!
呼ばれて飛び出たく無かったこの世界で、ウザイヒロインを勤めあげ、手早くお家に帰るの。
だから、早く!!
早く術が完成して!!
「乙女の召喚に成功したぞーーー!!」
「何と麗しき乙女だ!!流石ハーメリー嬢を器にした甲斐が有った!!」
目の前にはタイプの違うイケメンがズラリズラーリ下に下にー。
………えっと、どちらさん方ですか。
それと視線を下に向ける度、目に入る寄せて上げても手に入らないボリューミーと、人外な赤紫の髪の毛は何ぞや。胸は詰めて寄せて上げたら……分からんでもないけど、髪は!?コスプレのウィッグ?いつの間にか装着してた?でも押さえつけられる自頭の感覚無いよ?ってことはいつの間にかスキンヘッドでヅラ装備!?んなバカな!!誰だよ人の頭を無断で刈った奴!!どんな嫌がらせ!?
二時間ドラマか全年齢漫画の中じゃあ、誘拐犯でも散切り頭かショートヘアで許してくれるのに!?酷い!!
「乙女よ、名前は?」
「………あ」
何だこりゃ。派手な面子からより派手な男が私の手を……いやいやこんな細い指の手なんか持ってない。自前の手はもっとショートで肉がポワンとした手だよ!?何処の誰様のお手々なんだだだ!?
まさか一体私は誰!?夢!?
まさか着ぐるみに入る夢!?いや、自分を圧縮して入る着ぐるみなんて有るの!?無いでしょ!!有ったら超欲しい!これで私もリアル別嬪ボディ&ハンドに!!
……なーんて!!ふざけてないとやってらんないよ!!
「怯えなくていい。君は導き星の巫乙女なんだ」
「我らの下に降り立った清らかな花嫁よ」
「どうか幸福を」
「さあ、顔を見せて」
どんな狂った状況なの?あり得ない。
控えめに言っても怖かった。
貴方なら、見知らぬ地に拉致され、見た目だけは良いけど電波男達に囲まれたらどうしますか?
しかもどうやら自分の体ではないらしい。
周りに武器はない。知り合いも居ない。知恵も力もナイナイ尽くし!!
蒼白になって、呻くしか出来なかった私は……物凄く豪華絢爛なお部屋に閉じ込められた。
女の人が色々ご飯とか持ってきてくれたけど、怖すぎて喉通らない。
服を脱がされそうになったけど、泣いて抵抗したら色々言いながらも出ていった。
どうしよう。
殺されるかもしれない。
この体の人は一体誰なの。私の体は何処?
怖い。
怖い怖い怖い!!
どうして?どうして私が何かしたの?
昨日通勤途中に階段に居たバッタは、踏む気はなかったんですよ!!
避けなくて本当に御免なさい!!
友達の飼ってる蛇に奇声あげて微笑まなくてすみません!!
蛇怖かっただけなんです!
うおおおおん!!
「邪魔をするよ、我がネルの体に宿りし寄生者」
豪華で恐ろしい部屋の中。
渋い声が私を呼ぶまで、私は絶望に首まで浸かっていた、と思う。………尊厳と魂を吹っ飛ばしそうになったよ。
「き、寄生者?」
「私とネルにとってはね」
あの場にいた人達よりも年嵩な男性が私を見る目は……全く違っていた。
敵意すら感じられる、その目は……恐ろしい程に赤い。何かボヤッとした輪郭だし、お化けの類さん!?
でも貴方お化け?とか怖くて聞けない!!
そして彼は、ビビる余り人間の尊厳を失いそうな私に、共犯者として誘った。
何でも……あの顔だけ軍団は美女を拉致して、私の魂を異世界からお呼び出しして美女にインさせたらしい。
………たっけてえええ!!と泣いたけど、怖い彼の方が語りながら泣いてらしたので、どうしようもなかったのでした。
「よ、よっぽど愛してらしたんですね」
「あいつらを殺してやりたい」
「そ、そうですね。私も力があれば……」
「お前は余計なことをするな、ネルが弱る。
寄生者、恨みはないがネルの体を傷つけたら世界を越えて百倍返す」
「お借りしたものは丁寧に扱う主義です!!」
超怖いことに変わりないのかよおおお!!
私は……異世界転移?転生?してイケメンに囲われてスーパーラッキー!私、これからどうなっちゃうの!?
って思える程に私の神経は太くなかった。いや、もう千切れてるかも。
唯一話の通じるイケメンは私に殺意マッハで外の人の恋人だし。しかも正体明かしてくれないけど人外っぽいよ!夜しか化けて出てこれないんだって!!しかもネルさんのお体の側にしか!ヒエエ!!
本気の殺意向けてくる味方は居ても、優しくしてくる敵は居るってどんな状況?怖いよおおお!!
でも帰りたいよおおお!!私には生まれ育った自分の世界が一番なんだよおおお!!きっとこの外側の美女さんだってそうに決まってるよおおお!!
「ウメコです」
私は、あの怖い奴と仕組んだ作戦通り……服従するフリを選んだ。
ご飯も完食してお風呂にも入り、女の人達(侍女さんらしい)に従順を装い入った。
必殺、偽名作戦だ。
多分此処は……日本じゃ無いだろう。日本語しか聞こえないけど。
因みにばあちゃんの妹の名前を拝借しました。ウメ子大叔母さん御免なさい。
リアル私ならキモい薄ら笑いでも、美女のお顔なら、ホラ素敵な微笑みに!
「ウメコ……美しい名だ。どういう意味の名前だろう」
………何だと?
えっ、いや、急に止めて。意味とか由来とか考えてないんだけど。
どうしよう。瞬きしない男共の目が気持ち悪いな。血走ってるよ?目は酷使せず早く寝ろよ。
こ、此処は少女漫画路線で萎えさせるか、ホラー展開でドン引きさせるか。
この迷惑な人達にチラッとギャフンしてやりたい心が疼いてしまう。
しかしホラーの方だと『ふざけてんのかこの異形が!キモいぞ死ね!』エンドに成りかねないかも?!
えーと、えっとおおおお!!
なるべく本名に掠らない文字いいい!!
「うっ、美しい夢の虹と書きます」
うっ………即興で考えたにしては……いや、とってもよくないな。
我ながらスゲー偽名だ。役所で氏名欄にはとても書けそうにないよ。
「名前まで美しい……」
「そ、そうかな。そんなに珍しくないよ?」
そう、読み方だけは半世紀以上前ならメジャーネーム!
え、正気?
………こんな……とびきりキラキラを被せた渋ネームを捻り出したのを感動してるよ。
自分でも『いや、ねーよ』で一杯だよ。全国のウメコさん及び大叔母さん、名前を魔改造して誠にご免なさい。
私、このやりとりだけで一生分の悪知恵と薄笑いを使った気がする。
しかし、このキラキラ被せた渋ネームを褒め称えてるイケメン共、やはり怖いな。やっぱり呻く子で呻子の方が良かったかな……。いやでもキレられて、私が呻いて暮らす羽目になったら困る……。名は体を表すって言うし。はっ!!虹の彼方に夢オチで追いやられる可能性=殺される可能性ががが!?
………。
な、なるべく早くお家に帰りたーい!!お願い外の人の恋人さん!!
こうして私の『なんちゃら星のなんとか乙女』生活が始まってしまった。電波達を刺激しないよう頭空っぽな科白を捻りだし、ネルお嬢様の美しさをキープする為に体操も頑張ってる!!
私を追い出す術とやら、早く完成してくれ!!
頼むよ人外さああん!!
………そして流れに逆らい一年。長かった。
普通、こんだけ美形にヤンヤヤンヤ!そらドッコイヨッコラショ!と美辞麗句マシマシで褒められ倒したら絆されると思ってたけど、全然無いわー。
私も口先だけの美辞麗句使ってるから絆されたらやベーなと思ったけど、全然効果無いわー。この世界の事を学べとか言われたから健気にも覚えたけど、ここ出ていく前提の知識ゼロで大して使えないわー。
まあ、野郎共に関しては、初対面の嫌悪感がよっぽど強いかも。
はあ、しかし思った以上に長いな。
こんなことなら気になった漫画と小説を大人買いして、通勤途中の………、常に内巻きの寝癖を後頭部に搭載してるから、気になってたリーマンにコクればよかった。
普通の人万歳だよー。戻ったら私、積極的な肉食系になる!口説く動きもきっと滑らか間違いなし!
「………寄生者、努力は互いにしているようだな」
「人外さん!!頑張ってますか私も頑張ってます!!
早よ帰還お願いします!」
「明日だ。明日も媚びろ。だが何時も通り触れさせるな」
「こんな綺麗な借り物のお体を汚させやしません!!」
1週間に1回程度やってくる人外さんが、ボヤッと左右に揺れている。
へへ、今日も輪郭がモゾモゾしそうなフワフワ加減でやんすね。こっちはマジ未だに慣れなくて怖くて泣きそうだけど、あっちは笑ったみたいだ……。超怖え。
因みに岡惚れもしちゃあいません。ネルさんへの愛を語る人外さんに恋してジェラッてメラメラ!ハンカチカミカミ!にはならなかったよ。
だって見た目から怖すぎて無理だわ。お化けと恋愛マジハードル高い。て言うか本名も何処住みなのかも未だに不明だわ。
「明日だ。明日、全てが終わる」
……本当かなあ。頼むよ人外さん。
そして私は迷惑な国を牛耳る軍団に囲まれつつ、媚を売り……目の端に映るモヤッとした輪郭が……微笑みを浮かべた。
わお!恐ろしや!
あれれ?あれれー?
何だか訳分からない光が体を包んでるよ?
成功したんすね?成功したのね人外さん!!
ネルさんとお幸せに!!あ、あのお偉方軍団へは仕返しは私の分まで念入りにお願いします!!ネルさんの分だけでお命は無いかもだけど、気持ち上乗せお願いします!!
よし、ウチに帰ったらジャンクフード食べて欲しかった漫画を読み漁り、あの後頭部の内巻き寝癖が愛らしいリーマンにコクろう!
しかし、逆ハーって意外と漫画で読むより面白くないな!!それが分かっただけでも良かった!!
あんなに甘々な恋愛に憧れてたけど、そっちの素養が無いことがよく分かった!!
いや、恋愛する相手によるよね!取り敢えず、中のヒト(あ!お恥ずすぃーながらも私!)重視と言いながらも、綺麗なお顔&ドカーンとダイナマイツボディに首ったけの電波野郎は対象外!良かった洗脳されなくて!!
お幸せに人外さん&ネルお嬢さん!
さらば!異世界!!
一年間イケメンにかごめかごめされてもヨイショされても流されなかった中の人(仮名ウメコ)が書きたかったんです。
次は外側の人の話で終わりです。