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噂では

噂では彼女もそれが欲しいらしい

作者: なみちか

エリザ、出ます。

 ディランは後悔していた。


 せめて家族くらいには、行き先を告げてくるべきだったと。


 辺りは薄暗かった。

 幸いにも湧き水があったし、数日分の食料を持っていた為、すぐに死ぬことはないだろう。


 彼は見上げる。

 出口は遥か上空だ。


 いつまでも見上げていてもどうにもならないので、ディランは気持ちを切り替えた。

 とりあえず、目的の物を探すのだ。


 いつまでも自分が戻らなければ、家族や皇太子殿下が捜索隊を出してくれるだろうとの楽観もあった。


 そうしてディランは愛するエリザの為に、ハンマーを手にした。






 数日前に遡る。

 エリザは仲の良い友人数人とお茶をしていた。


「ライラ、変わったブローチね。」


「ふふふ。気づいてくれた?」


「なぁに?もしかしてそれ...」


「そうなの、エド様に頂いたの。」


 エド様はとは、ライラの婚約者のエドワードの事だ。


「もしかして、それって今流行りのやつかしら?」


「そうよ。エド様がサプライズで用意してくださったの。」


「えー、素敵!」


 エリザは尋ねた。


「流行りって何ですの?」


「もう、エリザは本当にそういうのに疎いんだから!」


「今ね、恋人に自分で作ったアクセサリーを渡すのが流行っているのよ。」


「人気の工房は予約で数ヵ月待ちらしいわ。」


 へぇ、巷ではそんな物が流行っているのか。


「エリザだって、ディラン様がエリザの為に頑張って作ったアクセサリーを貰ったらうれしいでしょう?」


「そうねぇ。」


 彼女達は、恋人が自分の中の事を思って、一生懸命作ってくれる事が嬉しいのだと大盛り上がりだった。



 その翌日、エリザが友人と昼食の約束をしていた為、ディランは仕方なく自分も友人と食堂に来ていた。


「そういえば、エドワードがあれやったらしいな。」


「あれって?」


「今流行ってるだろう、恋人にアクセサリー作って贈るやつ。」


「あぁ、あれか。」


「何でもライラ嬢はえらく喜んで、皆に見せまくってたらしいぜ。」


「へぇ。」


 ディランは話し半分でそれを聞いていた。

 ライラが何に喜んだかなど、どうでもよかったからだ。


 それに、エリザはあまりアクセサリーに興味がないので、ディランはいつも実用的な物ばかり贈っていた。


 ディランだって、アクセサリーを贈って喜ばれてみたいものだ。


「お前の婚約者殿も羨ましがってたって言うじゃないか。」


「その話、詳しく!!」


 ディランは前のめりに食いついた。


 友人も詳しくは知らないが、ライラがブローチの話でワイワイしている中にエリザもおり、私もディラン様の手作りアクセサリーが欲しいわ。と言ったとか言わないとか。


 あの、エリザが、俺の手作りアクセサリーを求めている!

 作らねば。これは最高級の物を作らねば!


 エリザから求められるなんて、とディランは燃え上がった。


 彼は全てを一から作るべく、宝石の原石を求め、数日分の食料とハンマー片手にろくに調べもせず、宝石の原石が採れるという鉱山へ飛び出していった。




 そして話は冒頭へ戻る。


 鉱山へ着いたはいいものの、ディランは足を滑らせ謎の穴に落ちていた。

 穴はやや斜めになっていたため、滑り台のように滑り落ち尻餅をついて着地した為、お尻が痛い以外にはとくに怪我もなかった。


 しかし、ディランの身体能力では穴の上まで登れそうにはなかった。

 なので彼は脱出を諦め、特大を見つけてやるぜー、と宝石探しに勤しむことにしたのだった。






 ディランが行方不明になって3日めの朝、エリザは動き出した。

 最初はいつものように、皇太子にパシられてどこかに行っているのだろうと思っていた。


 けれども、昨日皇太子にディランの行方を尋ねられたのだ。

 その後すぐ、エリザはディランの家へ連絡したが、家族も行き先を知らなかった。

 ディランが皇太子にパシられ内密にあちこち行くことはよくあったので、家族も今回もそれでいないのだとばかり思っていたそうだ。


 これはちょっと問題である。

 まさか、誰もディランの失踪に気づいていなかったとは......。


 聞き込みが必要だと感じたエリザは次の日から行動する事にした。



 そして、朝。エリザは学園で聞き込みを開始した。


「最後にディラン様を見たの?いつだったかしら。貴女と一緒にいた時だと思うのだけれど。」

「ディラン様?そういえば、数日お見かけしていないわね。あの方、学園を休みがちじゃない?お体でも弱くていらっしゃるの?エリザ様も大変ね。」

「ディラン?最近見てないな。何かあった?」

「あ、俺4~5日前に一緒に昼食食べたよ。その時はいつも通りだったな。」

「俺が会ったのは1週間くらい前かな。放課後殿下と一緒だったよ。」


「実は誰にも気づかれていなかったのですが、ディラン様は行方不明なのです。」


「え!」

「あ、待って。俺ディランにエドワードの話をしたんだけど、その時すごい食いついてきたんだよ。」


「エドワード様のお話?」


「ほら、エドワードがライラ嬢にブローチ作った話。ぽろっと、エリザ嬢も欲しがってたらしいよって言っちゃったから。」


 エリザは、成る程と思った。

 欲しいとは言っていなかった気もするが、ディランがそんな話を聞いたのならば、間違いなく用意しようとするだろう。

 とすると、ディランはどこかの工房に籠っているのかもしれない。


「ありがとうございます。大変有力な情報でしたわ。」


 エリザは綺麗にお辞儀をし、その場を後にした。


 エリザは学園を早退し、ディランを探しに行く事にした。

 皇太子やディランの家族が捜索隊を出そうとしたが、もしどこかの工房に籠っていただけの場合まずいと思い、少し心当たりがあるので数日待って欲しいと告げた。


 皇太子も家族も、まぁディランなら大丈夫かと軽くエリザに任せてくれた。

 任せろとは言ったものの、あまりにあっさりしていた為、ディランの扱いはこれで大丈夫なのかと心配になった。



 実のところ、皇太子はエリザがディランの居場所を知らなかった時点で、ひっそりディランの捜索を命じていた。

 するとすぐに、ディランは「待っててエリザ」などと叫びながら、それはもうハイテンションに鉱山へ消えていったという情報を掴んだ。

 普段はあれでも、やはりディランがいないと困るのだ。

 推察するに、ディランはエリザにアクセサリーを作るため、宝石を発掘するところから始めたらしい。

 ならば、そのうち勝手に帰ってくるだろうと捜索を早々に引き上げていた。

 勿論、ディランの家族には連絡済みだ。


 エリザに教えなかったのは、自分に何も言わず行方不明になり、ちょっぴり心配させられてしまった腹いせだった。

 エリザならすぐにディランに辿り着くだろう。

 サプライズがバレてがっかりすればいいのだ。


 こうして皇太子はエリザをにこやかに送り出したのだった。





 エリザはまず、人気の工房から順に当たっていった。

 けれど、そのどこにもディランはおらず、予約もしていないようだった。


 エリザは普段アクセサリーを欲しがることはない。

 ディランにも普段使いできる物をくれるよう頼んでいた。


 そのエリザがアクセサリーを欲しがった。とディランは思っている。


 ならば、ディランは相当気合いが入っているのではないだろうか。


 もしかしたら、高価な宝石を使おうとしているのかもしれない。

 エリザは宝石商を回ることにした。


 けれど結果はここも空振りだった。


 もしかしたら、本当に事件に巻き込まれたのかもしれない。

 捜索隊を頼もうかと思いながら、街で聞き込みをしていた時だった。


「あら私、そんな方を見ましたよ。先日もお話したんですけどね...」


 その人は数日前にディランらしき人を見たと言う。何やら大荷物で、「待っててエリザー」などと叫びながら鉱山の方へ消えていったのだとか。


「あら、鉱山で働いてるうちの亭主もそんな坊主を見たって言ってたわ!」


 他のご婦人からも有力証言。


 そうか、まさか宝石を採るところから始めるとは。さすがディラン様......。


 それよりもエリザの気に障ったのは、どうやら皇太子はすでにこの話を知っていたらしい事だった。


「あのヤロウ...。」


「お嬢様!」


 一緒にいた侍女に窘められる。

 ディランではないが、ついつい口が悪くなってしまった。独り言なので見逃していただきたい。


 なんだかんだ、エリザだってディランの事が心配で仕方なかったのだ。

 手がかりを掴むと、皇太子にムカムカしてきた。元はと言えば、奴がディランをこき使うのが悪いのだ。


 エリザは心の中で、皇太子を散々扱き下ろした後、彼の女装を思いだし溜飲を下げた。



 エリザは一度屋敷へ戻ると、祖父と稽古の時に使う服に着替え、ロープやランプや包帯、薬といった物を細々用意し、2名ほど護衛を連れて馬に乗り鉱山へ向かった。


 鉱山へつくとエリザは大声でディランを呼んでみた。


「ディランさま━━━っ!!」


 返事はない。


 エリザは近くで働く人達に声をかけた。


「お仕事の邪魔をして申し訳ありません。これこれこのような人をみかけませんでしたか?」


「いやぁ、見てないなぁ。」

「誰か見たか?」

「そういやハービーがそんな坊主見たとか言ってなかったか?」

「おぉーい、ハービー!」


 エリザは同じように尋ねた。


「あぁ、見たよ。ここは邪魔だから、向こうへ行きなって言ったんだ。」


「ありがとうございます。行ってみます。」


「おう、気ぃつけていけよー。」


 エリザは教えられた方へと向かった。

 すると、どこらからカンカンと音が聞こえてきたのだ。


「ディラン様ー!」


 カンカンカンカン


「ディーラ━━ンーさ━━ま━━━━!!」


 カンカン......


「......エリザ!?」


 エリザが声のする方へ行くと、ぽっかり空いた穴からディランの声が聞こえてきた。


「エリザ、気をつけて!そこら辺に穴が空いてるんだ!!危ないよ!」


 あぁ、うん、気づいてる。こんだけ大きな穴が空いてたら気付くでしょうよ。とエリザは思ったけれど、そんな事は言わないのだ。

 この器用でなんでもできる割に、ちょっとどんくさいところがディランの可愛いところだとエリザは思っていた。


「ディラン様ー、お怪我はありませんか?今ロープを下ろしますね!」


 エリザは護衛にロープを下ろすよう指示をし、穴の入口を覗き込んだ。


 ガサゴソ音が聞こえ、ディランがロープをよじ登ってきた。


「ありがとう、エリザ。助かったよ。」


 エリザはディランに抱きついた。


「心配したではありませんか。」


「ちょっと待って、俺ずっと風呂に入ってないから、臭いし汚いんだけど!エリザからのハグ...、ものっっっすごく勿体ないけど、今は離れて......。」


「嫌です。」


「そんなぁ~。」


 ディランは何とも情けない声を出した。


 どうしてこんなところに居たのか聞くと、ディランはやはりエリザが今流行りの手作りアクセサリーを欲しがっていると聞き、これは一から自分で作らねばとここまで来たのはいいものの、足を滑らせ穴に落ち、登れないので助けを待ちつつ、穴の中で発掘していたと正直に話した。


「本当はタンザナイトとか欲しかったんだけど...。」


 欲しかった宝石ではないが、何かは採れたらしい。ここではそんな希少な物は採れないのだが、エリザは突っ込まない。


「バレてしまったけど、最高のアクセサリーを作るから、エリザ待ってて。」


 ディランがあまりに嬉しそうに言うので、エリザはそれ以上怒る気にはなれなかった。


 ディランはいつでもエリザの事を考えてくれているのだ。


「ディラン様、ウエディングドレスに似合うアクセサリーにしてくださいませ。」


「......エリザ!!」


 ディランはそのまま、疲れと興奮で気絶した。




 その後、ディランは隣街で腕はいいが恐ろしく恐い親方のせいで客が少ないと噂の工房で、しごかれながらネックレスを作り上げた。


 本当に恐ろしい親方だったが、彼の仕事は噂に違わず素晴らしかったので、結婚指輪はここに頼もうと思った。


 そして、ようやく作り上げた渾身のネックレスをエリザに渡す。


「あら、可愛らしいアクアマリン。」


 貰ったエリザも自分が思っていた以上に嬉しかったので、たまにはアクセサリーも有りかもしれないと思った。


「エリザ、最高に可愛いよ。結婚して。」


「2年後ね。」


 エリザも少しだけ、早く結婚したいなと思った。


皇太子はちょっといじわる。

なんだかんだ、エリザもディランが好きで両思いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] ディランからの一方通行の好意かと思っていましたが、エリザもちゃんと好きで良かった。 この2人は本当に可愛いらしいし皇太子や皇女もイイ味出してるので、ぜひまた続編をお願いできたら嬉しいです(人…
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