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灰色の世界

作者: 倉運

 灰色の雲が空全体を覆い、遠くに見えるビルと一体化していた。

 何をするわけではなく、ぶらぶらとここまで歩いてきた。案の定、雨が降ってくる。

 私はなぜ生きているのだろうか。私のようにただただ目的もなく生きている人間なんて沢山いるだろう。彼らは何を楽しいと思って生きているのだろうか。

 急いで近くの駅まで走りながら、ふと思い出した。「四十に足らぬほどにて死なんこそ、目安かるべけれ」そう言っていたのは誰だったか。今と比べればその頃の寿命は短かった。でも、その頃私が生きていたとすれば、その命の半分をもう生きたことになる。私は今まで何をしてきたのだろうか。別に楽しいことが全くなかったわけではない。友達と話すのは充分楽しかった。でも、今はそんな友達はいない。

 最後に彼と話したのはいつだったか。全く思い出せない。でも、これだけは鮮明に覚えている。彼と最後に会ったとき、私の心にすっぽりと穴が空いた。私の胸のなかにあるべき何かがきれいに切り取られた感じ。もう元に戻らないのだと実感した。

そして、瞬く間に顔全体が濡れてしまった。今も同じく目の前の世界が歪んでみえる。

 駅に着いた。少しだけほっとした気持ちになる。だれもいない小さな駅。傘ぐらい持って出掛ければ良かったと思う。このまま電車に乗るわけにもいかず、ぶらぶらと屋根のなかを歩いてみる。ふと視線を上げると、ホームへと繋がる階段に何か落ちているのが見える。近寄ってみると、それはピーナッツであった。私はこのピーナッツたちの隣に腰掛ける。濡れた自分より、石でできた階段は冷たかった。彼らはいつからここに座っていたのだろう。

 何分経ったのだろう。外から傘が近づいてくるのが見えた。

 世の中のものはすべて、生まれたら死ぬ。存在していたものは必ず消える。このピーナッツもいつか消える。私も。それなのに幸福な人などいるのだろうか。名誉があれば幸福なのか。金と権力があれば幸福なのか。少なくとも私は幸せではなかった。だれも自分のことなど見ていないのに、そう分かっていても、他人の細かい言動に一喜一憂していた。自分の身を守るために、悲しい思いをしないために、他人のことを一番に考えていた。

 今もそうだ。向こうから来る人に悪く見られたくないと思う。なのに、人は目の前迫って来る。私にはどうしようもない。こっちを見ないでほしかった。しかし、人は立ち止まり、こっちを見ている。強い視線感じるのに、私からはその顔を見ることは出来なかった。しばらくして人は傘を閉じ、よく見ると、私の知る顔であった。私の口からは笑みがこぼれ、私から声をかけていた。

 このピーナッツは幸せなのだろうか。雨粒がトタンの屋根に当たる音を聞きながら私は考えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 駅に着いた。少しだけほっとした気持ちになる。だれもいない小さな駅。 私から声をかけていた 小説的進行の逸脱を感じて面白いです
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