後編1
会場は地獄絵図の様相を呈していた。
そこいら中で俺のケーキを食べた者たちが苦しみ悶えている。
ゲロ吐くもの、血反吐を吐くもの、そして泡を吹く者。
中には顔を紫色にして白目をむく者。
中には目鼻口耳など全ての穴という穴から血を吹き出しながら笑っている者。
「どうです頭取、俺のケーキ、気に入ってもらえましたか?」
その地獄絵図の中、ステージの上の俺は目の前で倒れている特別審査員サマに問い掛ける。
「毒か、貴様ケーキに毒を…!」
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俺とタカコさんのケーキ対決当日会場。
俺の率直な感想としては、もっと観客が集まるかなと思っていたが、
「それほど沢山集まると言う訳ではないんだね」
肩透かしを食らったような気分だった。とはいえ俺にしてみると、いつもの数百倍の人たちに、少なくとも俺のケーキをひと口は食べてもらえるのだ。
俺の心は熱く燃えていた。それにタカコさんは、そんな俺の気持ちを察してくれたのか、
「評判を聞きつけて日を追うごとに興味を持ってくれる人が増えるものよ」
と言ってくれた。
「アカルー、応援しに来たよ、あんたひょっとして緊張してたりするー?」
「アカル、頑張って勝てよ、と言いたいところだが、俺からすると正直お前の負けは目に見えている。
だから思い切って負けて自分の気持ちに区切りをつけるんだ、そしてウケるナローケーキを作る切欠にするんだ、少なくともこの勝負を見に来ている人たちは、今後しばらくの間、お前の作品を気にしてくれるだろうから、って、おい!ひとの話はちゃんと聞け!」
アンジェとサミーが舞台袖の俺を訪ねてくれた。
タカコの店に簡易的に設営されたステージの上では今、タカコの店に出資をしている銀行の宣伝とその銀行が融資する、他のナローケーキの店の新製品の宣伝がされていた。
しかもなんとその銀行の頭取が自ら舞台の上でプレゼンをしている。なるほど先日の下っ端融資係と違い見事な話術だ。
ナローケーキ愛好家とナローケーキ職人の明るい未来を語り終えたところで、そこそこの拍手とともにマイクは司会者に渡った。
いよいよ時間だ、やっとで開戦だ。





