前編4
「このナローケーキは出来損ないだ!食えないよ!」
俺は思わず口走った、と同時に、やっちまった!と激烈に後悔した。
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その店に入った瞬間に嫌な予感がしていた。よりによってここの店か。
アンジェが親しげにその人気店のナローケーキ職人と、ハグして挨拶を交わしている。
サミーもそのケーキ職人と言葉を交わしている、知り合いのようだ。確かにライターをやっているのなら、ランク上位の店の関係者と知り合いでもおかしくない。
俺はこの店の店主でありケーキ職人のタカコさんに紹介された。
タカコさんも自己紹介をしてきた。
ストレートの黒髪が綺麗な優しそうなお姉さんという印象だが、時折メガネの奥の紅蓮の瞳が、鋭く店内の他の客の動向を伺っているのが見えた。
実は俺は既に一方的にタカコさんのことを知っていた。タカコさんの作品を以前に何度か食べていて、美味しいなと思っていたんだ。ぶっちゃけ密かに憧れていた、作品も、職人としても、あと多分異性としても。もっと違う形で会いたかったなというのがその時の素直な感想だった。
違う形というのは・・・ダメだ、俺がチートを使ってランカーになってカッコ良く彼女と出会う、なんてのは俺の嫌いなナローケーキのお決まりパターンじゃないか。
でもコレ使ってケーキ作ったら、少しは広く一般に受けるケーキが作れるのだろうか、などと考えていたのは目の前の現実から逃避していたからなのだろうか。
「良かったら私もご一緒していいかな?」
「モチロンだよー」
「是非アカルにアドバイスしてやってくださいよ」
凄く嫌なシチュエーションだが、俺はこう言う以外なかった。
「・・・よろしくお願いします」





