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後編5




 大半の観客は俺がケーキに仕込んだ毒に犯されて藻掻き苦しんでいるが、幾らかの例外がいたので観察させてもらった。


 まずステージ上のタカコさんである。

 タカコさんは特に狼狽することなく俺のケーキを食べ進め先ほど完食した。その上で何かぶつぶつとつぶやいている、スマホに感想のボイスメモを取っているようだった。

 よほどその作業に集中しているのか、無視を決め込んでいるの解らないが、その間、タカコさんは俺と目を合わそうとしなかった。


 会場を見ればアンジェが俺のケーキを食べながら何やら身悶えている。

 俺と目が合うと俺に向かってこう言い放った。


 「なんだか私の昔の黒歴史ノートを音読されてるみたいで、これはこれで私に大ダメージだよー!そういう意味では毒としての効果を発揮してるよー!シビれるー!」


 隣のサミーも俺に対して毒を吐きながら俺の毒ケーキを喰っている。ある意味器用なひとだよな。


 「アカル・・・こういう事はあまり褒められたものではないぞ?ただここではあえてアカルのことを擁護するとだな・・・オエッ、これはギリギリ毒と薬の境界にあるんじゃないかな、ってことだ。」


 「アカル、諄いようだが次にケーキを作る時は、タカコさんが作っているような、ここの会場にいる人たちの多くが喜ぶような、そんなケーキを、作るんだ、ぞェェェエロエロエロォォォ」


 そこまで言ったところでサミーは盛大に吐いて倒れた。毒アウト、毒イン、からの毒アウト。俺が仕込んだ毒の調合のどこかが、彼の心の暗部にハマったようだ。恋愛関係のとこかな?

 ぶっ倒れて痙攣しながらも彼はスマホを取り出し、うわごとのように俺のケーキの感想をボイスメモに記録していた。このあたりは見事なライター根性だと言えるのではないだろうか。




 後日サミーは俺の毒ケーキが内包する成分を逆解析して、成分言葉を読解し書き出し、彼のブログにアップロードし業界で波紋を呼んだ。

 以下は彼のブログから抜粋したポイントをリストしたものである。


 タイトル:毒入りナローケーキ事件の毒は本当に毒だったのか?


 ―――それは食べた者の舌から甘味の感覚を奪う魔法であった

 ―――読者にとって都合の悪い現実の記述がそれにあたる

 ―――このケーキを食べた後しばらくは

 ―――それまで食べていたケーキが大変不味く感じることになるだろう


 判明した主な成分言葉:


 ・成功体験がないから安直な成功描写を受け入れる

 もしくは成功までの過程が省かれていても違和感を覚えない


 ・現実社会の学校時代にはチート集団仲間どころか友達がいなかったので、

 それを満たしたい願望があるが、

 集団行動や友達付き合いがどういうものか理解出来ないので、

 最初から都合のいい人形に囲まれる展開しか受け入れられない


 ・クラブ活動や学園祭等イベントの充実した学校生活を渇望する傾向があるが、

 それを如何にして勝ち取るかを知らないので、

 これもまた一方的に与えられたものでなくてはならない


 ・実際の恋愛経験が無いので出会いや付き合いの苦労を知らない

 恋愛経験不足に基づくファンタジー交際描写しか受け入れられない

 もしくは恋愛に関して痛い経験が多すぎて踏み込んだ描写に耐えられない


 ・ご都合主義でなく現実逃避主義

 暇つぶしをして何かをやった気になる

 何も成し得ていないのに既に何者かになったような錯覚を受け入れる


 ・やること全て成功する状況に対して違和感を覚えない

 仕事の経験が不必要な不快体験でしかない場合が多く、

 まともに働いた経験が乏しいので、仕事における責任の観念が曖昧


 ・リスクバランスが極端に低く、

 何かをすることに対してリスクが生じるという観念が欠如している


 ・総じて成長が無い、成長を促さない、それどころか、むしろ退化させる、

 これらの成分を必要以上に大量に摂取していることに対して懐疑の目を向けない


 ・何をしようが個人の自由だ!だから俺が逆ギレするのも俺の自由だ!

 だが今のお前は大量生産大量消費社会の奴隷だ!現実のお前は不自由してんだよ!

 その鎖を断ち切って己の自由の為に立ち上がれ!自らの行動が普遍的法則となるように行動せよ!




 そんな阿鼻叫喚の会場を見渡しながら、俺は一応の満足感を得ていた。

 いずれにしろ俺がケーキに仕込んだ毒は、効力がすぐ消える者ならば、ものの数時間で消えてしまうようなものだ。どれだけ持ったとしても俺の仕込んだ毒ごときでは、1日以上効力が続くとは思えない。


 この毒が効いている間は、どんな甘いナローケーキを食べても、全く甘さを感じないはずだ。

 俺は事後ではあるが一応会場でその説明をしたし、頭取も今しがたそんなことを叫んでいたし、会場の中のいくらかの観客が甘味を感じなくなったことに気づき、なんてことをしてくれたんだ!と発狂して絶叫して周知に協力してくれていた。

 もうこの会場に用は無い、立ち去ろうとした時、足元から声がした。銀行屋の糞頭取が震える指で俺を指差しながらこう呻いてくれた。




 「この・・・このケーキ、このケーキの名前はなんだ?」




 「このケーキの名前は

           『くたばれ!なろう小説!』

                       ですよ」ドヤァァァ!




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