前編1
「アカル、そろそろ店じまいの時間だぞ」
「今日もお客さん1人も来なかったねー」
ここは1ヵ月前に夢と希望を胸に開店した俺のナローケーキの店だ。お客さんが全く来てくれないことで俺の心は折れそうになっていた。
閉店前の店内にいるのは俺の他に2人。1人はナローケーキを取材しているフリーライターのサミー。もう1人が自称ナローケーキ中毒の患者のアンジェだ。
「1ヵ月の来店者数が1000人に届いて無いよな?俺の言った通りだろ、お前は俺らとの賭けに負けたぞ?というわけで今日はこれから、約束通り俺らに付き合ってもらうぞ?いいな?」
「アカルのナローケーキはさー、他人と違うことをやろうとしてるのはいいんだけどさー、サミーの言う通りまずは多くの人に見てもらうためにさー、今受けているものをよく知るべきなんじゃないのかなー。
まぁ今回の賭けの結果もいい機会だと思ってさー、ナローケーキの人気店を楽しもうよー」
半泣きの俺は悔し過ぎて図星過ぎて何も言い返せなかった。店じまいをして2人に促されるまま、ナローケーキのランク付の名店が集まる、メインストリートへ繰り出した。