目覚めた力、それは・・・
「おはよぉごじゃいまーす!!!」
ドスンの腹に飛び込んできたのはシチだ。
「シチちゃんおはよう・・・ふぁあ」
「シチっ!そんな起こし方したら『めっ!』っていつも言ってるでしょ?」
シチのお母さんミオリさんが注意した。昨晩、あの後シチの要望により俺はシチのうちに泊まることになった。
「疲れ取れたかい?」
「はい。ミオリさんの手料理とても美味しいです」
「そうかいそうかい。」
ミオリさんは嬉しそうに微笑んでいたが何処か遠くを見つめているようで落ち着かなかった。
「サトリ様ッー、サトリ様ッ!!!!」
村の若頭ユリトが血の気の引いたような顔をして駆け込んできた。
「────ッ、──ッ」
パクパクと口を動かしているが、声が聞き取れない。怯えているようだ。
「落ち着いて水をお飲み」
ユリトは受け取った水を一気に飲み干し、一息ついて口を開いた。
「グノンが、アイツにかかった──」
そういえば昨晩はいなかった。キクノの兄で長老の孫。
「早く来てくれ!!!」
ユリト手をひられて行った先にいたのは、肌の色が青い少年だった。正しくいえば肌は青くなった。例の病のせいで元々キクノような白い肌が青く変色した。
「なんで早く言わなかったのよぉ。お兄ちゃん......!!!」
グノンの傍らで泣き崩れているキクノがいた。
村医者も懸命に診ているが手の施しようがなく困り果てていた。
「サトリ様をお連れしたぞ!!」
ユリトの声に皆が振り向いた。
「さとりさま・・・」
キクノが救いの希望を得たと言うように期待の眼差しを向ける。俺、医者じゃないんだけど・・・
『まだ力の自覚がないか』
この声は・・・お釈迦様?!
『お主の力はなんだと言っておる!!』
お釈迦様の怒り声が脳内に響く。
((僧侶・・・?))
『お主の持っているその教本を開きなさい』
そう告げたお釈迦様のお声はノイズがかかり聞こえなくなった。
お告げの通りに教本を開くと、文字が浮かび上がって見えた。見えた、と言うよりも本当に浮かび上がっている。書いてある文が勝手に頭に入ってくる。
「なんだこれ・・・」
脳内に聞き覚えのある音が流れ出す。それは幼い頃から聞き続けていたお経だった。父が毎朝読んでいる。多分、今も読んでいるだろう。
「ナムアミダブツ・・・・・・」
聞きなれない言葉にキクノたちは不安な顔を浮べながら聞き入る。
俺はグノンに向かって唱え続ける。
だんだん読むにも力が入ってくる。浮き上がっている文字は俺をつつみ、グノンを包み込む。それは母親の温かな抱擁のように。
やがて光は空気に溶けて、視界がひらける。
「グノン・・・グノンは・・・!!」
長老がグノンに駆け寄る。
「すぅ・・・すぅ・・・」とグノンは寝息を立てた。肌の色も元に戻っていた。
「良かったあ・・・」
肩の力が一気に抜け、倒れ込んだ。
「サトリ様!」
心配して俺を揺するキクノに「少し横にならせてくれ」と微笑み返した。
『お前がこの世界を救うのだ。この世界はお前にかかっている・・・』
夢の中でお釈迦様にまた出会った。
『俺はどうすれば・・・?』そう聞くと、
『己を信じよ。』
『そ、それだけ!?』
つい、ツッコミを入れてると
『一気にネタバレしてもつまんないだろう』とお釈迦様は悟ったような表情を浮かべた。