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マフィア’ズ・ジャッジメント  作者: マスター
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犯罪都市


 マフィアというものが世界的に認められ、表立って経営や起業することを承認された世界。

 世界の経済は貿易を始めとした、ありとあらゆるビジネスに至るまで、マフィア達の財力、権力という名の根が深く張られていった。

 それらの世界の変革は、結果的に社会の近代化と平和に大きく貢献した。


 しかし、どんなに科学的な未来に近づこうと、どこまでも付き纏うのが『争い』ーーーー

 現代は会社同士の経営競争が激しく、敵対会社との潰し潰されが激しい。

 そして、現代の抗争は従来とは根本的に異なる部分があった。



 AM9:00

 ピロピロピロピロピロピロピロピロピロピローーーー

 絶え間なく鳴り響くスマホの目覚まし音。

 徐々に眠りの世界から現実へ引き戻されようとしている彼。

 名を 裁崎さいざき シン と言った。


 布団から片手だけ出して、頭上のスマホを手に取り、薄っすらと目を開けて目覚ましを停止させた。

 部屋の中は薄暗く、窓に掛けられたカーテンの隙間から僅かに差し込む光だけがあった。

 そんな中で、ゆっくり上半身を起こしてベッドの端に足を垂らす。

 暗く鋭い瞳に漆黒の髪。歳は18〜20といったところか。春先はまだ冷え込むようで、灰色のゆったりとした部屋着の中に着込んでいる黒いインナーが首元から見えた。


 仕方なくというように立ち上がり、寝起きでふらつく足で窓に近づくと、恐る恐るカーテンを開けた。

 カーテンの奥から照らしてきたまばゆい光に思わず、「うっ」と声を漏らす。

 その窓から見えた景色は、大草原でも、朝日できらめく海でも、美しい町並みでもなかった。

 見えたのは、道路を挟んだ向かいにある同じような見た目のマンション。

 下から聞こえたのは、いくつもの自動車の駆動音。音が近づいては遠ざかっていく。

 そんなどうでも良い音をしばらく聞いていると、いつの間にか眠気は無くなっていた。


「今日は木曜か」


 パジャマのズボンから取り出したスマホを見ながら言うと、眠気が冷めて重苦しさが取れた軽い足取りで自室を出た。

 廊下を歩く途中にあった小窓を順々に開け放っていく。その床は靴下の上からでも分かるくらいにはヒンヤリとしていた。

 先に見えたのはある程度広がりがあるリビング。置いてあるのは49V型テレビ一台とL字型の大きなソファー、その間には四角いテーブル。床はテレビとソファーがある範囲だけに絨毯が敷かれていた。

 テーブルの上にあったリモコンを手に取り、テレビの電源をつける。

 自分以外誰もいない沈黙の空間に活気を持たせようと、朝起きればテレビをつけるということが、いつの間にか自分の中で習慣づいていた。


『皆さん、おはようございます! 朝の報道ニュース、《モーニング》の時間です』

『朝一でお届けするのは、今や最先端の科学都市となっている米州。これについて、本日は経済学者のーーー』


 テレビから聞こえる会話音をある種BGMとしながら、リビングとつながっているキッチンに入り、冷蔵庫を漁って、牛乳とチーズ。それにフランスパンを取る。

 コンロの上に置いたままの鍋を開けると、昨日の残りと思われるシチューがあったが、完全にとろみを失っていたので、焦げ付かないようにゆっくりかき混ぜながら温め直していく。

 徐々に本来のとろみが戻ってきたところで、小さな戸棚から出した皿に盛り付け、コップに牛乳を注いで朝食の完成。


 ソファーではなく絨毯の上に直接あぐらをかいて座り、無言で食べ進めていく。途中、シチューを食べるスプーンの手を止めたと思ったら、どこかへ電話を掛け始めた。


『・・はい。こちら派遣窓口』


 三回ほどコールしたのち、聞こえてきたのは女の声だったが、どこか男口調と言うか・・女性にしては少々丁寧でない喋り方だ。


「裁崎だけど。何かいい感じの依頼入ってない?」

『んあ〜? なんだシンか。まだ営業前なんだが?」

「ああ〜・・・、それは悪かった。久しぶりに早起きしたから勘違いしてた」


 早起きしたのを忘れて、日中と勘違いして掛けてしまったことに審は今ようやく気づいたようだった。


『ふあああぁ〜。確かにめずらしいな。何か特別な日なのか?』


「いや。別にそういう事でもなく・・なんとなく目が覚めちまっただけだ。まだ早いってことなら予約でどうだ?」

『別に構わないけど、今のところ特に気前の良い依頼は入ってなかったと思うが・・』

「今日は今イチ本調子じゃないから、できれば荒事抜きでお願いしたい」

『・・はぁ〜。とりあえず、いつものBarに来るでいいだろ?』

「ああ」


 とりあえずもう少し寝かせてくれと、電話を切りたくてしょうがないような口調で提案してきたのに対し、これ以上不機嫌にしても不味いと思った審は短く返事をして通話を切った。


 朝食を済ませた後、自室に戻りクローゼットを開ける。同じようなスーツが5着と、ゆったりとした部屋着が3着ほどだけ。

 動きやすさを追求したスーツが最近の現代マフィアの正装となっている。ボタン部分がチャック式になっているワイシャツの上に、黒い清楚なジャケットを着る。

 机の上に無造作に置かれた登録証を内ポケットに入れ、後は洗面所で軽く顔を洗い、適当に寝癖を直せばOK。


 部屋を出る時、審は「あっ」と立ち止まり、少し戻って机の上にある小さな写真立てを手に取る。

 そこには、ガタイの良いおじさんに後ろから抱きつかれている幼き日の自分と、愛らしい少女が一人。少女と少年の容姿はよく似ていた。


「行ってきます」


 柔らかな笑みを浮かべて、小さく呟くと部屋を後にした。


 マンションが密集している北と南の住宅街の道路は行政区方面へ向かう車が行き交う。歩道にもポツポツと歩きでの出勤者がいるようだ。

 絶えず自動車の駆動音が鳴る通りを歩いて、マウンドアップされた歩道を利用し道路を跨ぎ、その通りを真っ直ぐ行った正面にモノレール乗り場はある。

 当然出勤時間だったので、駅のホームには大勢の人だかりができていたわけだが、シンは少し離れたところで傍観していた。

 

 マフィアの古い習慣を守って、常に清楚なスーツ姿でいる中年層の人ももちろんいるが、近代化が進む今日こんにちにおいて、仕事に支障がない程度の制服のアレンジが認められているし、駅のホームにいる人の色をザッと見ても様々である。また、審が着ているような化学繊維を編み込んだ動きやすいスーツ型の衣服も普及してきている。


 ちなみに武闘派とビジネスの割合は約5:4といったところだ。 

 ビジネスマフィアは武闘派を雇い自らの身を守る。そして武闘派は安定した収入を貰う。

 そうして両者ともWINWINの関係を築いている。まさに犯罪都市独特の社会形態だ。


「こりゃ、跳んだ方が良いかもな」


 意味深な言葉を発した直後、審の体が深い紫色の火花を散らせながら跡形もなく消えた。それから僅か数秒後に再び姿を現した場所は、通勤・帰宅ラッシュで混む駅以外は簡素な住宅街が密集するだけの区画とは、空気から風景までまるで違っていた。


 犯罪都市国家:中央亜州ーー世界に存在する4つの犯罪都市の内、アジアを支配下においている巨大都市国家。それが現在、審が在住している都市であり、4都市の中で最も情勢が安定している。

 広がるのは、近代的な建造物の数々。歩道を見れば、スーツのビジネスマフィアと武装マフィアが和気あいあいと立ち話。無数の車が向かう方向に目を移せば、一際目立った円柱状の超高層ビル。この都市で行われる全ての公的取引を管理する機関、国際ターミナルだ。


 この行政区は中心に行けば行くほど、建物が高くなっていく。一番外側から中間地点までは下町としてショッピングモールや飲食店、古風なBarなど。

 壁一面が巨大なスクリーンとなっている未来を感じさせる建物には、様々な広告映像が映し出される。

 審が歩くこの中央オフィス街の1番ストリートは、都市内で最も人が密集する場所だ。


 そんな中、大通りから徐々に外れていき辿たどり着いたのは、1番ストリートから右に2つほどずれた3番ストリート。

 ここは主にBarをメインとし、夜に立ち寄ると仕事帰りのマフィアたちで賑わう場所となっている。審が立ち止まったのは、ヤシの実の形をした大きな看板のシャレたBar、『ココッツ』ーー。


 ガラス張りのドアを開けていく。耳を澄ますとジャズが聞こえ、落ち着いた雰囲気が漂う店内。人影は、奥のカウンターに立つエプロン姿の男が一人と、カウンター席に女性が一人が振り向きながら喋りかけてきた。


「お。来たな、案外早かったじゃん。シン」

「モノレールが混んでたからな。仕方なく跳んで来た」


 「跳ぶ」という言い方は武装マフィアの中で使われている比喩表現であり、それこそが武装マフィアが行使できる『オメルタ』の力なのだ。


 『オメルタ』とはーー武装マフィアが交わす絶対なる"血の掟"。

 その儀式を経た人間は、身体能力が飛躍的に向上し、狂気的な力を行使できるようになる。

 先程、審が移動の際に使ったのは、"闇足あんそく"という、契約を交わした者なら誰でも使える簡易的かつ便利な小技の一つ。


「」

「俺は」


 審はカナデとの距離を椅子一つ分空けて座った。


「”雇われマフィアの審”なら余裕だろ?」


 喜んでいるこの女。先程の電話の主、名を笈川おいかわカナデという。歳は20前後。黒白の特徴的な外ハネの髪に、下まつ毛の長い黒い瞳。真っ白なシャツとデニムのショートパンツに黒ストッキングを穿いている。


常太郎じょうたろう、なんか適当にドリンク一杯貰える?」

「おう! ちょっと待ってな」


 高身長で茶髪のオールバックにくわえ煙草という男らしさ溢れる出で立ちでありながら、それでいて深い落ち着きがある雰囲気の彼が、元マフィアで、現在『ココッツ』のマスターをしている、椰子真やしま 常太郎じょうたろうだ。


 ここはオープンしてまだ1年ほどしか経っていないのだが、このBarには一つ秘密がある。それがこの笈川カナデ自身が窓口となっている、秘密の派遣窓口の存在である。

 ”雇われマフィアの審”と言うのは、雇われを専門としている同じようなマフィアの間で少しばかり名が知れて、通り名のように使われている。


『さて。明日あす、4月14日に行われる大企業の重鎮を招いての提督主催の会合ですが、既に会場となるホテルには厳重な警備網が敷かれ、セッティング等が進んでいるようです』


 壁掛けになっているテレビの画面にはホテルの敷地に配されている警備員の姿が映されていた。


「提督も、春先だから行事に追われて大変だな」

「内容的には企業同士の近況報告と、敵対会社についての情報交換だろうな」


 カナデはテーブルのタブレットを操作し、審の方にスライドさせてきた。

 開かれてたページには『臨時、警備員募集!!』とあった。

 詳しく読み進めると、ホテルの警備として提携を結んでいた警備会社に所属する警備員の大多数が都市外に派遣警備として行ってしまい、人員不足とのことだった。


「これか? 今回の仕事」

「そうだ。ご要望通り単純なやつだろ?」

「確かに。けどよ、こういう臨時募集ってぶっちゃけ報酬はどうなんだ?」


 カナデが(知りたいか?)というようなわざとらしい目を向けてくるのに対し、審は(さっさと喋れ)と急かす。


「報酬は当日の午後6時から深夜にかけての7,8時間で20万ってところだ」

「マジ? おいおい、随分気前良いな」

「分かってると思うが、こんな気前の良い話は滅多にないぞ? んん?」


 カナデはここぞとばかりに勧めてくるが、それも仕方ない。これがビジネスマフィアの性分なのだから。

 

「そんな積極的に勧めなくても、受けるよ。受けてやんなきゃお前が困るだろう?」

「分かってるじゃん! 荒事を含めて見れば、アンタほど優秀なマフィアは稀だからね。こうして親切に仕事を回してやっているのも、それだけアタシがアンタを信頼してるってことなんだからね?」


 それは重々承知していると、審はアイコンタクトでそれとなく示す。

 別に金に困っているわけではないが、一人暮らしに身には金はいくらあっても困らないというもの。


「毎度〜。それじゃ、登録証を出しな」


 ジャケットの裏から出した登録証を、タブレットの画面にかざして依頼の受諾を確認すると、審はそそくさと扉の方へ向かう。


「もう行くのか? どうせなら昼食べてったら?」

「いや。今日は色々と買い物済ませなきゃならないんだよ」  

「そうか。依頼の方は、警備会社から警備ナンバーがスマホに通達されるから。それを見せれば入れるはずだよ〜」


 去り際に聞こえてきたカナデの声に、審は振りむくこと無く、分かったと手だけ上げて店を出た。


「さて、カナデ〜。これから昼の客がわんさとやってくる。お前、表向きは店のスタッフってことになってんだからしっかり働いてもらうぞ!」

「は~いはい。分かってるって。あ、いらっしゃい」


 常太郎から受け取ったエプロンを素早く身に着け、笑顔で挨拶した。その口調や客の誘導はビジネスマフィアなだけあって、接客慣れしているようだった。



 

 

 先程の中央ストリートの方に少し戻り、ショッピングモールで買い物中の審は、カートを押しながら今日の夕食に使う食材を吟味していた。


「野菜類はやっぱ欧州産のやつが一番安全、か。中国産が多いこっちはいまいち信用に欠けるしな〜」


 などと、カゴに入れるのをためらう物ばかりだと見回していると、


「警告です。おとなしく拘束されるなら身の安全は保証しましょう。しかし抵抗を見せ

れば直ちに、殺処分に切り替えることになります!」


 そう言って背にしていた二頭の剣に手をかけた彼女の頬にある、『S』のタトゥーが黄金に煌めきだした。

 マフィアの絶対なる契約の力、『オメルタ』の発動である。

 「ちっ!」と舌打ちしたジャケットの男が懐から取り出したのは、今時珍しいありふれた拳銃。

 

「そんなものでは牽制にもなりませんよ!」


 銃口がこちらを向いているにも関わらず、彼女は真っ直ぐに駆けていく。

 

「うおおおおおらああああ」

 ガガンッーーー


 ヒゲの男が銃を両手で構え2連で発泡してきた。その弾道は以外にもかなりの正確さだったが、それが逆に彼女にとっては避けやすく、捌きやすかったようで、

 一発目を僅かな回避動作だけでかわし、二発目は剣刃けんばで軌道を反らし弾いた。

 

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