Prologue2:孤児たちの親
ハンズはその赤ん坊にこの本の名をとって『ハンロ』と名付けた。
そして、すぐさま彼はハンロを傷がないかなど、風呂に入れながら入念に診察していく。特に目立った傷などはなかったが、首元に黒い文様のような痣が見つかった。最初は汚れかと思い、擦り落とそうとしたが、まるで彫られていたように、取れることは無かった。彼は洗濯したての柔らかなタオルでハンロをふき、腕のなかで揺さぶりながらハンロが寝静まるのをまったあと、自室である書斎にもどった。書斎には教育学の本や、戦術に関する本まであり、相当な読書家である事がわかる。本棚の前に立つと様々なことを思い出す。彼の前職は王に支える戦略家だったが、一度のミスにより国外までとは行かずとも、スラム街の近くまで追い出されたのだ。故に彼は独りだったのだ。追放されたものなど誰も好まない、誰も関わろうともしない。そんな世の中で孤独を感じていたハンズを救ったのは、純粋無垢な子供たちであった。庭に生える植物に水をやる人、野良猫に食べ物を与える人、そんな姿をみて子供たちは悪い人などと思うことは無かった。次第に彼の家には子供たちがよく遊びにきていた。もともと彼も子供が好きで、そんな毎日を楽しく過ごしていた。しかしそんな現状を知った子どもたちの親は、そのことを良くは思わず、すぐに彼の家に行くことを禁止した。やがて、彼の家に遊びに行く子供たちは減っていき、ある日ハンズは風の噂でそのことを耳にした。その時に考えたのが今ある孤児院である。孤児院ならば、家なき子が集まるであろうと予想したハンズは行動に起こしたのだ。そのかわりに様々な問題が浮かび上がってきた。入ってきた子供たちを養うだけのお金。この分に関しては王の元で働いていた時のお金があったため、問題はなかった。しかし、子供たちが大きく成長した後、自立ができるように教育ができるかどうかという問題だった。ハンズは子供の将来を考えるが故に、きつくあたってしまい。あのような噂が流れる事もあった。それでも彼は教育方針を変えることはなかった。生きていく上での術を知っている限りを子供に教える。そうすることで一人でも多くの子供は立派に育つことができた。もうこの孤児院はできてから10年が経ち、今はハンロを除き誰一人として孤児はいない。しかし、ここを出て行った育った子供たちがハンズに会いに来るのだ。感謝を伝えに。あの時自分に心を鬼にしてでも生きていく術を教えてくれたハンズに。
彼は何度も読み返しボロボロとなった教育学の本を手にしながら頬を濡らし
「さてと、また鬼にでもなろうかね」
そっと優しく声を震わしながら言葉をこぼした。
そろそろ主人公の話に切り替わります。もうしばらくお付き合いください。