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第1話 「異世界へ」

……温かい。そういえば人の温もりってこんな感じだっけ。人の体温が確かに感じられる。体全体を何か温かい液体で包み込まれているような、そんな感じがした。

 次第にその温もりは離れ、体が外気に触れた。少し肌寒いが初夏の香りを乗せた、優しい外気だ。そんな温かさに触れた途端。記憶が溢れてきた。家族や、恋人の死、ずっと一人だったこと、絶望し麻痺していたはずの心が、再び動き出す。本来の働きを思い出したかのように、音を立てて動き出した。

 万感の想いが、叫びとなって、涙となって、溢れだした。


 「おぎゃあああああああああああ!!」


 ……あれ? 確かに想いとなって溢れたが……この泣き方は無いだろう。いくら俺がまだ学生だったとはいえ、いくらなんでもこんな泣き方はしていなかったはずだ。そう、こんな赤ちゃんみたいな泣き方……。赤ちゃん?

 俺は地球で確かに死んだ。地球と一緒に自分自身も破壊の対象に含めたから間違いはないはずだ。そして先ほどの赤ちゃんみたいな泣き声。そして何より、さっきから此方を幸せそうな笑顔で見ている少しイケメンなおっさん(お兄さん)がすべてを物語っている。


 (あ……。俺もしかしなくても転生したのかな?)


 小説の中だけの存在だと思っていた物語が自分の身に降りかかった気持ちは……。


 (案外……。胸糞悪いかもしれない)


 第一町人がイケメンのおっさんのせいで、全てが台無しだった。


 (もう、父さんの顔はいいから、母さんの顔見せてくれよ……)


 状況からして、この人が俺の父さんと見て間違いないだろう。仮に父さんじゃないとしても些細なことだ。俺が生まれる瞬間に立ち会わせてるんだから、母さんの気のおけない相手だということに間違いはないはずだ。

 だとすれば、俺の守るべき対象だ。

 守る。今度こそ。もう一度家族を与えてくれた。もう一度チャンスをくれた。まだ、母さんたちのことは、全く知らないけれど。産んでくれた恩くらい、ちゃんと返すさ。


 (神様…かな? 誰だかわからないけど、ありがとう。 

  おかげで俺はまた、人と触れ合うことができた。前回の世界は散々だったけ  ど、これからはちゃんと人を知れる。本当にありがとう)


 知らない誰かに感謝をしつつ、母のぬくもりに抱かれて、静かに意識を手放した。


------------



 半年の月日が過ぎ、ようやく俺は歩き(這う)始めることができた。なまじ前世の記憶を持っていることで、歩き方は赤ん坊には見えないだろう。

 この世界の標準語は、どうやら日本語らしい。日本語といっても、四字熟語や、ことわざの類は存在しないようだ。なので、こちらは特に学ぶべき点はないようだ。

 後、この世界には魔法があり、魔物がいる。魔物はかなり好戦的で、見境なく襲ってくる節がある。守るための障害物と成りえるものだ。知識をこれからつけていくべきだろう。

 魔法については、基本的に四属性。特別なものとして、光と闇があるらしい。四属性は誰にでも扱えるらしいが、俺にはまだ扱えない。しかし、魔法を不思議そうに見ている俺を見て


 「レデンもすぐに使えるようになるから、もうちょっとだけ我慢してね~」


 といっていたので、ある程度の年齢にならないと使えないらしい。

 ちなみにレデンというのは、この世界での俺の名前だ。両親(やはり父さんはあのおっさんだった)の会話を聞いたのだが、救世主から取った名前らしい。


 (救世主ね……。まるで皮肉だな)


 とは言いつつ、この名前は結構気に入っている。ちなみに父さんの名前はエスト。母さんが、フィールだ。家名はアポストで、この国の中堅貴族らしい。ここまでは全部盗み聞いたことだ。

 守るための力だが、前世通り破壊の力は使えるらしい。違和感のないところを感じると、いつでも使えることを確信する。


 (これで、最低限の守る手段は手に入れた……けど)


 先ほど聞いた通りだと、この世界に破壊を使える人はいない。前の世界でも、破壊を使えるのは俺だけだった。破壊の力は最終手段としておくことにする。


 それにしても、暇だ。この家には、本というものがないらしく、知識を得る手段がない。しばらくは、両親やメイド達の会話に耳を傾けつつ、のんびりと暮らすことにするか。


 家族やたくさんの人たちに囲まれている喜びと幸せを感じながら、日は過ぎていった。

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