プロローグ 「終わりの先」
「結局何も残らなかった。」
かつて首都、東京と呼ばれた場所の超高層ビルの屋上から荒れ果てた大地を悲しそうに見つめる少年がいた。周りには誰もおらず、屋上から見えるその景色の中にも、人は愚か、動くものすら見当たらなかった。首都として繁栄した東京でさえ、今はもう一人もいない。残ったものは、己と、空虚な心だけ。
「もう、いいよな? 俺は、頑張ったよな? もう楽になっていいよな?」
少年は何かを確かめるように呟く。もちろん答える人なんていない。トドの詰まり、自己満足ということだ。
全てが消えてしまったこの世界で。大切な人も消え、全て灰になった後で。それでも少年は生きている。生きても意味はないと、薄々勘付いてはいるが、何かを見出そうと少年も必死だった。
それから、何日か過ぎた。食料自体は、まだまだ余裕はある。元々、何千単位の人たちが数年暮らしていける程の施設だったのだ。人一人がどれだけ贅沢をしようと、差し障りのない事情だった。
もう、一人でいることにも飽きた。所詮、人が、一人で生きていることは不可能だ。どこかの本にも書いていたが、支え合っていくことで初めて、生にしがみ付くことができる。まぁ、もうしがみ付いたところで意味はないが……。
「……飽きたな。もう、いいかな……」
習慣的に続けていた生存者の探索も今日をもって終わりにする。約束も、思い出も、縛られるのはもうたくさんだ。こんな力も、守れないのなら意味はない。持っていても意味はない。壊すだけの力で守ろうとすることに、きっと、無理があったんだろう。
日が昇り、沈む。いつも通りの日常がひたすらに過ぎていく。
「よし、死ぬか!」
思い切りはよかった。むしろ今まで死ななかった方が異常だ。一人で歩き続けてきた道も、今日で終止符を打とう。すべてが始まった日と同じ月日。そして、大切な人の誕生日であり、命日である日と同じ月日に。
「まぁ、一人で死ぬのは寂しいし、一緒に死のうぜ」
破壊の代名詞である、自分の力を地球へと向ける。いままで使ったことのないほどの力を込めて。
地面から光が漏れて、裂けていく。
この日、地球最後の生命が、かつて生命の星といわれた星とともに、広大な宇宙の中から、恒星よりも明るい光を放ち、公然と姿を消した……。