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魔王の救世主様  作者:
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悪魔との顔合わせ



 自分の眼前に居並んだ面々が放つプレッシャーに、宗一は己の判断が正しかったことを確信した。


(戦闘になったら間違いなく死んでたな)


 彼らの前では自分の命など足元を這う羽虫も同然だろう。

 疑う余地などないほど眼前の魔族達は強者の風格を纏っていた。それも体格的に明らかな子どもに至るまで、である。


「皆、ソウイチに名乗りなさい」


「「「はっ!」」」


 アリシアの言葉に応じまず最初に名乗り出たのは、燃え盛る炎のような赤を髪と瞳に宿した見るからに気の強そうな少女――レイチェルだった。

 その視線は宗一を射抜かんばかりに鋭く、仲良くしようという空気はみじんも感じられない。


「レイチェル・サーフ。アリシア様の盾だ。もしアリシア様に危害を加えるようなことがあれば消し炭にするぞ」


「れ、レイチェル!」


「ああ、肝に命じておこう」


 アリシアは攻撃的な態度を取るレイチェルを諌めたが、宗一からすればそれは真っ当な反応だった。無警戒だったり、それどころか友好的であれば、むしろそちらの方が宗一は頭を悩ませただろう。

 だがそれは杞憂に終わる。


「ワシはオリバー・スケールズという。人間に期待はせんが捨て駒くらいの役割は果たせよ」


 とにかく「デカイ」と形容するしかない顔に傷を持つ大男。


「…………」


「僕はリン・ディボットで、こっちは妹のリア・ディボットです。可能な限り僕らの視界に入らないでくださいね」


 片や無言で宗一を睨み、片や笑顔で毒を吐く金髪の幼い兄妹。


「ベアトリス・ノーチェよ。月の無い夜は気を付けなさい。“夜”に飲み込まれないように、ね」


 胸元が大胆に開かれ、大きなスリットが入った黒いドレスに身を包んだ妖艶な笑みを浮かべる女性。


「カイル・トリスタンだ。多くは語らんが口の聞き方は慎め」


 二本の剣を腰に携え、騎士然とした精悍な顔つきの男などなど、総勢十人ほどの魔族が代わる代わる名乗り出るが、誰一人として宗一に友好的な態度は取らず、敵意をむき出しにする者も多く居た。

 アリシアは宗一の気を悪くしないか内心はらはらであったが、当の本人は魔族達の反応にいたく満足していた。宗一は戦争がどんなものかは知らないが、殺し合いに臨むと考えるならば皆が及第点であると評価した。


「ご丁寧にどうも。改めて救世主とかいう大任を任されたソウイチ・タカムラだ。仲良く……ってのは無理そうだが、まあ共に勇者とやらをぶちのめしてやろうじゃないか」


 上機嫌の宗一は永らく忘れていた、腹の底から沸き上がる歓喜に顔を歪めた。口角がつり上がるのを抑えられない。


(ああ、こんなに愉快な気分は本当に久しぶりだ)


 あの笑みを見た魔族の一人は後にこう語った。


「あれこそがまさに“悪魔”の笑みだった」――と。












 リア・ディボットはソウイチ・タカムラが浮かべた笑みを直視してしまい、思わず上げそうになった悲鳴をなんとか喉の奥で食い止めた。

 しかし視線はもう向けられそうにない。

 咄嗟に掴んだ兄であるリンの掌もじっとりと滲み、頬にも冷たい汗が伝っていた。


(こいつは魔族じゃない。けど……きっと人間でもない)


 出会い頭の衝撃弾を回避した動きは素人のものではなかったし、「共に勇者とやらをぶちのめしてやろうじゃないか」という台詞を聞いて、リアもソウイチが凡庸な人間でないことは理解した。

 人間にとっては絶対の希望である勇者がぶちのめすなど、それは暗に敗北宣言である。

 魔族にとっても人間にとっても戦争に敗れることは種族としての尊厳を奪われることを意味する。絶対に受け入れられない言葉だ。

 にも関わらず人間のはずであるソウイチは自らの手で勇者を打倒するというのだ。


 仮にそこで終わっていれば、リアのソウイチに対する印象もわずかに好転したかもしれない。

 だが、リアは見た。見てしまった。


 リアの知る限り魔族にも人間にも、あんな心を凍てつかせるような笑みを作れる者は存在しない。

 それはまるで理屈を越えた恐怖で、本能を蹂躙するかのような笑顔だった。


(こわい……)


 リアがそう感じるのは彼女が未熟だからという訳ではない。兄のリン共々実戦には何度も出ているし、殺した人間の数なんて手の指が十倍あっても数えきれない。

 まだ幼くはあれど実力は折り紙付き、経験も実績もうず高く積んできた。決してリアの未熟が故ではないのだ。

 その証拠に歴戦の猛者であるアリシアの側近達もソウイチの笑顔に冷たいものを感じているのがリアにも見て取れた。


 力でも数でも圧倒的に有利な自分達魔族がか弱い人間であるはずのソウイチに対して過剰なまでの敵意を向けているのは、ソウイチに抱いている恐怖の大きさが比例したのに他ならない。


 最底辺から全てを支配するかのような、あり得ないはずの現象。

 それを己の目で見、肌で感じたリアは思う。



 ソウイチ・タカムラ。

 魔族でも人間でもない、恐怖の象徴が魔族の地に降り立った瞬間に、自分は立ち会ってしまったのだと。



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