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魔王の救世主様  作者:
19/24

ゴリラ

かなりお久しぶりの投稿で、尚且つ短いです。

読んでくれている方には申し訳ないです。



 いきなり異世界、それも魔族の巣窟に召喚された宗一が抱いた印象は、存外社会的に律された国である、ということだった。

 ゲームや漫画に疎い宗一ではあるが、魔王が治める国と聞けば秩序の無い、精々力による恐怖政治でも敷いているようなイメージが真っ先に浮かぶ。

 しかしこうして実際に魔族の国に触れてみれば、少なくとも表面上は社会性を有していることは明白だ。


 だが、だからと言って元の世界の常識が通用するわけもない。

 ここは紛れもなく異世界で、宗一の眼前に立ちはだかり今にも攻撃を仕掛けてきそうなオリバーも元の世界の常識など微塵も適用されそうにないほど脅威的なプレッシャーを放っていた。


(そもそもサイズからしてあり得ないし)


 オリバーの身長は軽く見積もっても3メートルに届かんばかり。

 人間として常識的な大きさではない。無論、魔族なので人間の常識に当て嵌まらないのは当然なのだが。


「なあ、本当にやんの?」


 言外に“勘弁してくれ”という意味を含めてみるが、オリバーはそれを読み取ってはくれなかった。

 この辺りがレイチェルから脳筋呼ばわりされる所以である。


「もちろんだ!お前の体術は確かに中々のものだが、お前の策は危険なのだろう。だからワシが戦闘の手解きをしてやる!」


「本番前に死にそうな気がするから遠慮s」


「行くぞ!」


「話聞けや!」


 突撃の体勢を見せたオリバーに対して咄嗟に飛びすさった宗一の耳元をゴウッ! という風切り音が掠める。

 その後に続いたのは鉄球がビルの壁を打ち砕くかのような破壊音だった。

 必死にオリバーから距離を取ってその拳の到達点を見れば、石でできている闘技場の床が無惨に砕かれていた。

 あれが自分の体だったとしたらゾッとするどころの話ではない。


「避けなかったら死んでたんだが?」


「避けたんだから問題はないだろう」


「大有りだわ、主にお前の頭に」


 宗一の言葉にこの手解きという名の苛めを見守っているカイルが頷く。

 仮に宗一が死ねば王家派魔族は勇者に討伐され、最悪魔族という種自体の存亡も危ぶまれることを果たしてオリバーは理解しているのだろうか。


(っていうか理解してる奴は止めてくれよ……)


 助けを求めてカイルに目を向けるが、依然としてそ知らぬ顔である。

 万が一避けきれなければ割って入ってくれるとは思うが油断は禁物。

 手足の1~2本は「まあいいか」と考えられている恐れもある。

 やはり自分の力で切り抜けることを第一に考えるべきだ。が……


(そうは言ってもさっきの突進と拳撃はほとんど見えなかったわけで)


 回避に成功したのは単に運が良かっただけだ。

 動体視力と回避能力に自信のある宗一ですら初見で見切るのは困難な代物である。


「その巨体であの速度は反則だろ、弾丸ゴリラめ」


「む、“ごりら”とは何だ?」


「俺の世界で最も強い人間に与えられる名誉のことだ。世の人気を二分するのは今も昔も“英雄”と“ゴリラ”さ」


「ほう!」


「お、今の『ほう』を逆さにするとすげーゴリラっぽい」


「うほうほ!」


(清々しい程の馬鹿だ!)


 会話を引き延ばして付け入る隙を探そうと無駄口を叩くが、予想以上にオリバーの食い付きがよい。

 こうまで全力でからかわれてくれると、ついつい宗一の悪戯心が首をもたげてしまう。


「ゴリラは自分の胸板を両の拳で交互に叩き、その雄壮なる振る舞いをもってしてこんな口上を述べる。

『近き者は目にも見よ、遠からん者は音に聞け!』ってな」


「それはまた勇ましいな!」


「歴戦のゴリラはその口上だけで数キロ先の敵さえ震え上がらせ、中には気絶した者もいるほどだ。世界広しといえどもゴリラを名乗れるのはオリバー、お前くらいだよ」


「ガハハ、聞けば聞くほど“ゴリラ”とはワシを称えるためにあるような名ではないか!」


「間違いないな。ってなわけで早速ゴリラの口上を練習してみよう。修得できれば人間達との戦争で威力を発揮できる」


 手解きのことなどとうに忘れ去ったオリバーを唆し、宗一監修による大自然と歴史がブレンドされたおふざけが開始された。


「近き者は目にもグォホェ!」


「やはり全力で胸を叩きながら声を出すのは困難か……」


「ゴホゴホ!……だがゴリラはこれを乗り越えてこそなのだろう?」


「ああ、この苦難を乗り越えてこそ皆に本物のゴリラとして認められる」


「ならばワシはこの道を突き進む!そして世界中の者に認めさせるのだ!

 ワシこそが真のゴリラであるとなあああああ!!」


(お前はもう既にゴリラの化身だけど……しかしなんで自分の胸を力一杯叩いてむせるだけで済むんだ?本物のゴリラのドラミングでさえ拳じゃなくて掌なのに)


 恐るべきは己の破壊的な威力の拳にも耐えきる堅固な防御力。

 どうやらオリバーは宗一が考えているよりさらに飛び抜けて規格外らしい。

 もしかしたら魔族という種族自体が宗一には計れない生物なのかもしれないが。


 などと考えて自分の胸を叩きながらむせ続けるオリバーを見守っていると、いつの間にやらやってきていたリンとリアが理解できないものを目にしたような顔でカイルの隣に立っていた。

 リンがオリバーを指差して宗一に尋ねる。


「……あれは何ですか?」


「世紀の馬鹿だ」


「いえ、そういう意味じゃなくてオリバーさんは何をやっているんですか?」


「全力で俺にからかわれてる」


「そうですか……」


「………」


 これ以上は何を聞いても無駄だと判断して、リンは目の前の光景について考えることを放棄した。

 一切口を開かないカイルとリアも似たような心情である。


「しかしナイスタイミングだ先生、魔法の勉強といこうぜ」


 足取りも軽く闘技場を降りた宗一をカイルが呼び止める。


「待て、あれはどうするつもりだ?」


 宗一は未だに全力で胸を殴打するオリバーを見やって、一言だけ告げた。


「まあ飽きたら止めんだろ」




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