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魔王の救世主様  作者:
18/24

不穏

更新遅くて申し訳ないです。

しかも短い。



 サシャは自分が置かれた状況に萎縮しまくっていた。

 魔神の付き人となっただけでも荷が過ぎる事態だというのに、どうして下級魔族で給仕としても半人前の自分が“こんな場所”に同席しているのか。もう泣きそうである。

 事の起こりは宗一の「サシャを魔天楼との顔合わせに同伴させる」という一声だった。

 魔天楼とは言わばフィガード王国の幹部や重要人物が集う国家機関。

 王宮で下働きしている自分が関わることなど一生無い場所であるはずだった。

 それがなんの因果か魔神の付き人を任命されたかと思えば、次は国家の重鎮が集う会合に同伴することになったのだ。


(これは何かの天罰なの?今まで慎ましやかに生きてきたのに……ごめんね、お父さんお母さん、私は生きて帰れないかもしれない)


 恐怖のあまり頭の中では生を諦めた言葉ばかりが駆け巡る。

 そんなサシャに追い討ちをかけるのが同伴する場にはアリシアやカイルなど王宮内の御偉方が勢揃いしているという状況だ。

 ここに集った者達にとってサシャの命など冗談の一つで消し飛ぶような代物だろう。

 彼らの前では自分など限りなく無価値で無意味で、とんでもなく場違いな存在だ。

 きらびやかな宝石の中に紛れた路傍の石は、存在を悟られればその場から退場させられる定めなのだから。


「サシャ、行くぞ」


「か、畏まりました……」


 それでも震えて崩れそうになる両の脚に力を込めて、サシャはなんとか一歩を踏み出した。













 謁見の間の奥で出番を待っていた宗一はアリシアの呼び掛けに応じて魔天楼という組織の者達の前に姿を現した。

 とは言ってもその装いは昨日カイルと町に出たそれで、ローブの中にはサシャが選んだ正装を着込んでいるものの、顔も表情も周囲からは窺い知れない。

 見慣れぬ……と言えば王宮内の魔族達も見慣れないのばかりなのだが、明らかに城にいる魔族とは違った雰囲気の二人に自然と目が向く。

 一人は腹の出た中年男、もう一人は若く屈強な体をした青年だ。

 宗一はこちらを値踏みするような中年の視線を無視し、意図的にゆっくりした動作でアリシアと言葉を交わす。

 急造ではあるが、自分なりに魔神っぽい重みのある声を意識した口調で。


「我が名を呼んだか、同胞たる魔族の王よ」


「ええ、貴方の姿を一目見たいと脚をお運びになられた者達がいるのです」


「ふむ、察するに如何にも矮小なこの二人か」


 お返しとばかりに相手を見下す。

 それを不快に感じたか、二人の顔がわずかに強張った。


(いや、この程度で顔に出してちゃ駄目だろう。アリシア達の話じゃ魔天楼は交渉事に慣れてると思ったんだけど……まさか戦争の命運を握る魔神に下っ端を差し向けるとは思えない。

 もしかしてわざと無礼な態度を取らせてこっちの器と力量を見定めようとしてるとか?だとしたらなんという捨て駒……ん?“無礼な態度”?)


「貴方が噂に聞く魔神にございますか?」


「どの様な噂かは知らぬが、我が魔王アリシアの召喚に応じたのは偽りなき事実よ」


「……左様で。申し遅れました。私の名は――」


「いらん。我の前で名乗りたければ貴様が我の益になることを証明してからにしろ。雑種の名など一々覚える気はない」


 中年男の名乗りを遮ってあからさまな挑発を行う。

 この所業に魔天楼の二人はさらに顔を歪め、アリシア達も肝を冷やす思いで宗一を見ている。

 反王家派が気に食わないのは王宮内で満場一致なのだが、それでも現在の勢力図を考えれば明確な敵対は避けるのが賢明である。

 それを理解しているからこそこうして反王家派も大手を振ってここまで来たのだ。


(それはソウイチも分かっている筈ですが……)


 しかし宗一は強気な姿勢を崩さない。

 これで話は終わりだと言わんばかりに退室を促す。


「さて、我の姿を拝みたいという貴様達の用件も済んだだろう。これ以上は時間の無駄だ、去ね」


「お、お待ちください!」


「我は“去ね”と言ったぞ。貴様らの話を聞いているより、サシャとの余暇を過ごしていた方がまだマシだ。そうは思わんか?」


「は、はいぃ!?勿体ないお言葉ですっ!」


 いきなり話を振られたサシャの反応はとても褒められたものではないほどに狼狽えている。

 が、逆を言えば暗に下級魔族で給仕に過ぎないこのサシャ以下の存在である、と宗一は魔天楼の二人に告げたのだ。


「精々我の手足となることだ。使えると分かればその時は名前を覚えてやろう。なんなら我の尊顔を拝ませてやろうではないか」


 嘲笑いつつ、目深に被って鼻先まで覆っていたローブをさらに引っ張る。

 魔天楼の二人からすればもはや宗一の口元しか目にできない。


「もう一度だけ言う。目障りだ、さっさと消えろ」


 結局、魔天楼の二人はまともに話をするどころか、顔すら見ることなくジェレミア城を後にすることとなった。












 トラス・ファーガストは悪態を吐きながらテーブルに並べられた山のような料理を手当たり次第に貪る。


「クソ、クソッ!私を馬鹿にしおって……!」


 本来魔族にとって嗜好品であるはずの“料理”を好むトラスは、その突き出た腹にどんどん食べ物を詰め込んでいく。

 しかしその顔に浮かんでいるのは快楽的な愉悦ではなく憤怒。

 伯爵の位を持つトラスは貴族の中でも取り分けプライドが高い。

 そんな男が魔神――宗一から受けた屈辱を許容できるはずもなく、こうして嗜好品をやけ食いしてはいるものの、その怒りは一向に治まる気配はない。


「トラス様、暴食はお体に障りますよ」


「煩い!」


 側近のロイ・マウリシオは君主を諌めるが、トラスはそれを聞き入れる耳を持たない。

 わざわざ自らの足で現王家当主が召喚したという魔神の力量を見極めるために出向いた。

 付け入る隙を見つければ魔天楼上層部の覚えも良くなるだろうし、著しく力を落とした王家の連中もこちらを無下に扱うことも出来なかったはずである。


 だがいざ対面してみれば魔神はこちらを徹底的に見下し、まともに言葉を交わすどころか名乗ることも顔を見ることすらも叶わなかった。

 あれはもう顔合わせなどと言えたものではない。あれではまるで――


「侮辱されるために出向いただけではないかっ!」


 トラスは空になった皿を力の限り投げつける。

 破裂音にも似た音と共に四散する食器に他の給仕絶ちは体を竦めるなか、ロイは悠然と近付くと宥めるように囁いた。


「落ち着いてください、トラス様。魔神――いえ、ソウイチという戯け者の決定的な弱味を握っているのは私達だけなのですから。

 これを利用すれば王家を瓦解させることも容易でしょう。そうなればトラス様の名声もより誉れ高きものになるかと」


「ロイ……ふ、ふははは、そうだ、その通りだな!私の計画に狂いは無いのだ。王家は今の内いい気になっておればよい」


 見た目には怒りを治め、しかし瞳には復讐の炎を燃やしたトラスは憎々しげに呟いた。





「今に足元を掬ってやる。私を虚仮にしたこと、地獄でその身を焼かれながら悔いることだ――忌々しき人間め!」




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