第一話 森の兄妹と優しい約束
森の中に、小さな小屋がありました。
そこには、兄と妹が住んでいます。
森には、たくさんの妖精がいました。
木の妖精、花の妖精、葉っぱの妖精。虫たちも、おしゃべりをします。
兄妹は、そんな妖精や虫たちと、とても仲良しでした。
毎日、にぎやかで楽しい時間を過ごしていました。
ところがある日――
森の外から、子どもたちがやってきました。
虫かごや、花かごを手にしています。
それを見た兄妹と妖精たちは、大あわて。
「大変だ、どうしよう!」
花の妖精が震えます。
「大丈夫。ぼくが話してくる」
お兄ちゃんは、そう言って立ち上がりました。
そして、子どもたちの前に歩いていきます。
「ねえ、君たち。虫を取るの? お花を摘むの?」
子どもたちは、少しびっくりした顔で答えました。
「そうよ。お母さんがお花が大好きだから、摘んであげようと思って」
「ぼくの弟がね、バッタを取ってきてほしいって泣くんだ」
お兄ちゃんは、少しだけ考えてから、やさしく言いました。
「そっか。誰かのためなんだね」
子どもたちは、こくんと頷きます。
その様子を見て、お兄ちゃんは少し笑いました。
「じゃあ、お願いがあるんだ」
「お願い?」
「この森はね、みんながちゃんと生きてるんだ。花も、虫も、妖精も」
子どもたちは、きょとんとしました。
「だからね、持って帰るんじゃなくて、ここで見ていってほしいんだ」
風が、さやさやと葉っぱを揺らしました。
「ここで見たこと、家でお話してあげたらどうかな」
「お花のことも、バッタのことも」
しばらくの沈黙のあと――
「……わかった。じゃあ、そうする」
女の子が、そっと花かごを下ろしました。
「ぼくも、見るだけにする」
男の子も、虫かごを閉じます。
その瞬間、森の奥から小さな声がしました。
「ありがとう」
それは、花の妖精の声でした。
子どもたちは驚いて、でも少し嬉しそうに笑いました。
その日、森にはたくさんの笑い声が広がりました。
お花もバッタも持って帰らないけど、
大切なものは、ちゃんと胸に残ったのです。




