夢日記
懐かしい字、懐かしい本、私は手に取り読み始めた。
いつからだろうか、あの子と夢の中で会うようになったのは……。
そう、私がまだ小学生だった頃の春、桜が咲き出した頃、私は名前も知らないあの子と知り合った。
桜の咲くあの公園で。
夢の中での私は本を読むのが趣味で友達はいない。いつも1人で公園のベンチに座って本を読むのがすきだった。
この日もいつも通り本を読んでいる夢だった。
「いつも、なに…読んでるの?」
聞き馴染みのない男の子の声だった。優しくてどこか力のなさそうなそんな声だった。
「これはね、闘病中の女の子が公園で絵本を読んでて、そこで出会った男の子が彼女を支えて2人は恋をするお話。でもね、結末は切ないの。」
「なんだか出会い方は僕達と似てるね!まさか病気だったりしないよね?」
「うん、元気だよ」
そんな会話をしたあとその男の子と仲良くなった。
1つ年上だが、初めてできた友達だった。
それから毎日私は夢を見ると必ず彼は現れた。
時には一緒に本を読んだり、たあいもない話をしたり、かくれんぼしたり、色んなことをして過ごした。
時々彼は白紙の本に二人の日々の日記をつけていた。
ほんとうに毎日が楽しかった。
本を読むことしか無かった私の人生に色がついたそんな感覚だった。
彼はこれからもずっと来てくれると約束してくれた。
でもいつの日か、彼は夢に現れなくなった。
私がちょうど中学生になった頃の事だった。何も言わず、急に現れなくなった。
私は寂しかった。悲しかった。
胸が苦しくなった。そしてその時に自分のこの感情が恋だということに気がついた。約束してくれたのに……。
その頃から私の夢はまた公園でいつものように本を読む毎日に変わった。
来なくなってから最初の頃は本を読みながら度々泣いては本を読んでを繰り返していた。
そして数年が経った、まだ胸に彼はいるものの泣くことはなくなった。
桜の咲き始めた春、私は彼との出会いの思い出に浸りながら、いつもの公園で本を読んでいた。
「今日は…何を読んでるの?」
聞き馴染みのある声が聞こえた。
私はしおりを挟み、パタッと本を閉じ声のした方をみた。
そこには、数年前までよく遊んだり話したりしてた彼が立っていた。
「久しぶり」笑顔で彼がいい、私も驚いた顔で久しぶりと返した。
なんで急に来なくなったのか、問い詰めたかったが、彼から話してくれた。
受験でどうしても来ることを許されなかったらしい。
そう聞かされ、ほっとした。
本心嫌われたのかと思っていた。
ほんとによかった。また会えてよかった。そう思うと涙が止まらなかった。
それを見た彼は何も言わず私を抱きしめてくれた。
気づいた時には「好き、ずっと一緒にいたい。離れたくない」
その言葉を口走っていた。
彼は少し悩みげのある顔を浮かべたが、「わかった。付き合おう」といってくれた。
それから私たちは夢の中で交際することになった。
今までは公園で過ごしていたが、それからは水族館や遊園地、夜景を見に行ったり、公園ではなく違うどこかで二人の時間を過ごすことが増えた。
写真も動画も沢山増え思い出もたくさん出来た。
毎日夢がほんとに幸せだった。
そんな幸せな日々を過ごしてるある日、「明日大事な話がある」とだけ聞かされた。
プロポーズかなと少し頭をよぎりそわそわしながら次の日の夢を待った。
前のように彼が居なくなることはないと確信していた…………。
緊張しながら私は眠りにつく、そして約束した場所。
それは彼と出会った桜の咲く公園。
しかしベンチには彼の姿はなかった。
彼は現れなかった。
ベンチには1冊の本だけ、ぽつんと置いてある。
懐かしい字、懐かしい本。私は手に取り本を開いた……。
そこには、私と知り合ってから一目惚れしたこと、私と仲良くなってからの日々、楽しい思い出、付き合うことになったこと。デートの思い出、二人の時間。
そして……
出会った頃から彼は余命を受けた重い病気であったこと………。
受験と言っていなかったあの時間は入院していてうごけなかったこと。
私と出会って余命よりも長く生きられたことを。
「これを読んでる時、僕はもうこの世にいないかもしれない。
約束を守れなくてごめんね。
ほんとに大好きだよ。愛してる。
元気でね。」
私は泣き崩れた。
そして……全てを思い出した。
これは私の夢なんかじゃない。
現実にあったことだ。
私は彼の死を受け入れたくなく記憶を失い、夢で過去の記憶を、彼の日記を綴った本を見ていたのだった。
私は本を抱きしめ、彼と出会った公園に行った。
それからも私は、いつもの公園で彼と出会った公園で本を読んでいる。
彼の書いた本、私たちの夢日記を。
「夢日記」を読んで頂きありがとうございました!
これは僕が初めて書いたお話になります。
これから色んなお話を書いていきたいと思うので、ぜひ他のお話も読んでみてくださいm(*_ _)m