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第3話

 入学初日から、わたしは注目されていた。

 それは容姿のせいだけではない。


 平民出身、特待制度、成績最上位――そのすべてを備えた新入生。

 いわば、“異物”でありながら“理想像”でもあった。


 


「ルミーナ嬢って、ほんとに平民なの……?」


「手の動きとか、言葉遣いとか、普通の貴族より上品よ」


「憧れるけど……話しかける勇気ないよね」


 


 そんな噂が、昼休みの講堂でささやかれていた。


 その空気は、ひんやりとしたガラス越しの賞品のよう。

 美しすぎて、手が届かない。近づけば壊してしまいそうな存在。


 だから誰も、隣に座ろうとしなかった。


 


 そんな中――


「ルミーナ嬢、よろしければこちらへ。私の隣が空いている」


 第二王子セディリオの声が響いた瞬間、講堂が静まり返った。


 


(……来たわね)


 


 わたしは静かに礼を取り、椅子を引く。


「ありがたく、お供させていただきますわ」


 


 そのやり取りだけで、空気が変わった。


 


「王子……すごい……!」


「やっぱり、あの方なら……」


「王子が声をかけてくれたなら、ルミーナ嬢も安心よね」


 


 王族だから許される。

 王子だから“特別”な接し方ができる。


 そんな不文律の承認が、学園中に広がっていくのを感じた。


 


 でも、わたしにはわかっていた。

 この空気すらも、“演目の舞台装置”でしかないと。


 


 王子と交わす会話は丁寧で、優しく、穏やかで。

 わたしは演じる。“天使”として、可憐に、聡明に。


 


(……完璧よ。少し緊張している風も混ぜて。彼の保護欲を引き出す)


 


 だが、ふとした瞬間に視線を感じる。


 顔を上げると、貴族席の中段――公爵令嬢で王子の婚約者のフィアナ様が、こちらを見ていた。


 静かに、強く、そして……何かを探るようなまなざしで。


 


(……彼女には、通じないかもしれない)


 


 心の奥にひとすじの緊張が走る。


 


 一方、フィアナは思っていた。


(ルミーナ嬢……確かに“美しい”。でも、その完璧さは、まるで仮面)


(それを“剥がす”のは、おそらく……殿下しかいない)


 


 彼女の視線の奥に、少しだけ哀しみがあった。


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