第2話(セディリオ王子視点)
王立アルセレナ魔法学院には、代々、各地から才能ある者が集まる。
貴族もいれば、平民もいる。だが、平民がここで生き残るのは容易ではない。
その中で、“特待生”として異例の扱いを受けた少女がいた。
名は――ルミーナ・エルファリア。
地方出身の平民でありながら、魔力量、筆記試験、実技すべてにおいて歴代上位。
さらに、貴族社会に通用する礼儀作法と教養も備えている。
“ありえないほど完璧”な経歴だった。
だが、その「完璧さ」が――妙に引っかかる。
「彼女が、特待生の……?」
礼拝堂で姿を見た瞬間、俺の中の何かが騒いだ。
銀髪碧眼、白い制服に純白のケープ。まるで祝福そのもののような少女。
拍手とざわめきの中、ルミーナは壇上に立つ。
「このたび、特待制度により転入を許されたルミーナ・エルファリアと申します。
未熟者ではありますが、皆さまと学びを共にできること、心より光栄に思いますわ」
その一礼は、貴族の令嬢顔負けの優雅さだった。
しかし、俺の目は――違うところに釘付けになっていた。
(体の動きが……“隙がなさすぎる”)
まるで武人のように、背筋が伸び、重心のブレがない。
言葉の選び方も、完璧だ。けれど、あまりに“模範解答”のようで、そこに“素”が感じられなかった。
そして彼女は、俺を見た。
澄んだ碧の瞳。その奥には――何かを隠している光が、確かにあった。
「第二王子セディリオ・リュゼルト・グランベリウス殿下。
本日は、ご挨拶の機会を賜り、誠に光栄ですわ」
「……こちらこそ。ようこそアルセレナ学院へ、ルミーナ嬢」
微笑を返しながら、俺は背筋に微かな緊張を覚えていた。
これは――ただの“優等生”ではない。
まるで、完璧な仮面を貼り付けて、“何か”を達成するためにここに来たような……
そんな、不気味なまでの完成度。
(……彼女は、何を隠している?)
その疑問と共に、心の奥がざわついた。
だが、そのざわめきは、なぜか“恐れ”ではなく、“もっと見たい”という興味に変わっていく。
まるで運命が、俺の目の前に“仕組まれた出会い”を差し出してきたかのようだった。