番外編 その後
この日の朝も、パンの焼ける香りで目が覚めた。
ここはエルディール村。王都から遠く離れた、緑と光に包まれた小さな村。
私と、元第二王子のセディリオが営むパン屋「ひだまりの麦畑」には、今日も朝からお客さまが並んでくれている。
お店の裏手では、ふたりの男の子が麦畑を駆けまわっている。
長男のシエルと、フィアナが育てる次男のレオン――双子の兄弟。
血のつながりはある。でも育った環境も、性格も、全然ちがう。
「シエル、また靴を泥だらけにして! もう、ママに叱られますよ」
「へーきへーき! あとで拭くもん!」
「……“後で”は、“やらない”の言い換えですよ」
すっかりおなじみのやりとりに、私もセディリオも笑いながらパンをこねる。
そして今日は、月に一度の“家族の集まり”の日。
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午後、ノアール公爵領からやってきた馬車が村に到着した。
降り立ったのは――気高き気配を纏った女公爵、フィアナ・ノアール・ヴァルトライヒ。
凛としたその姿は、今でもまばゆいほど美しい。
「おまたせしました。ルミーナ、シエル、セディリオ……そして、レオン」
彼女が名を呼ぶたびに、胸の奥が少し温かくなる。
レオンが駆け寄ってフィアナの手を取ると、彼女は静かに微笑んだ。
その姿はまるで、誰よりも誇り高い“母親”だった。
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テラスの長テーブルに、私の焼いたパンとフィアナが持参した果物のタルトが並ぶ。
セディリオが子どもたちに紅茶を注ぎ、フィアナがレオンの髪を整えてあげる。
誰も「不自然だ」とは思わない。
ここでは、誰もが自然に、ひとつの“家族”として座っている。
「ねぇ、ボクたちって“兄弟”なの?」
シエルがぽつりと呟いたとき――
フィアナは一瞬だけ視線を落として、それからまっすぐに答えた。
「ええ、そうよ。血も心も、あなたたちは兄弟。ずっと、これからも」
わたしも、静かにうなずいた。
「そして家族。みんなで、家族なの」
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日が落ちて、子どもたちが寝静まったあと。
フィアナと私は並んで夜空を見上げる。
「レオンは、あの夜あなたが託してくれたから、今がある。……ありがとう、ルミーナ」
「フィアナこそ、あの子を誇り高く育ててくれて、ありがとう」
その言葉を交わすだけで、胸がいっぱいになった。
フィアナの気持ちに返事をしないまま時が過ぎた。
私は答えを出せないまま、この形に甘えてしまっている。
けれど、それでも――この関係は本物だと思える。
ふと、フィアナが優しく微笑んだ。
「家族って、こんなふうに、作っていけるのね」
そう、私たちは――ただの家族じゃない。
選んで、築いて、信じ合ってきた“家族”だと信じている。
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