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その純情、演技です。“悪女”は今日も天使のフリをする  作者: 風谷 華


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18/18

番外編 その後

 この日の朝も、パンの焼ける香りで目が覚めた。


 ここはエルディール村。王都から遠く離れた、緑と光に包まれた小さな村。

 私と、元第二王子のセディリオが営むパン屋「ひだまりの麦畑」には、今日も朝からお客さまが並んでくれている。


 


 お店の裏手では、ふたりの男の子が麦畑を駆けまわっている。

 長男のシエルと、フィアナが育てる次男のレオン――双子の兄弟。

 血のつながりはある。でも育った環境も、性格も、全然ちがう。


 


 「シエル、また靴を泥だらけにして! もう、ママに叱られますよ」


 「へーきへーき! あとで拭くもん!」


 「……“後で”は、“やらない”の言い換えですよ」


 


 すっかりおなじみのやりとりに、私もセディリオも笑いながらパンをこねる。


 


 そして今日は、月に一度の“家族の集まり”の日。





 午後、ノアール公爵領からやってきた馬車が村に到着した。


 降り立ったのは――気高き気配を纏った女公爵、フィアナ・ノアール・ヴァルトライヒ。


 凛としたその姿は、今でもまばゆいほど美しい。


 


 「おまたせしました。ルミーナ、シエル、セディリオ……そして、レオン」


 


 彼女が名を呼ぶたびに、胸の奥が少し温かくなる。


 レオンが駆け寄ってフィアナの手を取ると、彼女は静かに微笑んだ。


 その姿はまるで、誰よりも誇り高い“母親”だった。





 テラスの長テーブルに、私の焼いたパンとフィアナが持参した果物のタルトが並ぶ。


 セディリオが子どもたちに紅茶を注ぎ、フィアナがレオンの髪を整えてあげる。


 


 誰も「不自然だ」とは思わない。


 ここでは、誰もが自然に、ひとつの“家族”として座っている。


 


 「ねぇ、ボクたちって“兄弟”なの?」


 シエルがぽつりと呟いたとき――


 フィアナは一瞬だけ視線を落として、それからまっすぐに答えた。


 


 「ええ、そうよ。血も心も、あなたたちは兄弟。ずっと、これからも」


 


 わたしも、静かにうなずいた。


 「そして家族。みんなで、家族なの」





 日が落ちて、子どもたちが寝静まったあと。


 フィアナと私は並んで夜空を見上げる。


 


 「レオンは、あの夜あなたが託してくれたから、今がある。……ありがとう、ルミーナ」


 


 「フィアナこそ、あの子を誇り高く育ててくれて、ありがとう」


 


 その言葉を交わすだけで、胸がいっぱいになった。


 フィアナの気持ちに返事をしないまま時が過ぎた。

 私は答えを出せないまま、この形に甘えてしまっている。


 


 けれど、それでも――この関係は本物だと思える。


 


 ふと、フィアナが優しく微笑んだ。


 「家族って、こんなふうに、作っていけるのね」


 


 そう、私たちは――ただの家族じゃない。


 選んで、築いて、信じ合ってきた“家族”だと信じている。


最後までお読みいただきありがとうございます。よろしければ、感想・いいねなどいただけると作者が喜びます。

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