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プロローグ(フィアナ(悪役令嬢)視点)
「――この場をもって、公爵令嬢フィアナ・ノアール・ヴァルトライヒとの婚約を破棄する」
その声が響いた瞬間、講堂の空気が凍りついた。
沈黙のあとに押し寄せたのは、怒号、驚愕、困惑。
上級生も教師陣も、誰ひとりとして動けなかった。
けれど、当の本人であるわたくしは――
静かに、優雅に、床に膝をつく。
白いドレスの裾が広がり、まるで処刑台に立つ花嫁のようだった。
「……了承いたします、殿下」
そう告げたわたくしの唇は、確かに、微笑んでいた。
愚かだと笑う者もいた。
哀れだと泣く者もいた。
でも、誰も知らなかったでしょう?
この“破棄”が、
この“ざまあ”が、
この“悲劇のヒロイン”の役割が――
わたくしが望んだ未来だったことを。
わたくしの視線の先に立つ彼女。
銀の髪、澄んだ瞳、光を纏うような少女――ルミーナ。
天使のような微笑みの裏に、誰にも知られぬ剣を隠す“あの人”。
(ようやく、ここまで来たのですね)
(さあ、物語を始めましょう。演じるのは、“真の悪女”)
わたくしの恋と忠誠と、そして――罪の記憶を乗せて。