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後妻に入ったら、夫のむすめが……でした  作者: 仲村 嘉高


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16/20

16:王の偏愛

センシティブな内容を含みます。

その為、敢えての三人称です。

読まなくても話の筋は判りますので、自己判断(自衛)お願いいたします。



 王からの愛は、決してレグロの母リアナが望んだものではなかった。

 あまり体の丈夫でなかったリアナは、アレンサナ侯爵子息セサルと結婚するまでは殆ど公の場にも出ていなかったので、当時は王太子だった王とも面識は無かっただろう。


 それでもその美貌は社交界では有名で、ただの伯爵令嬢だった頃から「幻の妖精姫」や「天空の華」などと呼ばれていた。


 結婚の報告で王家主催の夜会に参加したリアナに一目惚れをした王太子が、公妾になるように、と打診したのも当然だろう。

 既に人妻だった為に、側妃としては迎えられない。



 公妾を無理強いする事は出来ない。

 当然、リアナもセサルも断った。アレンサナ侯爵も、家として正式に断りの文書を送っていた。

 普通はここで終わりだった。


 そこで終わらないのが、王家の壊れた血である。


 侯爵家の使用人の一人を権力で脅し、侯爵家のタウンハウスからリアナを誘拐。そのまま王城の奥へと監禁していたのだ。

 王妃が気付き救出した時には、既にリアナは妊娠していた。

 侯爵家に戻された彼女は、もうどうしようも無い程、壊れてしまっていた。


 当時、王妃がリアナを公妾として王太子(むすこ)に差し出す事を提案したくらいなので、察するに余りある。

 一度断った公妾の件を蒸し返すなど、通常は考えられない事なのだから。


 それでもセサルはリアナと添い遂げる事を選んだ。

 アレンサナ侯爵家は傍系親族に任せ、リアナが落ち着いたら領地で静かに暮らすつもりだった。



 壊れたリアナは、腹の中の子をセサルの子だと思い込んでいた。

 大きくなる腹を撫で、子守唄を歌い、早く生まれておいでと声を掛ける。

「貴方に似た男の子かしら。女の子でもとても可愛いでしょうね」

 幸せそうに微笑み、幸せの絶頂にいた。


 ここで、彼女の幸せは終わる。


 生まれた子供は、セサルには似ていない。

 当たり前だ。血の繋がりなど無いのだから。

 それでも最初は良かった。

 生まれた当初は、母親であるリアナにとても良く似ていたからだ。


 しかし成長するにつれ、生まれた子供レグロは、本当の父親に似ていった。

 会った事も無い実父と、ふとした仕草が同じだったりもした。

 それを見て、夢の中に居たリアナは現実に引き戻される。


 監禁され、凌辱され続けた地獄の日々。

 助けてと叫び、セサルの元へ《《()()()》》と泣いた。

 それを見て(わら)い、「本当にお前を愛しているのは自分だけだ」と囁いた悪魔。

「その証拠に、お前を迎えに来る者はいないだろう?」

 王城の奥に監禁しておいて、そう(うそぶ)いた。




 生まれた子供を、それでもセサルは可愛がった。

 愛するリアナが産んだ子供だから。

 体の弱いリアナに、二人目の出産は無理だったのだ。

 憎むべき男の子供だが、愛するリアナの子でもある。

 セサルの中の葛藤は、周りで見ている者が辛くなるほどだった。


 その葛藤は、終わりを告げる事になる。

 ある日、部屋で休んでいたはずのリアナが、裏庭の石畳に倒れていたのだ。

 場所は、リアナの部屋の窓の下。自室の窓から飛び降りたのだ。


 リアナの部屋の前を通り掛かった使用人が、「この悪魔!」と叫ぶリアナの声を聞いていた。

 驚いて扉を開けた使用人が見たのは、窓から下を眺めるレグロだった。



 使用人は何も見ていないし、レグロには当時の記憶は無い。

 もしかしたら幼い子供が母に甘えようと、両手を広げて近付いただけかもしれない。

 しかし、禁止していたにも(かかわ)らず、一人で母親に会いに行ったレグロを、セサルは許す事が出来なかった。


 実父に似てきたレグロを、リアナは本当に嫌悪し、恐れていたから。




 レグロは乳母に育てられた。

 貴族の子供としてはおかしくないし、政略結婚が当たり前の高位貴族では珍しい事でも無い。

 その乳母が王家の息の掛かった者でなければ。


 リアナの死を知ってから、実父からの干渉が増えた。

 ただ褒めそやすだけの家庭教師に、甘やかすだけの使用人。レグロの周りは王家から紹介された者で固められた。


 学校を卒業したレグロは、王城の警備という仕事を任された。

 やる事は、国王とのお茶である。

 優秀な自分は、王に忌憚無き意見を述べる場を用意された、とレグロは誤解した。

 常に家庭教師や学校の教師に褒められていたのだから、当然だ。


 そして、レグロも壊れた血は受け継いでいる。

 他人を思い遣る事が出来ない、自分が良ければそれだけで良い、唯我独尊、その道に立っていた。




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