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後妻に入ったら、夫のむすめが……でした  作者: 仲村 嘉高


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01:結婚しました




 今日は私の結婚式です。

 そうは言っても再婚同士なので、列席者はお互いの親戚のみ。

 ウエディングドレスもシンプルなもので、ベールも短めです。


 実は再婚と言っても、私の最初の結婚は、結婚前に夫となる人が戦地に行ってしまい、そのまま戦死したので白い結婚でした。



 私が18歳になった時に、夫になる人が出征前に記入した書類を提出して結婚したのです。結婚生活は書類上では1年です。


 元夫の両親は、私に既婚歴を付けない為に、白い結婚だと証言するから結婚自体を無かった事にしても良いと言ってくれました。

 でも彼と私は幼馴染で、本当に大好きだったので、結婚した記録を残したかったのです。


 私は伯爵家へ嫁ぎましたか、夫が死亡したので次男が家督を継ぎ、私は実家へ戻りました。

 慰謝料を払うと言われましたが、義両親と一緒に過ごした1年は決して不幸では無かったので、丁重にお断りしました。




 夫の喪も明けてしまい、両親の元には色々な再婚を打診する書類が届いていました。

 それが2年前で、私は20歳でした。

 まだ結婚適齢期内です。


 いつまでも実家にいる訳にはいかなかった私は、住み込みの家庭教師(ガヴァネス)として働き始めました。

 その時に、今の夫と知り合ったのです。

 お世話になっていた侯爵家のご当主の弟君のご友人で、(たま)に顔を合わせて会釈する程度でした。


 その当時はまだ弟君も結婚しておらず、侯爵家に同居していたので、私が夫と死別した話を彼から聞いたのかもしれません。

 侯爵邸の廊下で突然声を掛けられた時は、何て礼儀のなっていない方なのかと驚きました。



「突然すみません。あの、私も若くして伴侶と別れたので……」

 レグロ・アレンサナ侯爵子息と名乗った彼は、私の3歳上。亡くなった夫と同い歳でした。

 その為に、少しだけ親近感が湧いたのかもしれません。


「お互い、色々大変ですが頑張りましょうね」

 私は彼にそう声を掛けてました。

 その事がきっかけになり、見かけると会釈するだけだったのが、挨拶をするようになりました。

 そこから少しずつ話をするようになり、休みの日に街へ誘われ、何度か一緒に出掛けた時でした。



「私にはむすめがいるのですが……あ、血は繋がっていないのです。妻が出て行った後に養子にしました」

 休憩に入ったカフェで、彼がそう話し始めました。


「あまりベッドから出れなくてね」

 彼の言葉の意味よりも、「出()れなくて」では? と、家庭教師をしている私は気になってしまい、曖昧な返事を返してしまいました。

 それをどう取ったのか、彼は色々と義娘(ぎじょう)の事を私に説明してくれました。


 学校に行けないので「きちんとした教育を受けさせたい」。

 人とあまり接して来なかったので「社交界の規則を教えてやりたい」。

 難しい気質なので「気のおけない相手に世話をして欲しい」。


 侯爵家なのだから、それこそガヴァネスを雇えば良いのでは? その時は、そう助言をして終わりました。



 それから彼は会う(たび)に、私に義娘の話をよくするようになりました。

「今日は、珍しく庭の散策をしていたんだよ。とても可愛かった」

 本当に可愛くてしょうがない、という表情で報告してきます。

 血が繋がってなくても、ずっと一緒にいると愛しくなるのでしょう。


 実際、私もお世話になっている侯爵家のお嬢様の事は、本当に可愛いと思うし、立派な淑女にしなくては! と使命感に燃えておりました。

 だから、絆されてしまったのです。



「僕と結婚して、むすめの世話をして欲しい」

 彼の求婚の言葉は、普通ならば断られるようなものでした。

 ですが私はまだ亡くなった夫の事を忘れられなかったし、ゆっくりと家族になっていくのも良いと思い、了承しました。

 義娘を大切にする誠実な人だと思ったのもありました。


 義娘との顔合わせを、「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようで」との理由で何度も反故(ほご)にされたのは、気にならなかった言えば嘘になります。

 それでも、本当に申し訳なさそうに彼が謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまいました。




 そして半年の婚約期間をおいて、今日の結婚式となりました。

 披露宴は無く、結婚式場から直接新居へと向かいます。

 今日から私は、カリナ・アレンサナとなります。


 ところで、先程から気になっているのですが、新婚夫婦の馬車に一緒に乗って新居に向かっている、その女性はどなたですか?




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