第2話:異形との共同生活
「これが私の聖域…もとい、研究室です!」
私の部屋に入ったタケシさんは目を丸くした。壁一面に貼られたゾンビ映画のポスター。棚には頭蓋骨の模型や脳の標本。机の上には積み上げられた研究ノート。
「キミ、ホントにゾンビ好きなんだな…」
タケシさんは震える手で頭を掻きながら言った。彼の肌はますます青白くなっている。
「さあ、早速検査しましょう!」
私は採血キットを取り出した。医療資格なんてないけど、実験用のモルモットで練習済み。
「えっ!?ちょ、ちょっと待って!」
彼が抵抗する間もなく、私は手際よく血液を採取。暗赤色の血。粘度が高い。典型的なゾンビの特徴だ。
「うわぁ…美しい…」
私が血液に見とれていると、タケシさんの腹がまた鳴った。
「すみません…また、あの、生肉が…」
冷蔵庫から取り出した牛レバーを差し出すと、彼は我慢できないように食べ始めた。でも今度は、少し理性が働いているようだった。
「ごめん…俺、なんてことを…」
タケシさんは手を血で汚しながら泣いた。私は不思議な気持ちになった。これまでゾンビは研究対象でしかなかったのに、彼の涙を見ると胸が痛い。
「大丈夫ですよ。これは症状の一つです。感情が残っているのは良い兆候!」
私はデータを記録しながら説明した。
「明日から一緒に治療と研究を始めましょう!今夜はここで休んでください」
タケシさんはソファで丸くなった。私はベッドで彼を観察しながら、新しい研究ノートを開いた。
「タケシの症例:ハーフゾンビ化の進行と抑制に関する研究」
そのタイトルを書きながら、私は気づいていた。この研究は、純粋な学術的興味だけではなくなっていることに。
窓の外では雨が続いていた。私の心にも、これまで感じたことのない感情が、静かに降り始めていた。