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六節

空白のキャンバスのような銀世界から一転、みだらに散らばる桜の花びらが空のキャンバスを埋めていた。

自室の窓辺でそっと筆を取った。

この光景を文字で書き留めて、写真に留めておかなきゃいけない。君とこの光景を見たいと思ったからだ。

やはり春は美しい。人がこの時期に恋愛をしようと躍起になることも分かる気がする。

この春の温もりと恋の甘酸っぱさ、初心さがミルクティーのように絡み合っていく。

紅茶の風味とミルクのまろやかさが生み出すあの満足感のように、僕の心を、視界を満たす。

「綺麗だ。除夜の鐘よりもこっちの方が煩悩が消えていくような気がするわ」

僕は呟いて、ハハッと笑った。

僕らがどんなに頑張っていたってこの綺麗さと心地よさは表現できないように思える。

ハルは今頃何をやっているのだろうとぼーっと思念してみた。

おそらく、春が来た喜びでありもしない君だけの唄を口ずさんでいるのだろう。

「こんな季節に春風邪か、、」

治りかけであるがまだ少しだけ重い身体を動かす。

まさかとは思うが、僕とあの桜の木の下で会えないことを寂しがっているわけでも無いだろう。きっと春の魅力をじっくりと味わっているだろう。

ーーーい!ーーーん!わーーった、、!

君の幻聴まで聞こえ始めた。やはり僕はまだ治っていなかった。そう思い僕は布団に潜ろうとする。

「静次!お見舞いに来たよ!」

ドンッという擬音が鳴り響きそうな豪快な台詞が自室に響く。

君が僕の部屋に来たという事を、認識できた僕は咄嗟に掠れた声で叫んでしまった。

「ギィィィィィィィヤァァァァァァァァァァァァッッッ!!」

「うぇっほい!」

僕の絶叫が謎の反応によってかき消された。

君は、耳を塞ぎながら、頬を膨らました。

「その絶叫はなんだ!静次!むぅー!」

「ごめんごめん、来てくれるなんて思ってもいなかったしさ」

その言葉を聞いた君は微かに上を向いた。ふとその顔を見ると頬が少し赤みがかっていることに気がついた。

「そりゃ、そうじゃん。君、大切な人だもの」

「っっ」

思わず僕は狼狽える。風邪の熱とは違うものが僕の身体の心から湧き出る。その結果、僕は顔を真っ赤にして手のひらで覆い隠す。

「(急に、、ずるい)」

「ん?なっていったの?静次」

「な、なんでもらぁい!」

「噛み噛みだけど」

心臓がいつもよりも多く鼓動を刻み、身体の中の血液が躍動する。

いつもより気まずい空気となった部屋の中から逃げるように君は帰っていった。

それでも、僕だけに夏のような猛暑が襲い続けていた。


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