全面的な記憶
「イーサン!」
ミサは朽ち果てた大門の入口に駆け寄ったが、荒れ狂う黒い気によって一歩も進めなかった。
その黒気はまるで生きているかのように、時折膨らんだり縮んだりして、イーサンの周りを取り囲み、他人が近づけないように門を塞いでいた。
「魔王様……」
先程の興奮とは打って変わって、イドは眉をひそめ、門の奥にいるイーサンを見つめた。その表情は期待とは程遠く、イーサンの変化に強く警戒している。
「ドラン様、ミサ様、戦闘の準備を!」
「え?」
ミサは困惑の声を上げ、隣のドランは多くを聞かずにすぐに前に出て、二人を背後に庇いながら剣の先を祭壇の上のイーサンに向けた。
「フフ……」
祭壇の上のイーサンは突然、二度小さく笑った。それは何か激しい感情を抑えているかのようで、不気味な雰囲気を醸し出していた。
「お前が何年も忠実な犬でいられたおかげで、主の状況がよくわかるな。ハハハハ!」
イーサンは頭を仰け反らせたまま、自分の世界に浸っているようだったが、口にする言葉は耳に刺さるような辛辣なもので、以前の礼儀正しい言動とは正反対だった。
先程黄金の鎧を倒したときと同じように、冷酷で傲慢な雰囲気が彼に固定されたようだった。
「今の彼は魔王様ではない!」
「でも、これはイーサンじゃないか?」
イドは敵意に満ちた目で「イーサン」をじっと見つめ、握っている武器の手が白くなるほど力を込めていた。
イドの反応を楽しんでいるかのように、「イーサン」は「生命の女神の心臓」を抱え、ゆっくりと祭壇を降りてきた。そのときドランは初めて気づいたが、先程から絶え間なく湧き出ていた生命の気が完全に消え、「生命の女神の心臓」の透き通った宝石の外側に黒と赤の紋様がいくつか増えていた。
「フフ、私はお前たちに私を直視する権利を与えてやる。よく見ろ、私はイーサン・ブライディールだ。」
彼はまた口調を変え、少しの貴族的な威厳が加わりながらも、相変わらず蔑視と軽蔑に満ちていた。まるで彼と会話できること自体が恩恵であるかのようだった。
「お前は魔王様の身体を盗んだただの敗者だ!」
「敗者」という言葉を耳にした瞬間、「イーサン」の表情は明らかに暗くなり、周囲の黒気が彼の感情を反映するかのように激しく波打ち始めた。
「今お前が息をしていられるのは私の慈悲だ、野良犬め。」
ドランは剣を構えたまま、その状況がまだよく理解できなかったが、目の前の人物が自分の知っている「イーサン」ではないと確信していた。長年の傭兵経験が、今この場で油断してはならないと彼に告げていた。
「魔王様に何をした!」
「イーサン」は足を止め、「生命の女神の心臓」を手に取りながら愉快そうに微笑んだ。
「余計な質問だ、
私がお前たち下賤の民の王となることを、むしろ感謝すべきだろう。」
「クソ野郎!」
イドはその放言を許せず、飛びかかってその口を裂いてやりたかったが、理性が彼を抑えた。自分がその「イーサン」の外見をした人物に傷をつけられるかどうかは別として、彼の周りの黒気だけでもイドの命を奪うには十分だった。
「一体どういうことなんだ、イド。」
ドランは冷静にイドに説明を求めた。彼はこれが魔族の真の目的であると確信していた。普段なら黙って見過ごすが、今は命がかかっている。知っている者から真実を引き出さねばならない。
「地上の虫ども、私の名を讃えることを許そう。」
「イーサン」の高慢な態度に、ミサは嫌悪感を覚えずにはいられなかった。彼は皆を見渡し、その視線には冷たさと無情しかなかった。ミサたちの価値は、今の「イーサン」にとって、まるで塵のように見えているのだろう。
イドはイーサンの姿をした男を見つめながら、歯ぎしりをし、誰も知らない名を絞り出した。
「彼はすでに陥落した神、戦争の神デクリンコだ。」
――
「戦争の神デクリンコ?」
私は脳裏に浮かんだ映像で聞いたその名を思わず繰り返した。
ドランたちが聞いたことがないのはもちろん、王国や帝国の蔵書にも、その名は見当たらなかった。特に神殿の祭司が祀る神々の中には、「戦争」という神号は一つも存在しない。
「生命の女神の心臓」から手を引き、頭を掻いた。理解できないことが多すぎる。
この階段を下りてこの広い部屋に辿り着いたときから……いや、もしかしたら迷宮の森に足を踏み入れたときから、すべてが私には理解不能な状況ばかりだった。
「生命の女神の心臓」の下にある透明な箱に目を移す。四角い形状から箱だと思っていたが、それにしても大きすぎる。大人の男が入るくらいの大きさで、まるで水晶の棺だ。
正直に言うと、それはまさに棺の役割を果たしていた。なぜなら中に一人の人間が横たわっているからだ。それは――
私だ。
そう、「私」が元の世界の服を着て静かに横たわっている。裸じゃなくてよかった。誰かがここに来て「私」の裸の姿を見ているなんて、考えただけで嫌だ。
「私」の胸が上下しているのが見えなければ、これは本当に棺だと思ってしまったかもしれない。
「あなたの指示通りに一部の映像を見たが、答えは得られなかった。むしろ疑問が増えただけだ。」
私は「水晶の棺」の向かい側に立つ影に問いかけ、満足のいく説明を求めた。
「言っただろう、最後まで見ろって。」
彼は透明な箱に体を乗せ、不機嫌そうな顔をしていたが、すぐに気分を変え、楽しそうに箱の表面を叩いた。
「もう少し説明してほしい。」
「いいだろう、ヒントをやる。
神は不滅だ。お前も見たはずだ、堕ちた神々は神座に戻る。破片を集めればいいだけだ。時間はかかるが、いずれは目的を達成できる。神にとって時間なんてものは、ほんの一瞬だ。代償なんて大したことはない。」
彼は私に目を向け、右手で私の鼻を指差しながら、私が彼の考えに追いつくことを期待しているようだった。しかし、この少ない情報で私にそれを求めるのは、少し無理があるのではないだろうか?
だが、彼の様子を見る限り、それ以上話す気はなさそうだったので、私は頭の中で情報を整理し、推理を始めるしかなかった。
「破れた力を集めるって言ったけど、カディアン峡谷の力は全部魔族の創造に使われたはずじゃないか……まさか!」
「ピンポーン、君の推理は正解だよ~」
彼はわざとらしい声でそう言い、私の答えに満足したことを示した。
「つまり、戦争の神は自由に力を制御することはできないけど、条件が整えば、特定の魔族の体を使って復活することができるってこと?」
「一部は正解だね。一般的には、彼の力の大部分は種族を創造するために使われ、その後は魔族の健康や思考に影響を与えること以外、何もできなくなる。復活なんてもってのほかさ。ただ、地上の生命にとって、神の意思は非常に強力なんだ。
「君の言った通り、適切な条件が揃えば、彼……いや、今は『彼』だね、が復活することができる。そしてその条件は一つだけ。君なら知っているはずだよ。なぜなら、その答えは君の目の前にあるんだから。」
私の目の前には、“生命の女神の心臓”があった。
「これが“生命”の力か?神でさえ、もう一度やり直すチャンスを得ることができるのか?」
私は神の権能の神秘さと強大さに、思わず感嘆してしまった。
目の前にいるこの男のように。
正直、彼がなぜここにいるのか分からなかった。彼との少ないやり取りの中で感じた神秘的な雰囲気そのままだった。私がこの部屋に来たとき、彼は笑顔で私に挨拶をし、無意味な自己紹介をした時点で、私は思考を諦めかけていた。おそらく、これが彼の神秘の氷山の一角なのだろう。
「ぼんやりしてないで、続きを見て。」
「今の印象、全然違うね、桦さん。」
「…ほぅ…そうかい?人は知らぬ間に変わるものさ!」
彼は箱を叩いていた手を止め、一瞬、意味深な表情を見せた。笑いを堪えているようにも、私の言葉を玩味しているようにも見えたが、その後すぐに楽しそうな表情に戻り、「生命の女神の心臓」に記録された映像を見続けるように促した。
ここに他に誰もいないから、彼は完全に自分を解放しているのかもしれない。
先ほどの一瞬の違和感が何だったのかは分からなかった。ただ、その疑念を心の中にしまい込み、「生命の女神の心臓」に手を再び触れ、その接触部分から脳内へと流れ込む情報を感じ取り、それが理解可能な映像、音声、体感へと変わっていくのを感じた……
まるでその場にいるかのようだった。
——
「無礼なことだが、死にかけの虫けら相手に怒りを抱くのも無駄だ。」
イーサン、いや、イーサンの姿をした戦争の神デクリンコは、依德が自分の尊名を無礼に唱えたことに対して、優雅な口調で不満を表明した。
「それにしても、この体の持ち主はブライディールという名らしいが、彼が“生命の女神の心臓”を奪取した時の行動は悪くなかったな。地上のアリごときにしては、そんな術式を編み出し、自分の命まで犠牲にしようとしたんだ。
「だが、彼の計算は外れたようだ。」
デクリンコは挑発的な視線で依德を見つめた。
彼は大げさに、そして劇的に“生命の女神の心臓”を目の前に持ち上げ、まるで面白いことを思い出したかのように口角を上げ、勝者の態度を見せた。
「彼は最後に私への制約を完全に解き、私の力を使って“生命の女神の心臓”の拒絶を打ち破ろうとした。彼は“生命の女神の心臓”を手に入れた瞬間に私を抹消しようと企んでいた……
「ハハハ、戦略としては、彼は戦争の神に認められたと言えるな!」
彼は半目を細め、依德の悔しさと怒りを眺めながら、頭を傾けていた。
「君たちがここに関係する遺跡を見つけることができたのは、すべて私の仕掛けだ。どうして私が何も手を打たないと思う?今の私に不利な情報を巧妙に隠しておくために、それなりに手間をかけたよ。
「私がここまで落ちぶれたのはすべて“生命”のせいだ。だが、彼は絶対に思わなかっただろう。君たちに残された救いが、最終的に私の復活のための嫁入り道具になるなんてな。ハハハ、君たちが長寿の種族だとしても何の関係もないさ。私は彼らの使徒が去ってからずっとこの策を練っていたんだから。」
彼は完全に勝利を確信しているようで、自分の力に酔いしれたかのように話し続けた。
「お前……何を言っているんだ?」
依德は、彼が話した「仕掛け」に全神経を奪われ、思わず問い返した。
依德の反応に、デクリンコは非常に満足したようで、また自分の話を続けた。
「私が制御できる権能はほとんど残っていないが、それでもいくつか有用なものはある。魔族の支配者たちの思考にじわじわと影響を与え、数千年の間に君たちの血統を統合し、少しずつ君たちをあの遺跡へと導いてきたんだ。
「そして、前の魔王が在位していたときに、ついに私の力の一部を魔族王室に集結させ、君たちがあの遺跡に注目するように仕向けた。魔族がその遺跡を発見した時の、救いを掴もうとする様子は、実に滑稽だったよ。」
依德はその場で呆然としていた。まさか、自分たち全族が何世代にもわたって追い求めてきた目標が、かつて自分たちの種族を迫害した元凶によって仕組まれたものだったとは。そして、デクリンコは自分の手腕を誇示し、魔族の自救行動を嘲笑していた。
理智は激しく警報を鳴らしていた。依德だけでなく、杜兰や米莎も、目の前の「戦争の神」と戦えば、彼らが全滅するのは明らかだった。最も直接的な証拠は、黄金の鎧兵の敗北だった。イーサンが「戦争の神」の力の一部を借りただけで、絶望的な戦力差があった黄金の鎧兵を打ち破ったのだ。今、退路のない彼らは、イーサンの体内に復活したデクリンコの宣言を黙って聞くしかなかった。
「質問するがいい、許してやろう。これが最後の慈悲だ。」
「なぜ魔王様の体を支配しているんだ?」
外見がイーサンそのものであるデクリンコを怒りに満ちた目で見据え、依德は怒りで顔を紅潮させながらも、冷静を失わず、今最も知りたい質問を投げかけた。
もし古文書の記述が正しければ、イーサンが「生命の女神の心」に触れた瞬間、彼は「生命」の力を使い、自身に宿る「戦争の神」の意思を先に払いのけるはずだった。しかし今の状況はその記述とは正反対だった……。
依德はデクリンコが先ほど口にした言葉を思い出した。彼は自分に不利な情報を古文書から隠していたのだ!
「虫けらの脳など所詮この程度か。」
デクリンコは軽蔑の視線を依德に向けた。彼の身体の外に広がる黒い霧の範囲外にいた三人に、正体不明の圧力が襲いかかる。
デクリンコの周囲に漂う黒い霧は彼の意思に従い、静かに収束し、その全てが彼の身体に引き込まれていった。
「考えが変わった。今ここで、お前たちに死を宣告する。」
デクリンコがそう言った瞬間、真紅の槍が虚空から飛び出し、まっすぐにミサの顔面を狙った。
依德とデクリンコが会話をしている間、杜兰は周囲の状況を観察していた。
突如として起こった変化にも、杜兰は冷静さを失わなかった。彼は常に攻撃を警戒していたため、素早く身を翻して剣を振り、真紅の槍を防ごうとした。
しかし、槍の進行速度と力は予想以上だった。杜兰は剣に全力を込めて槍の方向をわずかに変えるのがやっとだった。
重い衝撃音と共に、真紅の槍は地面に半分突き刺さり、その周囲には大きな亀裂が生じた。
ミサは冷や汗をかいていた。先ほどの一撃に全く反応できなかった。もし杜兰の経験がなければ、自分は間違いなく死んでいただろうと確信していた。
杜兰の手のひらは痛み、裂けた皮膚から血が滲んでいた。一度でも力を緩めれば、手が震えだし、次の攻撃を防ぐ自信は全くなかった。ましてやデクリンコには他にも様々な攻撃手段があるはずだった。
デクリンコの態度の急変は不自然だった。まるで急所を突かれたかのように、話題を変える酔っ払いのようだった。彼の隠している情報がイーサンを救うための重要な条件である可能性が高いと杜兰の直感が告げていた。
さらに、デクリンコの状態は明らかにおかしかった。彼がイーサンの体を乗っ取った後、言葉遣いや動作に割り切れた感覚があり、いくつもの状態を切り替えるように見えた。
杜兰はこれが神特有の現象ではないと確信していた。
「チッ!誰が俺の攻撃を防げと言った!お前たち虫けらは、どこまで神を冒涜するつもりだ!」
デクリンコは目を大きく見開き、ヒステリックに怒鳴りつけた。
「神の恵みに反抗するとは、地上の生物はやはり教えられない獣に過ぎない。」
杜兰の考えを裏付けるかのように、デクリンコは怒鳴り終えると、すぐに低い声で、まるで別人のように優雅に不満を漏らした。
デクリンコが一言発するごとに、この領域の温度はさらに下がり、不気味な冷気が彼らの感覚を蝕み、麻痺させていった。さらに空気中には血の匂いと錆びた鉄の臭いが混ざり合っていた。
三人は瞬時に高揚感を覚えた。心身が一つとなり、神であろうとも、仲間と共にいれば、何も恐れることはないという感覚に包まれた。
だが、その瞬間、殺戮の気配が一気に押し寄せ、血と死の臭いが漂う戦場のような感覚に包まれた。
同時に、骨の髄まで刺さるような冷気が彼らを杭のように地面に固定し、極限の圧力が呼吸すら忘れさせるほどだった。そして奇跡的に、彼らは再び理性を取り戻した。
デクリンコに目を向けると、イーサンの知的な顔にはすでに嗜虐的な笑みが浮かび、彼の瞳には争いへの渇望が理性を飲み込む寸前だった。
動けなくなった三人を見て、自分の手のひらで弄んでいることにデクリンコは久しぶりに満足感を覚えたが、まだ足りなかった。たった三人分の恐怖では彼の今の悪趣味を満たすには不十分だった。
彼は戦争を起こしたい。それも、かつての神戦のように地上全体を巻き込む戦争を。それだけで彼の力を急速に回復させることができるが、それでも再び神戦を引き起こすにはまだ不十分だ。
今の彼――デクリンコは、力を回復すれば半数の神々を玉座から引きずり下ろす自信があった。待ちわびた年月の中で、彼は非常に優れた切り札を手に入れた。完全には支配できていないが、その権能は非常に強力であり、かつて自分がそれによって致命傷を負って堕落したのだ。今こそ、あいつらにこの味を思い知らせてやる時だ。
彼の目的は、天空に居座る高慢な連中に再び「戦争」の恐怖を思い出させることだった。
今こそ、この小さなネズミたちを片付ける時だ。彼らに余計な気を使ってやったのは寛大さに過ぎない。計画は早く始めるに越したことはない。
「お前たちは我が力を盗んだ卑しい者どもだが、今や私の完全復活への礎となれることを喜ぶがいい。」
では、まず魔族たちの中に存在する「戦争」の意志を目覚めさせよう。魔族全体が「戦争」の傀儡となり、こうして戦争の神デクリンコの復活第一軍が整うのだ。
現在奪った身体を本体とし、他の「戦争」の意志との繋がりを利用して、すべての魔族に宿る「戦争」の意志を呼び起こすのだ。
一切の遅れなく、すべての魔族は手にしていた作業を止めた。彼らの理性は削がれ、男女老若すべてが狂気に染まり、周囲の魔族以外の種族を無差別に攻撃し始め、死ぬまで戦い続けた。
カディアン峡谷では、すべての魔族が「排他」作業を完了し、戦意に燃えて魔族の王居へ向けて出発した。途中で集まり、隊列を組み、前進する――壮大な全族行進だ。
王居へ向かう途中で魔物の群れに出会っても問題ない。今の彼らは戦いを求め、まずは隊列の中から老弱病残を送り出し、魔物と戦わせた。失った者たちの死体は道端に放置され、行軍の邪魔にならないようにされた。
行軍の道中に魔力の暴動による災害があっても、彼らの歩みを止めることはできなかった。今の彼らは一心同体となり、困難を無理やり乗り越えていた。この無謀な行軍で失われた仲間たちも、ただの必要な損耗に過ぎなかった。ただの消耗品なのだ……
消耗品とされた魔族たちは、反抗せず、悲鳴も上げず、涙も流さなかった。彼らは冷静かつ無感情に隊列の指示に従い、表情には一切の感情の揺らぎがなかった。そうして「戦争」前夜の礎となっていった。
これらの光景はすべてデクリンコの目に映し出され、そして依ドの目にも映し出された。
「戦争」の意志との繋がりを通じて、デクリンコは自らの新たな軍隊の動きを把握し、依ドたち三人、特に依ドを残虐な笑顔で見つめた。
「お前たちの努力が灰と化すのを見て、どう感じる?」
デクリンコは魔族である依ドにも魔族の末路を見せた。彼は依ドをその一員に加えなかったのは、ただ自らの嗜虐的な欲望を満たすためだけだった。彼は人々が希望を絶たれ、崩壊する様を見たがっていた。彼は絶望の中で人々がどのような選択をするのかを見たがっていた。
「依ド!」
目の前に浮かんだ光景が何なのか理解した瞬間、依ドはもう我慢できなかった。デュランが止める前に、険しい顔で紫色の雷光と化し、デクリンコの首を狙って突進した。
「キィン――」
激しい攻撃を眼中に入れることもなく、デクリンコは空いている右手を軽く振った。すると、地面から一本の血塗られた槍が立ち上がり、依ドの攻撃を弾き返した。散り散りに飛び散る雷光の中で、依ドは体勢を整えようとしたが、胸に何かが突き刺さっているのに気づいた。それも一つではない。
「グハ……く、そ……!」
瞬く間に、数本の血塗られた長槍が背後から依ドの胸を貫いた。彼が力なく叫ぶと、傷口から溢れ出したのは血ではなく、重なり合った黒い手だった。それらは腐敗し、血塗られた長槍を伝って依ドの傷口を引き裂き、彼の他の無傷な部分へと絡みついていった。
数本の風刃がデクリンコに向かって飛び、依ドの惨状を楽しむ彼の注意を遮った。その後、デュランは魔力で強化した体を駆使し、ミシャの風魔法による高速の支援を受けて剣を振り、血塗られた長槍を断ち切った。
同時に、厚い岩壁が地面から現れ、デクリンコの視界を遮った。デュランは依ドを抱きかかえ、足元の岩柱が彼をミシャの方向へと押し上げた。
依ドが衝動的に突撃してからデュランがミシャの元へ戻るまで、前後数秒の出来事だった。状況が飲み込めない二人は、依ドが無謀にも突撃したことに不安を覚え、予感通り、依ドとデクリンコの勝負は一瞬で決着がついた。二人は即座に戦術を変更し、瀕死の依ドを救い出した。
「そんなに私に会いたかったか?」
岩壁の向こうからデクリンコの嗜虐的な笑い声が聞こえた。
「ミシャ!援護してくれ!」
「玄鉄よりも冷たく、固くなれ!」
デュランが依ドの傷を確認する間もなく、不機嫌な「戦争の神」は瞬時に血塗られた槍を岩壁を貫かせ、飛び散る岩よりも早く、デュランとミシャの足元へ到達した。
元々は対話の中からデクリンコの隙を見つけ、イーサンを元に戻す条件を探ろうとしたが、彼にはデクリンコが何をしているのか全く理解できなかった。耳に入るのは意味不明な言葉ばかりで、それにもかかわらず、依德は思わず突進してしまった。
今や消極的な対応では衝突を避けられる状況ではなかった。目の前の者は雇い主の姿こそ残していたが、内面は完全に別の存在に変わっており、強烈な殺意が常にこちらに向けられていた。たとえ実力の差が雲泥のようであっても、今は一か八かで勝負に出る時だった。
限界状態で血のように赤い尖刺を防いだ直後、杜兰は地面を蹴って破壊された岩壁を回り込み、続けてミサの氷槍が横から素早く飛び出し、デクリンコの攻勢を妨害して杜兰にチャンスを作ろうとした。
一部の氷槍はデクリンコを狙わず、その傍らの地面を狙っていた。氷槍が地面に突き刺さった瞬間、不安定な純粋魔力に変わり、氷の塵を舞い上げてデクリンコの視界を一瞬遮った。そのほかの氷槍はデクリンコの急所に向かって飛んでいった。
同時に数十本の岩柱が地面を突き破り、デクリンコの動きを封じようとしていた。
「虫ケラにしては、反抗の演技も見ごたえがあるものだ。」
視界を遮られたデクリンコは、迫り来る攻撃にも動じず、右腕をひねると、影から棘のある鎖が現れ、岩柱と氷槍を進行路上で固定し、彼の元には一切近づけなかった。
「茶番は終わりだ。」
塵が完全に消え去ろうとするその時、薄暗い室内に銀光が閃いた。
「戦争の神の前で策を弄するなど……」
デクリンコは額に向かって飛んできた剣の刃を掴み、柄の部分を見た——それは成人男性ほどの大きさの岩塊だった。
「何?」
デクリンコは予想外の光景に混乱し、一瞬思考が止まった。通常ならこの程度の時間では瞬きすらできないが、今は強者たちの戦場であり、どんな小さな過ちでも戦闘の行方を左右する可能性があった。
寒光が塵を裂き、冷気を纏ってデクリンコの側面の死角を駆け抜け、血の一筋を引きながら閃いた。
デクリンコの左腕の半分が空中で弧を描き、地面に落ちると血飛沫が舞い上がった。
「貴様!杜兰凯忒!」
怒りの目で見つめる彼の前方には、杜兰がすでに警戒態勢に戻ったミサの隣に立っており、右手には血が付いた氷の剣を、左手にはデクリンコが先ほど左手で握っていた「生命の女神の心臓」を抱えていた。
「杜兰さん!依德が!依德が危ない!」
杜兰はすぐに「生命の女神の心臓」を依德の胸に押し当てたが、魔力を注ぎ込んでも、他の方法を試しても、初めて見た時のような溢れんばかりの生命の気配は感じられなかった。
「フン、諦めろ。俺以外にはその封印を解くことはできない。誰かの手に渡る可能性があるものに、何も対策を施さないわけがないだろう。
俺の権能のもとでは、彼はもう生き返ることはない。今こそ自分たちの罪を直視するんだな。」
デクリンコはすべての感情を失ったかのように無表情で、焦るミサと杜兰を見つめていた。依德の息も絶え絶えの体など、もはや彼の目には映っていなかった。
腐った腕がデクリンコの斬り落とされた左腕を持ち上げ、彼はそれに目もくれず、その腕を傷口に押し当てた。切断面は寸分違わず合わさり、傷口から黒い気が噴き出すと、腕は再び元通りになった。
彼の前に立っていた杜兰が作り出した人形の岩塊は突然砕け散り、剣が地面に落ち、鋭い衝撃音が響き渡った。
「貴様ら不敬なる者に神罰を下す。」
「……!」
一瞬、世界を震撼させる力がデクリンコの体から溢れ出した。
これは杜兰とミサが初めてデクリンコから感じ取った高位者の気配であり、先ほどまで感じていた単純な力への恐怖とは異なり、勇気で何とか対応できるものではなかった。今や完全に存在そのものが圧倒され、対抗する気さえ起きず、ただ跪き、赦しを乞いたくなるだけだった。
「判決を下す——汝らを戦争の傀儡に変え、我のために戦わせる。」
偉大な気配が一気にデクリンコの体から噴き出し、何者も無視できない存在感が建物全体を揺るがした。
二人の心に浮かんだのはただ一つ、この瞬間、彼はまさに真の神であるということだった。
どこからともなく数十本の血のように赤い腕が現れ、杜兰とミサの体をしっかりと捕らえ、ゆっくりと融合し始めた。彼らの体を少しずつ改造し、死士としてより適した存在に変えていった。同時に、その腕は異常に冷たく、二人の意識を刺激して覚醒させ、自分が徐々に人でない存在に変わっていくのをはっきりと感じ取らせた。
この恐怖は、以前黄金の甲冑に直面した時の恐怖とは全く異なり、「自分」という存在が体から徐々に切り離され、改造され空っぽの殻だけが残され、誰かのために戦うのを眺めることになるというものであり、しかも「自分」は極めて意識が明晰で、永遠に傍観者としてその過程を見続けることになるのだ。
どれほど意志が強い者でも、このような罰を受ければ、いずれ完全に崩壊する日が来るだろう。
その時、人はもはや人ではなくなる。
一滴……二滴。
涙がミサの頬を伝い、地面に落ちた。彼女の目に浮かんだのは、親でもなく、それ以上に大切な人物の顔だった。
彼女はそれを絶望の中で脳が作り出した幻覚だと思った。
「泣くな、ミサ。ちょっと離れただけだろ?本当にお前はいつまで経っても子供だな~」
錯覚だろうか?
ミサは彼の声が聞こえた気がした。そして、彼女の聴覚が間違っていないことを証明するかのように、極めて明晰な意識の中で、誰かが彼女の頭を撫でる感触を感じた瞬間、すべての血のような赤い腕が純粋なエネルギーに変わり、霧散していった。彼女の体に既に浸透して改造が始まっていた部分も、全て消えてなくなった。
ゆっくりと剥がされていた意識が再び身体に戻り、すべてが元通りになった。まるで先ほどの出来事がただのリアルな悪夢で、今はその夢から覚めただけのように。
しかし、あの手の感触は今でも極めて現実的だった。
「どうした、ミサ?今なら抱っこしてあげるよ。」
絶望のあまり閉じていた目を開け、潤んだ瞳に桦の姿が映り込んだ。
本物だ!
ア桦パパは本物だ!
何度目か分からない涙を流しながら、ミサは桦の胸に飛び込んで泣き声を上げた。周りのことなど気にせず、年相応に溜まっていた感情を爆発させていく。
桦もミサを抱きしめ、彼女が泣き止むまで優しく背中を撫で、娘を慰め続けた。
「お前は誰だ?どうやってここに来た?」
「おや、数日見ないうちに、イーサン坊やは驚くほど成長したな。いや、今の中身はイーサン坊やじゃないだろう?」
戦争の神の問いかけに対して、桦はミサの肩を軽く叩き、涙を拭ってから彼女を背後に隠した。
桦はまるで脱線したような様子で、血のように赤い腕に縛られたままの杜蘭を軽く叩いた。その瞬間、杜蘭は何かに気づいたように大きく息を吸い込み、彼を拘束していた異物も消え去った。
「お前は一体何者だ?なぜ私の神罰を解除できるのだ?」
桦はデクリンコを無視し、わずかに頭を傾けて杜蘭を見た。
「杜蘭、ミサのところへ行け。今のイーサン坊やは俺が相手する。」
桦の目をじっと見つめる杜蘭は、彼にまだ勝機があるように感じたが、相手は神だ。どれだけ強大な個人の力でも、神に立ち向かうのは無理だろう。
「気をつけろ、今、ボスの身体は戦争の神に奪われている。」
それでも杜蘭は、この男を無条件に信じたくなるような気がした。
桦は軽く頷き、杜蘭に急ぐように合図した。
杜蘭が息絶え絶えの依德を抱き上げ、ミサのそばに移動したのを感じ取ると、桦は地面に落ちていたデクリンコ以外使えない「生命の女神の心」を拾い上げた。
桦の態度からは、目の前の神をまったく意に介していないことが明白だった。相手の手段が分からない今、"戦争"の直感が彼に告げていた。軽率な行動は最善策ではない、と。
「それにしても、神の座についていながら、ここで子供をいじめているとは、恥ずかしくないのか?」
桦は「生命の女神の心」をデクリンコに向けて掲げ、笑みを浮かべた。
「俺は基本的に『過度に干渉しない』主義だが、こんな可愛い娘が泣き顔を見せるとなると、主義も一時的に脇に置いてもいいかもしれないな。
「ミサがこんなに泣くのは久しぶりだ。つまり、俺は少し怒っている。『彼』が動き出す前に、少しだけ『干渉』させてもらうぜ。
「やれるもんならやってみろ、デクリンコ。『生命の女神の心』を俺から奪ってみろ。どうせそのつもりだったんだろう?」
その瞬間、一本の血のように赤い槍が突き出た。桦は軽く頭を傾けて耳元をすり抜けさせ、その軽蔑的な視線の中、無数の血紅色の棘が天井から降り注いだ。すべては立ち尽くす桦に向けられていた。さらに、地面からは腐敗した黒緑色の腕が伸び、桦の足首、脚、腕、体をつかみ、動きを封じた。
巨大な攻撃が桦の姿を一瞬で覆い隠した。杜蘭がミサを素早く遠くの壁際へ引き寄せていなければ、彼らもその攻撃に巻き込まれていたかもしれない。
デクリンコは、天井近くまで積み重なった血紅の棘の山を冷淡に見つめ、神に挑んだ愚か者の気配を感じ取っていた。
あれほど自分を軽視する相手には、望んでいる結末を与えてやればいい。永遠に口を閉ざさせてやるのだ。
「お前にも神に逆らう力があるようだな。神罰を解除できた理由は知らないが、そんなお前は私の完全な復活の妨げになる。」
血紅の山の底から、人の高さほどの穴が崩れ、桦が何事もなかったかのように歩き出した。服には一切の損傷も見られない。
「『戦争』の象徴は鉄血だけでなく、『死』の衰退も含まれている。それが、お前が再び神戦を起こそうとする根拠か?」
デクリンコは初めて驚愕した。自分が力を行使する際、ほとんど抑制せずに使っていたとはいえ、神の"権能"を理解していない地上の者が、たった一度の接触でその力の源を見抜くなど、ありえない。
「お前は一体何者だ?あの連中の使徒か!」
デクリンコはすぐに最も合理的な答えに思い当たった。もし神の使徒であれば、神の権能を深く理解していることも不思議ではない。
「今、君は自分の状態が使徒と戦えるかどうか考えているんじゃないか?
「でも残念ながら、俺は使徒じゃない。もちろん、今の君では使徒相手に一瞬でやられてしまうだろうけど。」
桦はデクリンコから十歩離れたところで立ち止まり、手の中で「生命女神の心」を投げ上げてはまた手に戻す。
「君の攻撃の強さから見て、今はその程度の技しか使えないんだろう?復活したばかりの君は、自分の『戦争』の権能すら完全には操れないだろうし、『死』の権能は言うまでもない……」
桦はデクリンコに向かって不敵な笑みを浮かべた。
「実際、君は今かなり調子が悪いんだろう?それで神としての威厳を保つのも大変だよな~」
デクリンコの心臓が重く鼓動した。桦が発する言葉の一つ一つが彼の焦りを加速させる。まるで自分が隠している全てが、この男の目に全て見透かされているかのようだった。
「長年、魔族の発展を無理に操りながら、『死』の権能を取り込もうとした。さらに、『死』の意志が目覚めるのを抑えつつ、さっきは『生命女神の心』の封印を突破した後だ。今の君はもうほとんど力が残っていないんじゃないか。ましてや長い間、魔族に寄生していたことで精神にも相当な影響を受けたんだろう。『神』というより、今の君はただの強力な魔族に過ぎない。」
どうしてこの男がこれほどまでに知っているのかは分からないが、彼の言っていることはすべて実情に合っていた。
かつて、神々は「死」を餌にしてデクリンコを罠にかけた。罠だと分かっていても、肥えた獲物に彼は食いつかざるを得なかった。しかし、「生命」を筆頭にほぼ全ての神々が出撃し、カディアン平原で彼を待ち伏せしていた。デクリンコは強大な軍勢を率いていたが、「死」を含む多くの神々を倒した後、カディアン峡谷で陥落した。
長い復活計画の中で、彼は他の神々に対抗するための力不足を痛感し、他の神々の権能を吸収することを決意した。カディアン峡谷には彼を含むいくつかの陥落した神がいたが、彼は「死」の落ちた場所を突き止め、魔族を徐々に影響下に置くことで、自殺的に「死」の核心に接触した。「死」がまだ復活していない虚弱な状態を利用して、その核心を無理に吸収した。
だが、神々の意志は簡単には消えない。たとえ神が神に食われても、機を見て復活しようとする。それはデクリンコが魔族の中にいたときと同じで、吸収された「死」もデクリンコの存在の中で蠢いていた。デクリンコの力が「生命」によって魔族を創造するために使われていたため、彼は自分の本体を持っていなかった。そのため、「死」を吸収しても完全には取り込むことができなかった。
そのため、彼が復活を計画する長い年月の間、デクリンコは「死」の意志を抑えつつも、それと徐々に混ざり合っていった。
さらに、彼の意志は魔族全体に分散されており、魔族の思考に影響を与えようとしたとき、彼自身も魔族の思想に影響を受けた。神の意志は強固だが、魔族の数は多く、長い時間の中で互いに影響し合っていく。その時間が続くことで、どんなに固い壁でも、風化してしまう日が来る。
「死」の意志の混合と魔族の集団思考の影響により、デクリンコも長い年月に耐えられなくなった。その変化は激しくはなかったが、深く広がり、神の意志を「祂」から「彼」に降格させるほどだった。
彼は自分が変わっていることに薄々気づいていたが、それは自然の法則のようで、簡単には逆らえなかった。大部分の自我を保っているだけでも、彼は全力だった。
「かつての君なら、決して敵をこんな風にもてあそぶことはなかっただろう。『感情』って面白いよね~」
この言葉はデクリンコを嘲弄するかのようだった。「戦争」の代行者でありながら、個人的な感情によって戦場の情報を客観的に処理できず、行動を失敗に導いた。
今の「戦争の神」、その胸中で鼓動する感情は全て、目の前にいるこの堂々とした男に向けられていた。
怒り、焦燥、不快感、苛立ち……
感情とは彼と魔族が相互に影響し合う副産物に過ぎない。それが今では彼の失敗の原因となっていた。しかも、それを指摘されることで、彼の苛立ちはさらに募った。
いつの間にか、彼の手には血の色の長槍がしっかりと握られていた。様々な感情が衝突し、彼の眼には理性が失われていた。
今、彼がしたいのは、この厄介な男を切り伏せて、鬱憤を晴らすことだけだった。
もう何も考えられない。ただ、この男の首に槍を突き刺すことだけが、この苛立ちを鎮める唯一の方法だ!
黒衣をまとったデクリンコの姿が一瞬で消えた。風を切る音が響き、桦は血の槍の柄を軽くつまんで、横から襲いかかったデクリンコをじっと見つめた。
「まさか、イーサン坊やの顔がこんな表情になるとは思わなかった。全く似合わないね。」
桦は槍の柄を押し返し、デクリンコが驚愕している間に、彼の顔に手を伸ばし、地面に叩きつけた。
煙と塵の中、堅固な地面が割れ、その裂け目からトロナが現れた。彼女は呆然としているデクリンコを蹴り飛ばし、武器を抜いて桦の手を防いだ。
その場に立つ桦は、予想外の展開に驚いたようだった。
「まさか君がこんな登場の仕方をするとは思わなかったよ。」
トロナの無感情な瞳に映る桦は、苦笑を浮かべていた。彼女の美しい唇が機械的に動き出す。
「代行者、今は彼を殺してはならない。」
彼女の声は以前聞いたものとは全く異なり、数え切れないほどの人々が耳元で囁くような、不気味な音色だった。
「俺はただ、彼を気絶させて、イーサンを戻したいだけだよ。」
「君は干渉しすぎだ。」
「君に比べれば、俺はほとんど干渉していないと思うけど?」
なぜか会話には火薬の匂いが漂っていた。緊張感のある空気の中で、桦は意味不明な言葉を口にした。
「間違いないだろう、世界の意志。」