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高嶺の花が入り浸る  作者: ゆー
二人で紡ぐ『これから』のこと
60/66

せいやのなぎさ

元我が学園のマドンナこと真鶴凪沙です。

ふふ、懐かしいですね、この感じ。初心を思い出させてくれます。


え?どうして今更って?だって1年じゃないですか、もうすぐ。やって来るじゃないですか、あの日が。


無論、何の日かは言うまでもありませんね?


そう、クリスマス。一般的に考えるのならば恋人達の特別な日。

そして、私達にとっては想いを繋げ合ってから初めての……。


…あれからもう1年が経つのか。彼がいなかった色の無い日々に比べたら、なんと目まぐるしく、なんと充実していたことか。


彼を救い、彼に救われた。時を経て、私の愛は落ち着くどころか膨れ上がって止まらないくらいだ。彼が可愛いくて、愛しくて、恋しくて………



………。




……………。






…これもういいんじゃないかしら。性…聖夜にかこつけてお互いを貪り尽くすことくらい許されるんじゃないかしら。だって私恋人だし。性の6時間とか生温いこと言わずもう1日中、いや3日、いっそ年末年始。だって私恋人だし。彼女だし。そもそも誰が止めるというの?誰が止める権利とかあるの?いいわよね許されるわよね彼に手錠かけて身動きとれなくして身包み剥いで肌と肌を重ね合って私しか求められないいや求めなきゃおかしくなるくらいに調きょ……ゔんっ愛し合うくらい。だって私恋人だし。彼女だし。未来の妻だし。


という訳で早速A◯azonで手錠をポチ………ん?蓮、どうしたの?え?さっきから何をぶつぶつ呟いているのかって?……んふ。ヒ・ミ・ツ♡…あれ、なんでそんな疑って……いや、その、南米の卓上旅行、みたいな?


…そ、そんな目で私を見下ろしたって、君の凍てついた視線では私の身体を火照らせるだけよ?………あ、ちょ……画面見ちゃ………あ、待って。ごめん引かないで冗談、お姉さんジョークだから。本気で引いてる目はちょっと傷つくのぉ。















「れーーーーんっ♡♡♡」

「……」


どうしてこうなった。

柔らかな温もりに包まれながら口内を熱い舌で容赦無く蹂躙される中、俺の目は遠く空を仰ぐ。いや、空は無いから天井。


「うふふふふかわいくな〜い♡♡なんちゃってー☆」

「………なぎ「あ〜む」うぐ」


赤らんだ顔といつにない笑みと共に頬を撫でくりまわされ、かと思いきやそれによって僅かに開いた口にすかさずまたまた容赦無く舌を突っ込まれる。その隙間からは、未成年があまり漂わせてはいけない香りがぷんぷんと。

唇を甘く食まれ、割り入ってきた長い舌がこちらの舌を素早く絡め取り、この1年という期間で恐ろしい程に上達した巧みなテクニックと頭の中に響く淫猥な水音がこちらの脳をあっという間に蕩けさせ、じゃなくて。


このままでは、色々とマズイことになる。いや、もうなってはいるのだが。

何ならこうなる前よりなっているのだが。


だって。


「ほう」

「ふわあぁ……ほわぁああ……っ!!!」

「お、おおう…」


目の前の幸せそうなお顔の向こう側では、母が面白そうな声を上げ、すーちゃんが顔を両手で覆い隠し…ているように見えて指の間からばっちりくっきり余さず目に焼き付けながら感嘆し、おばさんが戸惑いつつも興味深そうな呻きを漏らしているのだから。


「愉悦」

「不埒!」

「眼福っ」


これまで生きてきて一度でも見たことがあっただろうかという、それはそれはムカつくニヤけ面で母が救いの手どころか俺達を肴に新しい酒を開け始め、すーちゃんが頭から湯気が出ているのではと錯覚しそうな真っ赤な顔で、けれど俺達から全く目を逸らすことなくガン見。おばさんは何故か親指を立てて嬉しそうに笑っている。


「……………………お前の息子だろ助けてやれよ」

「……………………いや君の娘じゃないか君が何とかするべきだろう」

「いやお前が」

「いやいや君が」

「「いやいやいやいやいや」」


父親共は流石に居た堪れないのか、大きな身体を小さく縮こまらせて身を寄せ合いながら何やらぼそぼそと責任を押し付け合っていた。何と言う役立たず。


そもそもが、こうなった原因はだらしない大人共にあったというのに。


そう。


原因は……


原因は………


そう、あれはちゅ〜〜〜♡ちょっと今思い返すところだから待っしらな〜い♡♡


げ・ん・い・ん・は―――――












「――――――今日も息子と義理の娘が仲睦まじくて酒が美味い!!」

「義理の息子のおかげで娘が笑顔で酒が美味い!!」

「暑い!脱ぐのかいっ!脱がないのかいっ!どっちなんだい!!」

「………(グビ)」

「「「あっははははは!!!」」」




「「「…………」」」


地獄………!圧倒的地獄……!!


凄まじいアルコール臭を放ついいとこ育ちの動物達の檻とは少し離れた席で、死んだ目でジュースをちびちび口にする愛妹と、光を失った目で黙々とつまみを口にする恋人と共にあれこれ積み重なった雑多な食卓を囲みながら考える。何故この様なことになったのか。


『クリスマス 今年もやるわよ 大騒ぎ』


そんな頭の悪い川柳が俺達の元へと送られてきたのは、12月に入って間もない頃。

という訳で、俺達が去年と同じ様にクリスマスの様相に彩られた町を二人で歩いて、去年と同じ様に実家に帰ってきたのが1時間前。その時はまだ温かいアットホームファミリーがそこにいたと思う。俺も父と久々に親交を深めて…。


で。




「まなてぃー!!」

「TO DO!!」

「やーーーーーーー!!!」

「海咲うるさい………(ごきゅごきゅ)」

「「「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」」」




「「「……………」」」

 

たった1時間でこれかぁ…………。


「去年より確実に頭悪くなってますよね」

「アルコールは人を壊す最悪の一例の教材として使えそうね」

「去年は私一人で対応していましたよ。私、一人で」

「「ごめんなさい」」


全く同じタイミングで三人仲良く溜息をつく。全てが壊れたのは、女性陣が酒を買ってきた辺りからだろうか。


「せっかくのクリスマスが……」

「何はともあれはい、すーちゃん。クリスマスプレゼント」

「あ、わ。ありがとうございますっ」

「この二人和むぅ……」


あそこの珍獣とは大違い。

俺もさあ、父親に対する尊敬の念をさあ、1話くらいたっぷり使って語りたいのにさあ、出てきたら大体これなんだもん。ただでさえ出番少ないのに。もう他の人にとっては、ただのイカれアル中でしかないよねこんなの。違うんですよ。血の繋がりの無い赤の他人をここまで真っ当に育ててくれる凄い人なんですよぉ。


あれが社会に出た末路、ということか。嗚呼、引きこもっていたあの頃に戻り…たくはないけれど、大人になりたくねぇよぉ。


「ま、好きにさせておきなさい。どうせ飲むだけ飲んで吐けば大人しくなるわ」

「吐くの確定なんですね」

「あのペースならね………っ!?」


話している最中に突然びくんと身体を跳ねさせたと思えば、凪沙の動きが綺麗に停止する。思わずすーちゃんと何事かと顔を見合わせ、彼女の方をよく見ると、背後から何やら謎の腕が1本生えてきていた。…その腕は堂々と彼女の胸を鷲掴んでいる。


「飲んでる?凪沙」

「…未成年です、まだ」


いつの間にこちらに移動したのか、にゅるりと椅子の後ろから現れた母が片手に持っていたグラスを散らかった机の上に置いて凪沙の隣に脚を組んで座り込む。縮こまる彼女の肩に手を回して己の方へと抱き寄せるその光景は、紛うこと無き夜の店。


「たった1年じゃない、誤差よ誤差」

「………あの、…ぅん、揉みしだきながら普通に話さないでください、お義母さん」

「おお…なんて柔らかいの………癒される………」

「駄目です。蓮専用なので」

「………やむなし………」


やむなくないよ。

どうやら、今回ばかりは酒に強いこの人も酔ってしまっているらしい。もしかしたら、俺という懸念が無くなったことも関係あるのかもしれないが。それにしたってここまで悪酔いしているのを見たのは生まれて初めてかもしれない。


「み〜ど〜り〜〜……」

「ひぃっ…!!?」


致し方無く(なくない)手を離した困ったちゃんが、次なるターゲットに狙いを定めてその野獣の眼光をピカッと光らせる。

幽霊の様にふらふらとすーちゃんに近づいて、そのたおやかな手を高速でいやらしくワキワキさせながら伸ばして


「……………」ピタッ


伸ばしかけて


すーちゃんを見て。


凪沙を見て。


またすーちゃんを見る。


「………」

「……………?」

「………」




「はぁ…」




スッ……(退き)




…………………。






「……!!!………っ!!!!…………っっ!!!!!〜〜っ!」

「翠落ち着け。落ち着け翠。どうどう。ど〜ど〜」


何故か…うん、何故かあっという間に興味を無くして、グラスを持ってさっさと立ち去るその背中に飛びかからんとするすーちゃんを、更にその背後から羽交い締めにしながら俺は優しく宥めすかす。


「兄様!兄っ様!!にいさまぁ゙!!!」

「うん。辛かったね。頑張ったね」

「あ゙あ゙あ゙あ゙!!!」


俺に縋り付いて涙を流しながら、母を指差し悲痛な絶叫をあげる愛妹。そのか細い身体を胸に抱き留め、震える頭を優し〜く撫でた。

すーちゃんももうそういうの気にするお年頃なんだね。妹の成長は早いものだ。

…叶うことならもうちょっと常識的な場面で噛み締めたかったなぁ。


「私は!わたしはぁっ!!わたしだってぇ!!」

「うん。そうだね。希望はあるよ」


………多分。


などと言うのは簡単だが、流石にこのまま続けてハラスメントと言われることも避けたい訳で。言われないだろうけど、個人的に。

例の如く、べそをかくすーちゃんを満喫でもしているのか、先程から妙に静かな恋人に助けを求めるべく後ろを振り向いて






「え」






目の前に音も無く、頬を膨らませた彼女の顔が迫っていた。


「わたしの」

「は」


次の瞬間、わしっと顔を掴まれたと思えば、突然、熱く柔らかくそして何やら滑ったものが唇を押し開き、歯列をなぞるように這い回り、かと思いきや更に奥まで割り入って舌を絡め取る。


あっという間に静かになった周りの視線がとても痛い。

口を塞がれたのだと気づいたのは、しっかり10秒ほど堪能された後だった。












そして時は冒頭に戻る。


突然の暴挙に頭が混乱することもお構いなく、依然として舌は口内で踊り回り、滾々と唾液を交換しながら、好き勝手に蹂躙を続けている。


「ぷは」


2 分程はしっかり堪能しただろうか。いや、もしかしたらもっと。

未だ物足りなさそうな顔をしながら、息苦しかったのか、漸く凪沙が顔を離す。互いの唇の間から細い銀糸が音も無く流れ落ちて、唇の端に残ったどちらのとも知れない残滓を舌で妖艶に舐め取ると


「もっかい」


ぐいぃ。後頭部に回された腕に力が込められた。


「待って待って待って!!」

「なに」

「いや、なにじゃなくて!」

「なんで」

「なんででもなくて!!」

「いやなの?」

「…嫌ではないですけど」

「そ。じゃもっかい」

「だから待って!」


会話がまともに成立しない!

目の前の彼女のとろんと据わった目。赤らんだ顔。そして口から漂うこの匂い。これだけ揃えば流石に分かる。完全に酔っている。

しかし何故。彼女は酒を飲んだりはしていないはずなのに。


そこにすーっと上げられる一つの手。呑気にグラスを傾ける犯人は、意外でも何でもない


「ごめんなさい。さっきグラス間違えたみたい」

「あんたのせいか!!」

「これ、私でも酔える強いやつだし。凪沙が飲んだらそりゃそうなるわよね」

「わざとでしょう!!」

「ソンナワケナイジャナイ」


否定する割に反省の色は0だが。

思い返せば、確かに凪沙の飲み物とこの人の酒は色も似ていたけども。

それでもまさか、匂いにも気づかず何の疑問も無く飲んでしまうだなんて。…実は意外と興味あったりしたんだろうか。それともまさかストレス…。だとしたら、気持ちは分かる…。


「してくれないの?」

「いや、その」


子供の様に頬を膨らませてこちらを睨みつけるその顔は。

酔っ払いと片付けるのは簡単なのに、破壊力が高すぎてどうにも上手く躱せない。


「いつもはおやすみのちゅーしてくれるのに!」

「ちょ」


そしてちんたらしていた結果、とんでもない爆弾を投下してくれやがりました。


「ちゅー!早くちゅー!君とちゅー!あいうぃるぎぶゆーおーるまいらゔ!はりあっぷ!」

「分かった!分かりましたから!声落として!!」

「むー!!」


急いで凪沙の口を塞ぐが、時既に遅し。


「ははぁん」

「ひえぇ」

「ふーん」

「へえ」

「ほおん」

「…ち、違…!ああもう…!」


顔を見るだけで各々が何を思っているのか丸わかりな、五者五様の反応。

その生温かい視線は余りに堪え難く。慌てて未だ拗ねたままの凪沙を抱き上げると、俺は熱でぼうっとする危なげな足取りで部屋へと避難するのであった。












さて、久しぶりの自室で二人きりな訳だが。


「ねぇーまだー?ちゅーもんおそいんですけどー。ちゅーだけに?あっはっは!」

「凪沙、酔ってますから。休みましょう。今すぐ」


余韻のせいか、未だ意識が朦朧とする中、何とかかんとか自室に運んだところで、問題児の酔いが覚める訳もなく。

とりあえずベッドに放りこもうとしたその瞬間、素早く手を絡め取られて諸共に倒れ込んだ俺達は、先程と全く変わらない零距離で見つめ合っていた。


「わかってるわよぅ、そんなの〜」

「なら」

「それは〜…それ。これは〜…これ!はい、きーす!きーす!!」

「………」


成程。酔ったら壊れるのは血筋か。

両手で抱え上げた虚空を右から左に動かして、満面の笑みで乾いた手拍子を鳴らす楽しそうな彼女を上から見下ろしながら、俺は心の奥底からある衝動が込み上げてきている事を感じ取っていた。

…いや、目を逸らしていただけだ。もうそれは既に抑えきれない段階まで張り詰めている。


「………いいんですか?凪沙」

「ああん?」

「いいんですね?」

「なんやこらぁ」


何故西のヤンキーと化しているのかは横に置いておいて、俺はこれでも必死に心を殺して彼女に問いかけている。

どうやら、彼女は分かっていないらしい。凪沙が俺を求めるのと同じ様に、俺もまた彼女を求め焦がれていることを。


「いいっていってるじゃな〜い。なぎさはぜんぶれんのなのに〜」

「そうですか」

「あーそれともぉ、もしかしなくてもれんちゃんはずかちいのかなぁ〜?くふふ〜か・わ・い・い♡」


散々に煽られ、こちらもこちらでいい加減我慢も限界だということを。

こちらの頬を指先でぐりぐりするその手首を力強く鷲掴むと、俺は彼女に劣らない満面の笑みを浮かべた。


「おん?」

「では、許しも出たことだし遠慮なく」

「…ん??」


そこまで望むのなら、俺も恋人として誠心誠意応えるとしよう。仕方ないことなのだ。望んだのはそっちなのだから。

…家族がいるのでは?だから何だ。

…ああそうか、どうやら俺も酔ってしまったらしい。


彼女の顔の両脇に手をついて勢い良く挟み込む。直後、今更俺の目の色に気づいたらしい凪沙が、その赤かった顔から目に見えて色を失くし、ついには青ざめる。まあ、本当に今更だけど。


「あ、ちょっと、蓮、お姉さん急に酔い醒めちゃったかも〜?なんて…」

「そうですか。それは好都合ですね」

「…あの、ほら、今は上手く反応出来ないかも…」

「大丈夫です。いくらでもやりようはあるので」

「や、…ヤリよう……!?♡」


1年という期間が成長させたのは、凪沙だけではない。この人が俺の何処が弱いのかを知り尽くしている様に、俺もまた、この人が悦ぶ箇所を知り尽くしている。


「自分で言ってましたもんね?聖夜にかこつけて、って」

「い、言っ……………いましたけどぉ………」


せっかくなので俺の成長も存分に体感してもらおう。その身体で、余すこと無く。


泣いて謝ろうが、知ったことか。


ああいや。






寧ろ泣いて謝って懇願してでもこっちを求めるこの人の姿は、見たいかも。






………。


「よし」

「よ、よし?よしって何?そのよしは何のよし??よ、よ〜しよし落ち着きましょうか藤堂くん、あ♡ちょ、んやっ、お願いちょっと待って、れ――――」


目をあちらこちらに泳がせる凪沙に俺はこれ以上もう何も言うことも無く、お望み通りにその艷やかな口を噛み付く様に塞ぐ――――
















――そして翌日。


ばっちり記憶を失くして、朝から吐き気と頭痛でずーっと呻いている家族にすーちゃんが腰に手を当てて容赦無く説教する横で、酔っても記憶がばっちり残るタイプらしい凪沙は、俺を見るやいなや涙目で顔を真っ赤にしてもじもじと俯くのみでその日1日ろくに会話すらしてくれないのだった。


……お酒に限らず、何事も程々が肝心。皆々様にはよく骨身に染みた様で何よりである。


………俺も、含めて。

めりくり。

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