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高嶺の花が入り浸る  作者: ゆー
見守る瞳
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第4話 パイセン魅惑の個人授業

皆さんご存知かは知らないが、我が学園が誇るマドンナ・真鶴凪沙は大変成績優秀である。テストの点数は常に上位を維持して。


けれども彼女が、学年首位の座に躍り出た事は未だに無かった。


常日頃の彼女を知っていれば、誰しもが不思議なものだと首を傾げるだろう。果たしてそれは一体何故なのか。これにはそれは深い理由が……ある訳でもなく。







「町内カラオケ大会決勝戦で敗退したわ。一歩及ばず」

「何してんですかね」


本当に。

貴方町内では割と弾けますよね。学園ではあんなに清楚なのに。エセ清楚。


人のベッドの上で人の枕を胸に抱いてゴロゴロといじける先輩を他所に、自分は黙々と勉学に励む。構ってもらえなかった事がお気に召さなかったのか、背中をぽすんと拳で叩かれた。


「屈辱だわ。私のスクリームがまさかイースト菌の行進曲如きに敗北するなんて」

「それ対象年齢間違ってませんか」


1位絶対小学生とかでしょうよ。もしかしてお子様向けの大会とかでは?考えたくないが、もしそうだとしたら大分大人げない。…あれ?この人言う程高嶺の花じゃないな?


「演歌。デスボイス。ヘヴィメタル。フォークソング。童謡。数多の群雄が覇を競う中、頂点を掴み取ったのがたったの5歳児だなんてね…」


ヘヴィメ…。何?もしかして会場でじいちゃんばあちゃんこぞってヘドバンとかしてた?絶対面白いやつじゃん。呼んでよ。


「まさか、会場のみならずこの私まで魅了して泣かせるだなんて。あの子逸材よ。間違いなく。これが俗に言うパン泣きってやつね。完敗だわ」


意外と素直に敗北認めてる…。

パシンと勇よく自らの頬を叩くと、先輩は乱れたスカートを揺らしながら力強く立ち上がる。そして扉に悠々と歩き出したと思うと、魅惑の腰を強調しながらこちらを振り向いた。

その顔からは強い決意が滲み出している。


「出るわ。修行に。付き合いなさい。藤堂くん」

「自分、勉強するんで」

「どちらが大事なの。私と勉強」

「健全な学生としては勉強ですね」

「なら、爛れなさい」


先輩の言葉じゃないよ。


「私が教えてあげるから。勉強なら」


そう言って先輩は何故か恥ずかしげに廊下へと出ていって。

首を傾げながらそれを見送って。少々の謎の空白の後、再び戻ってきた彼女の姿は


「何故リクルートスーツ」

「景品よ。町内カラオケ大会の」

「ええ……」

「眼鏡は伊達」


微笑ましかったはずの町イベが何か途端にいかがわしく思えてきたんですが。

眼鏡をくいっと上げて謎のドヤ顔を決める先輩に流石に困惑を隠せなくて。

ついでに何故か普通よりも明らかに開けられたシャツのボタンから覗く大きく柔らかそうな膨らみからも目が離せなくて。


「ふん!!」

「何故殴ったの?自分の顔を」

「お気になさらず」

「なさるわよ」


もう。と呆れた溜息をつきながらも優しく頬を撫でてくる。それはつまり、さっきのそれが更に近づいてくることに他ならなくて。どぎまぎを必死に隠しながら、されど先輩と目を合わせられるはずもなく。


そんな自分に構うことなく、先輩は立派な胸を存分に張ってみせる。


「どんと任せなさい?ナギナギティーチャーに」

「…英語なんですよ」

「?問題無いわ。何も」


イケない女教師は自分が何を言っているのか分からないと言わんばかりに首を傾げている。

しかし、これだけは駄目なのだ。譲れぬものがある。アホらしすぎて乾いた笑いが出るけれど。


「…………因みにですけど先輩。『私の名前は凪沙です』って言ってもらえますか」

「NAGISA.My name is」

「…………」


………。


「…これはペンです」

「A pen.This is」


何で英語でもそうなんの?その使い方合ってる?

これが成績優秀な彼女の英語のテストだけ何故か点数が低い理由である。

果たしてわざとやっているのかは知らないが、何も間違っていないはずの答えが何故か間違っているから先生も悩みに悩んだ末、立場上バツをつけざるをえない。彼女の担任は日々、胃痛と戦っている。


「やっぱりいいです」

「Why?Do it.I can」


大変不服そうに先輩は横に座り込むと、グイグイと身体を寄せてくる。

自分が広げていたノートを、頬と頬が触れ合うのではないかという距離で覗き込んで、ふっと息を吐くと余裕綽々にまたも眼鏡をくいっと上げた。


「いいから。甘えなさい。お姉ちゃんに」

「分かった。分かりましたから。離れてください」

「可愛くない」


言葉と裏腹に可愛らしく唇を尖らせる女教師。

…認めたくはないけれどつい見惚れてしまわなくもなくて、とても照れくさくて俯けば、それはそれは開放的な胸元が飛び込んでくる。これは色々とヤバいので、更に俯いた。明らかに普通より短いミニスカートと、煽情的なガーターベルトの間から覗くそれはそれは眩しい太腿が飛び込んでくる。さらに正座しているものだから余計ずり上がって、それはそれはそれは………。


…………。


「何で突っ伏しているの、藤堂くん」

「そういうところですよ」

「は?」







常に余計な一手間がかかる英語の授業から漸く開放されて、身体を伸ばせばあちこちから骨が鳴った。俺もそれ程までに集中していたということだろうか。


「出来るじゃない、やれば。もう何も無いわ。教えることは」


一番大切な正しい文法教わってませんね。


「……ん?」


最後にもう一度ノートを見返して、気付いた。確認したはずの解答にスペルミスがあったのだ。絶対にいちいち文章を並び替えていたせいだと思うが、こういうケアレスミスの積み重ねが貴重なチャンスを逃してしまう。これはもう一度先生に確認しようとノートを手にとって


「凪姉、こ、……れ……………」

「───」

「…………………………」


……………。


完全に固まった。勉強を教わるシチュエーションが懐かしくてつい気が抜けてしまったのか、つい口から飛び出した懐かしい呼び名。おれ、じゃない、自分の顔に一気に熱が灯るのが大変分かりやすく感じられて。


「何でもな」

「ふ」

「い…」

「ふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」


こっわぁ。

俯いているから長い前髪に隠されて華麗なご尊顔は確かめられないが、僅かに除き見える口元は三日月もかくやと言わんばかりに大きく、大きくつり上がっていて。

ああ。完全にやらかした。これは暫く引きずるだろう。自分も、彼女も。


「可愛い」

「可愛くない」

「ふふふふふふふ可愛いうふふふふ」


だってこんなに、未だかつてなく嬉しそうな顔をしているのだから。


「蓮」

「………」

「もう一回」

「………」

「アンコール」

「………」

「ちょっといいとこ見てみたい」


背後の気配が右へ左へと忙しなく移動している。覗き込んだり、耳元に唇を寄せたり、何度も何度も。

あまりの羞恥に身体が震える。そのせいか。肩に置かれた手を、つい、かっとなって少し乱暴に振り払ってしまって。


「おっと」


その腕が容易く絡みとられる。ご丁寧に複雑に関節まで極められて。

つまりは隠すことなど一切出来ません、ということで


「……っ………」

「…ふふ…………」


ああくそ、ご満悦待ったなしの蕩ける笑顔を見せるパイセンのせいでまた熱が上がった。


「蓮」

「なんすか!!」

「可愛い」

「あっそ!!!」


カワイイ。オレ、ソノコトバキライ。

今度こそ力任せにその腕を振り払った。笑顔で容易く躱されてしまったけれど。

昔から女みた、いや中性的な顔つきをからかわれてきたのは、絶対に周りもこの人の悪い影響を受けていたから、というところはあると思う。


「好きよ」

「はぁ!?」

「その顔」

「………」


かっとなった熱が上がったり下がったり。ああもう、本当に質悪いなこの人。

結局その場は俺が強制的にお開きとして、不服そうな先輩の背中を押して無理やり追い出した。

背中を押され、引きずられながら尚、先輩はご機嫌だったのが最後まで気に食わなかったけど。


やはりあの女教師は魔性の女だったということだ。










「蓮」

「帰れっ」

「制服返してほしいわ」

「……………」

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