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王家の闇に触れる凡愚王女

 統率されたテーマに沿って配置された高級品の数々。

 天蓋付きの寝台に啜り泣く、一人の貴婦人。

 右手にカードを持ち、明日のお茶会に向けて用意された手土産の箱を目前に小さく言葉を溢す。


『ああ、アマリリス王女殿下。あなたがもっと早くに生まれていれば、私は愛しい子どもを二人も失わずに済んだというのに!』


 震えるジョゼフィーヌの肩を抱く、一人の男。

 王弟エドワードは、毅然とした面持ちで告げる。


『耐えるのだ、ジョゼ。あのお方を王に据え、我が子を王族から引き摺り下ろす。幸いにも、息子も娘もまだ恋や愛を知らないでいる。我が領地に連れ戻し、家族としての時間を取り戻すのだ……』


 目の前で繰り広げられる陰謀に私はため息を吐いた。

 どこか朧げな公爵家の景色は、私がほんの少しでも魔力のコントロールを手放せばたちまちのうちに消え失せる。

 こちらから干渉はできず、ただ傍観するしかない。


 【輝映(きえい)遡瞬(そそく)


 【光】属性の魔法でも、極めて扱いが難しいとされる魔法。

 対象の記憶を読み取り、過去の情報を紐解く。それは生き物だけではない。

 もっとも、受取手によって解釈が分かれる魔法だ。


 これが真実であると確信したとして、証拠として裁判や法廷に持ち出すことはできない。

 何故なら、一度きりの再現となるし、観測者によって表情や発言に多少の差が生まれるからだ。


「公爵夫人の振る舞いが妙だと思っていたけど、何かを企んでいるのは確実。あ〜嫌な予感してきた」


 手土産にあった呪文書と、背中を押す紙片。

 罠と知りつつも飛び込んだ身ではあるが、何か得体の知れないものが私をどうにかしようと企んでいることだけは分かった。


 部屋に展開した魔法を打ち消す。

 ついでに【換気の風】で気分転換もすれば、部屋に入ってきた侍女頭ミレーヌが今日の予定を告げる。

 最近では手慣れたもので、当初は『何か違和感が……?』と首を傾げていた勘の鋭いミレーヌですら気づかないほどに隠せている自信がある。


「殿下、私の話を聞いていましたか?」

「あ〜聞いてるよ。六歳の誕生日に、わざわざ側仕えの騎士気取りが挨拶に来るんでしょ。ったく、こんな王女になんで仕えたがるんだか」


 六歳の誕生日を迎える今日。

 【輝映の遡瞬】で再現した景色を見た今、彼らの息子であるレオを側付きの騎士として迎え入れる事に抵抗がある。

 しかし、側付きの騎士を迎えなければ外出もままならないのも事実。


「気が乗らねえ〜!」


 愚痴を溢す私を、ミレーヌは叱り飛ばした。

 どやされながら支度を整え、顔に不機嫌を貼り付けながら誕生日パーティーが開かれる城のホールに向かった。







◇◆◇◆




 お誕生日パーティーとはいうが、実際は内縁の貴族を呼びつけて親睦を深めるという政治色の強い催し。

 その中にはもちろん公爵家の面々も訪れていた。


「遠路はるばる参加ご苦労。じゃあ、解散!」


 扉を開けるなり、雰囲気をぶち壊しにする一言を放つ。


 このパーティーを成功させるわけにはいかない。

 公爵家の思惑も、レオの決意も、ここにいる貴族の企みも、何もかも関係ない。

 私の自由のために、私は全てを利用して捨てる。


 絶句する貴族たちを尻目に踵を返した私の前に立ちはだかる者が一人。


「こらこら、挨拶もそこそこに立ち去ろうとするんじゃありませんよ────アマリリス、私の可愛い妹」


 私の名前に敬称も付けずに呼ぶ女。

 王色の髪を誇るように流し、国王譲りの鋭い目に貼り付けたような笑み。


 ローズ・フォン・フェアトレード。

 『銀薔薇姫』との呼び名で広く親しまれる王女。


 私を見下ろすその目を見た瞬間に悟った。

 笑ってない目元に温度はなく、まるで柄の綺麗な虫にかけるかのように心にもない言葉を投げかける。

 周囲の人々は、気がついていない様子だった。


「あまり人の迷惑になるような言動をしてはいけませんよ?」

「うるせえクソババア」


 ほとんど反射的に暴言を吐く。

 たった数秒で場の流れを変えようとした事に対する反発もあったが、何よりも前世の記憶がある私にとって特に親交もなかった血筋だけの姉にあれこれ口出しされるのが嫌なのだ。


「────今、なんと?」

「だからうるせえって言ったんだよ、クソババア」


 貴族たちが息を呑む。

 いくら王族といえど、相手に暴言を吐いてはいけない……だが、私には関係ない。


「いちいち上から目線で命令しないでくれる?」


 私の暴言にわなわなと肩を震わせるローズ。

 こんな扱いをされたのは、文字通り生まれて初めてなのだろう。


「その気味の悪い顔、二度と見せないで」


 吐き捨てた一言の威力は凄まじかったようで、誰も私を引き留めない。

 いや、一人だけいた。


「お、お待ちください、殿下ッ!」


 私の側付きの騎士になりたがるレオ・ラウンドナイツ。


「待てと言われて待つ馬鹿はいない」


 律儀に彼を待つ理由などあるはずもないので、私は全速力で駆け出した。

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