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誘導される凡愚王女

 部屋に運び込まれた手土産の中から、一つの手紙を見つけた。

 既に人払いを済ませておいたので、何の躊躇いもなく開封して中身に目を通す。


「……至って普通のメッセージカードだな」


 紅茶の香りが染み込んだカードには、当たり障りのないお茶会に参加したことへの感謝の言葉だとか次も訪れて欲しいなどといったお願いが綴られている。


『フィリップ王太子殿下とローズ王女殿下にもよろしくお伝えください』


 兄と姉によく似た公爵夫人と王弟の姿が脳裏を過ぎる。

 考え過ぎだと断じるには、あまりにも共通点が多かった。


「なにこれ」


 紅茶の缶の下に、隠すようにして一冊の呪文書が混入していた。

 奥付けを確認すれば、何十年も前の古い代物で、公爵家の命令により複製された印鑑が押されている。

 それは、王女の身分では手に入れるのも難しい【光】属性の魔法についてとても詳しく記されていた。


 冊子の中から一枚の紙切れが落ちる。


『疑わしく思うなら調べてみろ』


 その紙が誰の筆跡なのかは、私にもわからない。

 何が目的で、どうしてこんな遠回しな事をするのかも。


「調べてみるか、兄と姉のことを」


 この国を出る時に使えるかもしれない。

 そう考えた私は、罠であると知りつつも本の内容に目を通した。






◇◆◇◆◇◆◇◆





 城の中で、大っぴらに魔法を使うのも難しくなったので、侍女たちの目を盗んで抜け出してきた。

 なにより、お騒がせな凡愚王女として名前が知られるようになってしまったので、数人の兵士たちが私の特徴を頭に入れた上で巡回するようになったのだ。


 なので、思い切って城の外へ。

 目当ては神官たちが集う大聖堂の教会だ。

 教会を歩いていると、司祭服を纏った女神官とすれ違った。


「あらあら、お嬢ちゃん迷子なの?」


 腰を落とし、視線を合わせて話す女神官に私は首を振る。


「いえ、ただの観光です」

「まあ、熱心ね。間も無く祈祷の時間になるわ。もし良かったらお嬢ちゃんも参加してね」


 フェアトレード王国では、勇者教と呼ばれる宗教が国教として定められている。

 神話の時代、魔物を統べる王を封印した勇者が興した国とされていて、初代国王から今に至るまで勇者の血統だと自称しているのだ。

 いくつもの城壁の外に広がる自然には、邪悪な魔物たちが虎視眈々と旅人を狙っている……のだが、その割には観光客や行商人が多い。

 なんでも流れ者や放浪者たちが徒党を組み、ギルドという互助組織を結成して魔物退治を専門に行なっているらしい。


 普通なら、武装した放浪者集団など真っ先に警戒する対象だと思うのだが、ギルドは初代国王である勇者の助言によって結成したという歴史ある組織なので、国王も見逃しているのだとか。

 勇者教の見習い神官や魔術師は、ギルドで実績や評判を積んでから声がかかるのを待つこともあるそうな。

 ようは持ちつ持たれつの関係。


 なので、場合によっては勇者教の神官が国王よりも街や人々の状況を知っていることがある。

 それはもちろん、政治や資金の流れなども含まれる。


「一つお尋ねしてもよろしいですか?」


 首を傾げる神官に向けて、私は【光】属性の魔法を使った。


「【光青(こうせい)の誘導】」


 瞳をとろんと蕩けさせた女神官は、人の来ない部屋に私を案内すると、饒舌に語り始めた。


「フィリップ王太子殿下とローズ王女殿下の名付けは、教皇倪下ならびに高位司祭が神託の儀式を取り仕切りました……神々の祝福を受けたお二人は、まさに勇者の再来と噂されるのも納得するほどで……」

「そう。二人同時に名付けが行われたの。それで、その場にいた貴族は何名でした?」

「あまり数は多くはありませんでしたね……国王夫妻と、公爵夫妻だけでした」


 先の婚約破棄で求心力を失いつつある王家にとって、嫡男と王女の顔は是が非でも社交界に広く知らしめたいもの。

 何らかの事情で王族だけで執り行うならまだしも、かつては政略争いまで繰り広げた王弟と妻を招いて名付けの儀式を行った、とは妙な話だ。


「そう、ありがとうね。じゃあ、あなたは私が部屋を出ていくと深呼吸をしながら三つ数え、この一時間に行った私とのやり取りを全て忘れる。いいですね?」

「ええ、そう、ですわね……」


 部屋の扉を後手に閉め、周囲に人気がない事を確認してから足早に立ち去る。


 それにしても、この【光】属性の魔法の便利さは凄まじい。

 相手を軽い催眠状態にさせ、望む情報を自ら伝えさせる。

 流石に相手が真実だと誤解していたり、そもそも知らない事は引き出せないという弱点はあるが、それを差し引いても便利だ。


「この世界にDNA鑑定があれば手っ取り早いんだけど……いや、あの魔法があったか」


 公爵家の手土産にあった呪文書に何もかも頼りきりになるのは癪だが、ここまできて断定できないもやもやに悩まされるのも迷惑。

 納得できるだけの情報は手に入れるつもりだ。

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