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城を彷徨う凡愚王女

 貴族にとって婚約は大事なもの。

 それを国王が破棄したせいで、政治には慢性的な不信感が蔓延している。


「俺、西の戦地になんか行きたくねえよ。ドラゴンの討伐なんざできるわけねぇだろ」

「ドラゴンなだけマシだ。俺は北方の反乱鎮圧だぞ」

「今月も賄賂代を確保しておかないと、最前線に送られる……」


 廊下を歩くたびに聞こえる、兵士たちの愚痴。

 同僚の誰が死んだ、次の勤務地は流行病が起きている、食料も満足に届かない……。

 耳にするだけで憂鬱になる話題ばかりだ。


 暗い顔をした兵士たちの後ろを通り過ぎる。

 見習い侍女の振りをしているおかげで、誰も私が王女だと気が付かない。


 王女として生活していると、周囲の情報が遮断される。

 食材の加工方法や噂話、出稼ぎに最適な仕事のある場所など、侍女に聞いても答えてもらえないどころか警戒される可能性が高い。

 今後は監視の目が強くなるだろうから、出来る限り情報を集めておきたい。

 そう思って、侍女の目を盗んで部屋を抜け出したのだが、この国の現状を目の当たりにするばかりだった。


「国王の婚約破棄のせいで傾いた国と心中するつもりはないし、王族とかかったるいし、いっそ逃げるか!」


 これまで曖昧だった目標を改める。

 それにはまず、自力で生きていけるだけの技術や知識が欠かせない。

 少なくとも十歳までには城の外に出たいから、監視の目を誤魔化しながら情報を集めるべきだな。


「アマリリス王女殿下ッ! どこに隠れているのですか!」


 どうやら時間切れの様子。

 失踪に気がついた侍女頭ミレーヌが、私を探しに来たらしい。

 しょうがない、ここは怒られて反省したフリをしつつ、情報を得よう。





◇◆◇◆◇◆◇◆




 父からのお咎めはなかったが、侍女頭ミレーヌは私がセシル皇太子を冷遇した事でお叱りを受けたらしい。

 事あるごとに命令をしてくるようになった。以前からも過干渉な節があったが、悪化していてて草も生えない。


「アマリリス殿下、どうして私の言う事を聞かないの!」


 最近は所構わずヒステリックに叫んでいる。


「あなたが役に立ってくれないと、私の心象が悪くなるでしょ!」


 どうやらミレーヌは側妃を狙っているらしい。

 あんな顔だけの男に上手く取り入れば、王族のような絢爛豪華な生活が待っていると信じてやまないようだ。こんな傾いた国の第二妃になったところで、甘い蜜なんて満足に吸えないと思うんですがそれは……。

 まあ、他人の事はどうでもいい。


「ふあ……」


 これ見よがしに欠伸をすれば、ミレーヌの沸騰していた怒りはついに限界点を超越する。

 顔を真っ赤に染めた彼女に、私は指先を向け、一つの紋様を宙に描く。


「【静寂の光】」


 仄かに水色の光が指先に灯る。

 呆気に取られたミレーヌの表情から怒りが消え、困惑した様子で首を傾げた。


「アマリリス殿下、今のはいったい……?」


 指先の光を消して、私は欠伸を繰り返す。


「さあ? 疲れが溜まってるんじゃない?」


 釈然としない様子のミレーヌだったが、時刻を知らせる鐘の音に気がついて部屋を退出していく。

 午後五時に、彼女は国王に王女の様子を報告する。

 恋する女にとって、たとえ事務的であっても男に会える唯一の時間なので、何よりも優先している。


「ふあ……徹夜で呪文書を読んで勉強して、実際に使ってみたけれど、疲労が凄いなあ」


 王族を辞めるプランはいくつか練った。

 魔法や魔術を勉強しているのは、その後の生活の為。

 国を出て、仕事や身を守る手段にうってつけだと考えた。

 武器は場所によって持ち歩けないし、メンテナンスなどの費用がかかる。その点、魔法や魔術は魔力を消費するもの。研鑽が必要になるけど、それほどお金はかからない。

 そう思って、廃棄予定の版落ち呪文書をこっそり回収した。ちなみに文官の管理が杜撰だったのでバレなかった。


 だが、呪文書によると、魔法や魔術を使うには素質と才能が必要になるらしい。

 七属性と呼ばれる火とか土とか水とか風とか光とか闇がそれぞれあって、適性のある属性しか使えない。

 ちなみに、私に適性があったのは【光】と【風】。

 【光】は最も攻撃力に乏しく、使い手そのものが少ない。

 【風】ともなると、補助的な効果しかないのだ。


 呪文書の中にあった唯一の【光】属性の魔法【静寂の光】。

 なんでも、興奮を落ち着ける作用があるらしい。

 自分に使ってみたのだがイマイチ効果はなく、試しにミレーヌに使ってみたのだが、どうやらそれなりに効果があったらしい。


「他の呪文書は管理が厳しいからなあ。これを練習するしかないかあ」


 また欠伸を一つ。


 魔法を使うには知識と実践しかない。

 近道になるかと思って手を出した分野だが、想像以上に上手くいかない事ばかりだ。とはいえ、乗り掛かった船を降りるのも気分が良くないので、片手間にやり続けていくしかない。

 というわけで、今日も部屋を抜け出して、使用人や侍女相手にこっそりと魔法を使って練習しよう。

 悪影響はないし、噂話に耽ってる不真面目なやつだけに使うから大して問題にならないでしょ。

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