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婚約を一蹴する凡愚王女

「あなた、本当につまらないわね」


 王城の庭に建てられた純白のガゼボは、幼い婚約者を出迎える為に白で統一されたティーカップに柔らかい香りで知られる銘柄の紅茶が注がれている。

 王族らしく頭の良さそうな金髪の少年セシルは、酷く困惑した顔で目を丸くしていた。


「え、えっと……ごめん、僕、何か怒らせるようなことを言ったかな……」


 どこかぼんやりとした性格。

 詰られているのに、自分に落ち度があったと考える軟弱な振る舞いに苛々が募る。


「怒ってるんじゃないの。失望してるの。分かったら、とっとと国に帰ってくれるかしら?」


 侍女たちが顔面蒼白になりながら狼狽えている。

 五歳同士の会話であっても、王族の会話に侍女たちは割り入れない決まりだ。後に雇い主である国王に報告するのだろう。

 つくづくアホらしい。


「そ、そんな……!」


 セシルは大きく見開いた目に涙を滲ませる。

 きっと、セシルも私と同じように親や側近たちに仲良くするように命令されているのだ。

 右も左もわからない子どもを結婚させて、同盟締結の証にする。あまりにもアホらしい。

 『燃えるような恋じゃなくても、お互いを尊重できるような関係を構築できれば……』とか言ってるやつほど、不貞や浮気にのめり込むんだぜ。


 護衛の騎士たちに気付かれないほど、微弱な“魔法”を展開しているおかげでセシルはどんどんと追い込まれていく。

 精神的な動揺による発汗を乾かす涼しい風。

 さらに空気の循環を滞らせ、体調を崩させる。


 相手に嫌われるには、人格の否定とダメージが必要になる。

 特にプレッシャーのある場面での体調不良は、強く記憶に残りやすい。


「そういうの、もういいから」


 会話を打ち切るようにガーデニングチェアから立ち上がる。

 この日の為に侍女たちが選んだ無駄に裾の長いドレスを翻し、怒りの形相で睨みつける侍女頭の視線を無視して庭を後にした。





「殿下、あれはどういうことですか⁉︎」


 婚約者の側近が周囲にいないことを確認するやいなや、侍女頭のミレーヌが叫ぶ。

 王族の使用人は、必ずどこそかの貴族令嬢や令息を雇用する。信頼する家臣から雇用することで、王家の威信を示すらしい。

 侯爵家の令嬢であったミレーヌは、こうして私のやる事なす事に文句を言う。


「煩いな、いちいち叫ばないでよ」


 もっとも、彼女が叫ぶのも当然のことだ。

 婚約者セシルは、隣国の皇太子。内乱で傾くフェアトレード王国を建て直す為に、王女を嫁がせて皇妃に据えて王威を強めるのが目的の婚約。

 それをブチ壊したのだから、政治に関心のあるミレーヌにとって憤死に近い怒りを覚えてもしかたない。


「よりによって、皇太子殿下を相手になんという暴言と振る舞いを! 王国を滅ぼすつもりですか!」


 ミレーヌは知っている。

 フェアトレード王国が傾いた原因は、国王による横暴によるものだと。


 国王は学園で出会った男爵家の令嬢に惚れ込んで、晴れの舞台である卒業式の場で婚約破棄を王妃候補に突きつけ、何の罪もない元婚約者を修道院送りにした。

 表向きは元婚約者による不貞とされているが、誰もその話を信じてはいない。王妃を擁立できると思っていた貴族はもちろんご立腹。賠償金の額に納得せず、敵国に資源を流した末に亡命した。

 そのツケを、よりによって自分の子どもに支払わせている。


「滅べばいいんじゃないかな、こんな国」


 皇妃となれば、国王は自国の為に諜報活動を命じるだろう。

 あるいは、一方的な条約を締結するように持ちかける。

 あの国王は、国の未来すら考えていない。

 王妃に据えた男爵令嬢の憧れる『理想の夫』を演じる為ならば、何人も踏み潰していいと思ってる。

 流石の私も、あまりの頭空っぽさに呆れるしかなかったね。


「殿下!」


 咎めるミレーヌの手から逃げる。

 かつて私を叱っていた平手も、届かなければ意味はない。

 ひらりと窓枠に飛び乗り、見上げる彼女に向けて微笑む。


「クソ親父に報告しておいて、『婚約は破棄だ』ってね」


 ミレーヌは顔を歪めた。

 国王の為に王妃候補の不貞を証言した功績を認められて、私の乳母と教育係になった彼女にとって、私の一言は効いたらしい。

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