9 終わりよければすべてよし
男同士の恋愛物語が………好き????
「で、ですから!白い結婚のことも殿下の側にいれば間近でその光景を見られると思い、楽しみに……っいえ、むしろご褒美だと………じゃなくて……っ」
一生懸命弁明しようとしているようだが、むしろ悪化している。だが、そんなことがどうでもよくなるくらい、動揺していた。
「つ……まり、ミリーはあの噂を聞いて、私との結婚を快諾した……と?」
「そういうわけでは、なかったはずなのですが………結果的に…?」
いまいち要領を得ない発言だが、少なくとも、ミリーは私の男色疑惑を真実だと思っていて、それを期待して私の妻になったということは間違いないようだ。
「…断じて言うが、私は男をそういう意味で好きになったことは一度もない…っ」
「その…よう、ですわね」
少し顔を赤らめて肯定するミリー。昨夜のことでも思い出したのか、私から視線をはずそうとする。…あぁ、もうどうしてこう…っ。
だから、私は頬を引き寄せて、私の方を向かせた。
「私は、誰も愛せなかった。愛し方を…知らなかった。
…それを教えてくれたのはミリフィーナ、貴女だ」
「で、殿下……っ」
白い結婚だと冷たく突き放す私を笑顔で受け入れ、公務に手を抜かず侍女や騎士らとも友好的に接し、慈善事業にも力を入れて私のサポートをしてくれた。
結婚を受け入れた理由は…今初めて知ったが。
そんな誤解があったとは正直思いもしなかったけれど、そのお陰で良好な関係を気付けていたのなら、まぁ、良かったのかもしれない。
……ダイアンと恋人など冗談ではないが。
と、いうことは…。
「ミリー…?」
「ふぁっ、はい!?」
…ミリーは私の声に弱いらしい。
それは、今は置いといて。
「ダイアンとの稽古の時に、あいつのことを見ていたのは…?」
「…は、はい…っ、お2人のあれやこれやを妄想しておりましたわ……っ」
…妄想、いや想像するな!!
「…では、リヴィウスのことはどう思ってる」
「幼少期に趣味がばれて以来、呆れつつも私の趣味妄想に付き合ってくれる貴重なお友達ですわ!」
あぁ、これは本当に友達としてしか見ていないな。
…あの男、あんなにも分かりやすくアピールしていたのに…。
ミリーが鈍感で助かった。…でなければ、とっくにリヴィウスのものになっていただろうから。
「それなら………私は………?」
「………っ!!わ、私の………旦那様……ですわ………」
真っ赤になって目を逸らそうとするが、私は未だに頬を両手で包んだまま離していない。好意は感じている。…けれど、もうそれだけじゃ満足出来ない。
「私のことは……好き………?」
ちゃんと素面の時に、聞きたかった。
「……っ!!
わ、私……っ、その……好き………ですわ」
とてもとても小さい声だったけれど、確かに聞こえた。
嬉しくて嬉しくて、抱き寄せて口付けて息をするのも忘れるくらい貪った。
「………愛しているよ、私のミリー」
腕の中でくったりとするミリーは照れ臭そうにしながらも、嬉しそうに頬を染めて瞳を細めた。
その貴族らしからぬ素のミリフィーナの魅力にどっぷりハマってしまった私は、そのまま次の日の朝まで抱き締めて眠った。…まぁ、ただの抱擁で終わらせるわけはないのだが。
翌日、動けないミリフィーナを見た侍女頭に大層怒られたが、私の過去のトラウマを知っている彼女はそれでもどこか嬉しそうにしていて、私は周りが見えていなかったのだなと反省した。
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正直、未だに女性は苦手だ。ミリーと結婚してからも愛妾を狙ってくる者、離縁を願っている者は一定数いて、自分の方が相応しいと勘違いする者は多い。
ミリーでなければ、誰でも一緒なのだ。いい加減気付いて欲しい。私が今後共にいたいと思うのは、妻1人だ。
最近では牽制の意味も含めて社交の場では殊更愛を囁くようにしている。でないと、ミリーにちょっかいをかける輩が出てくるからね。
『人が変わりすぎではございませんの!?』なんて真っ赤になりながら言うミリーは可愛すぎて、私は何度も翻弄されるのだ。
仮初の妻だと思っていた人は、私の最愛となった。
こんなにも気になって目が離せない人になるなんて、あの時は思いもしなかった。
初夜からもう一度やり直したい気持ちもあるけど、あの日があったから今の私達がある。妻の包容力に感謝して、生涯愛し続けると誓うよ。
ーわたしの、仮初の妻だった、君へ。
私から愛を込めて。
これにて終了です~!
短編でさくっと終わらせたその後の部分がこんなにも長くなるとは思わず(笑)1話分で終わらせる予定が延びました!
シリアス全開だったライオネルが、ミリフィーナと出会ってちょっとギャグになってきてしまったのは私も想定外でした。
皆様に少しでも楽しんで貰えたら嬉しいです~!
【蛇足話】
「ミリー?」
「はい?」
「貴女は何をそんなにワクワクしているのかな……」
「……え?それは、その…ただ、麗しい殿方同士の仲良くしている姿は素敵だと……」
「ミリー」
「は、はいぃ~っ」
「私はっ、男色では、断じてない、からね?」
「ぞ、存じ上げておりますわ…っ」
「だったら……そんなに他の男を見つめないで。皆が勘違いする」
「へ?」
「…はぁ、やはり無自覚か……」
趣味は早々変えられないお気楽ミリフィーナと、そんなミリーの無自覚の可愛さに振り回される苦労人ライオネルなのでした。